an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『女神』久世光彦

女神(じょしん)

女神(じょしん)

「女は強い、女は抽象的な問題で死んだりはしない、「産む性」に生まれついたということは、生きるということに「前向き」に出来ているものなのだ」(中野翠『甘茶日記』より)そう、したたかなリアリスト、それが女であるはず。しかしこの人は。この女性は。

小林秀雄菊池寛河上徹太郎大岡昇平など文壇の堂々たる男たちを虜にし、昭和一の骨董目利きであった青山二郎とこれまた昭和一カッコいい婆さんであった白洲正子を終生の友としながら、若くして自死を選んだムウちゃんこと坂本睦子。
この小説は、ムウちゃんの静かなモノローグの間に時折著者のナレーションが挿入される形をとって展開されます。 さすがに久世光彦、エロスが匂いたつような美文をもって、いつも物憂げに放心したようなムウちゃんの色っぽさを余すところなく描き出しています。
この人は男たちにも、生きることにも執着がなかった。疲れ果ててしまった。哀しいことです。 「愛」とはいったいなんだろうか、と少しばかりセンチメンタルな気分になれることでしょう。そういう気分もたまには良いものです。 本書に興味をもたれたら、『白州正子自伝』もあわせてどうぞ。白州正子がムウちゃんをするどく分析しています。やっぱ女の目はこわいねえ。
(2006.2.15記)


>追記
久世さんもお亡くなりになりました。
この人はなんだか、「女」というものに美しい幻想を抱いていたような気がします。なので、女の私からすると、その小説は時にファンタジーのようであったりします。
ちょっと目先を変えて、こちらもどうでしょう。

ニホンゴキトク

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