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2015-03-08

古本まつりの記録

今更ながら、知恩寺古本まつりの成果はどうしても書き留めておきたい。興味のある方はぜひ手に取ってみてください。

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◆『思い出す事など』夏目漱石

思い出す事など 他七篇 (岩波文庫)

思い出す事など 他七篇 (岩波文庫)

未読の漱石が100円均一とあっちゃあ、見逃すわけにはいかないわね。



◆『東京に暮らす』キャサリン・サンソム◆

東京に暮す―1928~1936 (岩波文庫)

東京に暮す―1928~1936 (岩波文庫)

英国外交官であった夫とともに昭和初期の東京に暮らしたキャサリン・サンソム。本書はまるで友人への手紙のように、やさしい調子で綴られた日本観察日記だ。
食事に買い物、女中や労働者とのやりとり(庭師の章がいい)などごく身近なことから、日本人の伝統文化や礼儀作法、娯楽や女性についてまで話題も多岐にわたっている。
「外国人が見た日本人」がとても愛おしく感じられるのは夫人の人柄によるものだろうが、そこは英国人、時折ピリリと皮肉を効かせ、臆せず自分の見解を述べるところも小気味よい。
マージョリー・西脇(西脇順三郎の元奥さんですって!)による、表情豊かで柔らかなタッチの挿絵もとてもいい。



◆『クリオの顔 −歴史随想集−』E.H.ノーマン◆

クリオの顔―歴史随想集 (岩波文庫)

クリオの顔―歴史随想集 (岩波文庫)

クリオとは歴史の女神で、内気で恥ずかしがりやのため、めったに人に顔を見せることがないという。そんな女神に惹かれたカナダ出身の歴史学者によるエッセイは、いかにも学者さんらしい生真面目な文体で、学問に対する真摯な姿勢と深い洞察が冴える一作である。
聞きなれぬ人名や次々に展開される論説についていくのに難儀したけれど(再読必至や・・・)、幕末の日本社会に思わぬ揺さぶりをかけた民衆の特異現象「お蔭参り」「はやり唄」「ええじゃないか」について、文献を丁寧に考察した『「ええじゃないか」考 −封建日本とヨーロッパ舞踏病』がおもしろい。



◆『パリの女たち』海野弘

パリの女たち―旅をする女

パリの女たち―旅をする女

鹿島茂先生同様、外国の文化・風俗に関しての軽妙エッセイの書き手として、目につくとつい手に取ってしまう海野さん。この人は陰謀とかスキャンダルとか、そういう下世話でミーハーなものもお好きで(鹿島さんも下ネタ好きだけどね)、さっと読めて楽しめるお得感のある一作だ。
本作は、女優サラ・ベルナール、女書店主シルヴィア・ビーチ、通信記者ジャネット・フラナー、アール・ヌーヴォーの踊り子ロイ・フラー、作家ガートルード・スタイン、ダリの奥方ガラ、エディット・ピアフなどなど・・・それぞれ超が付く個性派の女性たちと、花に群がる蝶のように次々と現れる芸術家たちとの波乱の生涯の一場面をスケッチしたものだが、ある章は小説風、またある章は手紙風と文体に工夫を凝らして小粋な仕上がりとなっている。
巨大な象牙の腕輪を手首から肘までびっしり装着し、腕を動かすたびにガラガラいわせていたという20年代の伝説的フラッパー、ナンシー・キュナードがビジュアル的にもひときわ印象的だった。パリにはエキセントリックな女がよく似合う。



