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ヨムヨムエブリデイ

冬の楽しみ

3月のライオン

冬のセールで気に入って買ったコートが硬くてなかなか馴染まないので、急いでいる朝はつい着慣れたダッフルコートに袖を通してしまう。何年か前にでた村山由佳『ダブル・ファンタジー』の広告だか帯だかのコピーに「ほかの男と、した? 俺のかたちじゃなくなってる」というのがあって、え、マジか、そんなのわかるのかと思ったのだったが、それはともかく、コートは長年着続けていれば、ちゃんと「俺のかたち」になってくれるものだ。
ダッフルコートには昔(おそらく小沢健二が<寒い冬にダッフル・コート着た君と原宿あたりを風を切って歩いてる>と歌ったころ)から愛着があり、おじさんがざっくりしたオーソドックスなダッフルコートを着ているのもいいし、ダメな感じのする細い男の子が着ているダッフルコートもたまらん。ダッフルコートの女性といったら、ジョディ・フォスターを思い浮かべる。『白い家の少女』とか『羊たちの沈黙』のグリーンのダッフルコートが似合っていた。
毎日新聞読書欄の放浪・この3冊に都築響一さんが宮本常一の『忘れられた日本人』(岩波文庫)の「土佐源氏」を選んでいた。あの都築さんが<せめてこんなに美しい物語を、死ぬまでにひとつでいいから書いてみたいというのが、いままで話したことはないけれど、僕のいちばんの願いなのだ。>とまで書いていたので、久しぶりに読み返してみた。牛と女はだまさなかったというのがいいなあ。ついでだから全部読んでみよう。
「俺のかたち」になったダッフルコートを着て、風を切って歩きながら、肉まんと今川焼きをハフハフ食べた冬晴れの午後。