◆『大博物学者 南方熊楠の生涯』平野威馬雄

大博物学者―南方熊楠の生涯

大博物学者―南方熊楠の生涯

熊楠の評伝なら神坂次郎の『縛られた巨人 南方熊楠の生涯』が広く読まれているのだろうが(たしかにおもしろい)、詩人でありフランス文学者であり、重度の薬物中毒者でオカルトマニア、そしてご存じレミパパでもある一大畸人、平野威馬雄が書いたとなれば好奇心も膨らむというもの、思わず手が伸びた。
幼少期からの「先天的な考証癖と超人的な博覧強記」と南方家の風変わりな家紋「釘ぬき」を絡めたエピソードはこの堂々たる評伝に相応しいわくわくする幕開けだし、海外滞在中の壮絶な貧乏ぶりと数々の奇行には初めて聞くものも多く楽しめる。が、著者は熊楠に心酔するあまり、興が高じると「南方翁のすごさは私ごときでは到底お伝えできぬ。だが諸君、幸い翁は膨大な書簡・記録を残している。私が厳選したものから翁の肉声を大いに感じ取ってくれたまへ」とでも言わんばかりに、候文の手紙や晦渋な報告書などが延々引用されるのだ。これがもうホント読みにくいったらない(しかも肉声聴こえねえし。苦笑)。
まあ、これも当方の浅学のいたすところ、ゆるゆる読み進めるとするか。



(2013年12月27日記)

2015-01-12

ある日。

吉村昭『零式戦闘機』『破船』、大江健三郎の初期短編、安彦良和『虹色のトロツキー』など、連日凄みのあるものばかりをガツガツ読んでいて、ハタと気が付いた。

・・・・・・いくらなんでも色気がなさすぎる(読む本に)。
そうだ、驚異の新人と目されるあの人の話題の恋愛小説を、この機会に一丁読んでみようではないか。


沈むフランシス

沈むフランシス

松家仁之『沈むフランシス』
東京での仕事も同棲も解消し、幼いころの記憶に呼び戻されるかのように単身北海道へ移り住むことになったヒロイン・桂子。

「いまっていうのは、経験と記憶のうえにたよりなくのっかっているものだから、ときどきはふり返って、自分はどうしていまここにこうしているのか、考えてみたほうがいいんじゃないの。」

しかるべき時にこういうことをさらりと伝えることのできる聡明な女性だ。
しかも娘時代はもちろんのこと、無骨な郵便配達員の制服に身を包んでいる時でさえ男たちから性的な視線を投げかけられるという、いわゆるの「いい女」。
その彼女がひょんなことで知り合い、あっという間に恋に落ちるのが、「音」に異常とも思えるこだわりをみせる、謎めいた1人の男。
つまり一言でいうと「北の大地で繰り広げられる、いい女といい男のラブロマンス」なわけだが、余計なことに私は『ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンとくるサウンドを求めて全国探訪』という快著を読んでおり、オーディオマニアの正気とは思えない実態を垣間見ている。

だから、音質を追求するあまりマイ電柱を製作するような御仁がですね、本作に登場するような「きれいな指で」「清潔な笑顔で」「美味なシチューを手際よく作れて」「ミントや石鹸の匂いがする」イケてるメンであるとはどうしても思えず(笑)、小説の世界にすんなり入り込めなかった。気持ちよくのれなかったのである。

まあしかし、当然のことながら単なる「いい男」ではないということが徐々に明らかになり、おっと思うような濃厚ラブシーンなんかもあって、物語はしっとりした情感とほろ苦さを漂わせる展開になってゆく。二人の背景となる季節の移り変わりの繊細な描写はおそらく著者の真骨頂、冬の日に雪の結晶が舞い落ちるシーンは美しく、「フランシス」はじめ小道具の使い方もユニークだ。
あと、何か得体のしれないものにつき動かされてどこかへ放出される、という冒頭のイメージが鮮烈で、映画のオープニング的な高揚感もあって一気に読ませる手腕はさすがである。
そうさなあ・・・フランソワ・トリュフォーの大人な恋愛映画が好きな人なんかは、スムーズに気持ちよく酔える小説かもしれません。


(2013年12月27日記)

追記:トリュフォー、いつまでも人気ありますよねぇ。『華氏451』はちょっと観たい。


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2014-12-25

映画メモ

最近楽しんだ映画2本ばかりを一言コメントで。


    ◆『ハンナ・アーレント』マルガレーテ・フォン・トロッタ監督

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この渋い作品が岩波ホールを連日満席にしているという。
かの有名なアイヒマン裁判に関わった哲学者ハンナ・アーレントの思考の軌跡と葛藤がメインテーマと聞けば、高尚でお堅い作品を想像するところだ。
が、主演のバルバラ・スコヴァが抜群にかっこいい上(ドイツ語なまりの英語!タバコの吸い方!)、余計な感傷を排し立場の違いを明確にして、わりにわかりやすい形で哲学的諸問題を提示するスタイルがよかったなと思う。
アーレントという人をもっともっと知りたくなる映画だ。



     ◆『ゼロ・グラビティ』アルフォンソ・キュアロン監督

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はい、楽しみなあまり公開初日に観に行きました(笑)。
うわああああああ!と脳内絶叫すること数回、「2200円で宇宙に行ける」というネット上で拾った言葉は大げさでない。そしてJ・クルーニーは「史上最高の上司」、もうけ役(笑)。

(2013年12月27日記)



追記:クリスマスシーズンにこんな映画を観に行ってしまう自分に乾杯・・・ (あるいは合掌)

f:id:yoneyumi0919:20141225181937j:image          (2014年 於:京都文化博物館)


メリィ・クリスマス!

     

2014-12-11

中川六平という人

犀のマークでおなじみの出版社、晶文社の名物編集者に中川六平という人がいる。晶文社の本を何冊か愛読しているとはいえ、その名を知ったのはごく最近で、今年の9月に急逝されたことも知らなった。
その中川六平さんをよく知る二人が、京都で追悼対談をするという。
よっしゃ、とばかりに勇んで会場の小さな書店へ向かったのは、対談するのがこの二人だったからだ。

◆『古本の時間』の著者、内堀弘氏
◆『ボマルツォのどんぐり』の著者、扉野良人氏

古本の時間

古本の時間

ボマルツォのどんぐり

ボマルツォのどんぐり

内堀さんは、昭和の初期に小さな出版社を作った1人の青年を追った名著『ボン書店の幻 モダニズム出版社の光と影』でファンになり、本と古書店主をめぐる滋味あふれるエピソードを集めた近作『古本の時間』もすばらしかった。
パッと見はキッチュ松尾貴史を白髪交じりにし、柄谷行人を軽くMIXした感じ。こういった場で話慣れておられるのか、歯切れのよい先生口調だ。うん、私のイメージどおり。
もう一人の風変わりなペンネームを持つエッセイストは私の一つ年下で、本職はお坊さんである。著書はタイトルこそ澁澤龍彦にインスパイアされているものの(『ボマルツォの怪物』ね)、目次には「花咲き鳥うたう現実を拾いに−永田助太郎ノート」「辻潤と浅草」「彼、旅するゆえに彼−田畑修一郎」「能登へ−加能作次郎」「小田原散歩−川崎長太郎」等々が並び、思わずのけぞりそうになるほど恐ろしくシブい読み手である。
どんな老成したお方かと思いきや、フィギュアスケートの織田信成選手を思わせる、人懐っこそうな笑顔を浮かべておっとり話す好青年だ。驚いた。
ボケとツッコミ・・・とまではいかなくとも(笑)、好対照でバランスのいい二人である。

傍聴者は出版社関係の方が多いらしく、周りは「やあ、どうもどうも」ってな調子の和やかなムードだ。・・・・・・私みたいな部外者がいていいのか?狭い会場内で募るよそ者感。
いやいや、坪内祐三『ストリート・ワイズ』、高橋徹『古本屋 月の輪書林』、荻原魚雷『古本暮らし』、そして『ボマルツォのどんぐり』と『古本の時間』・・・六平さんの作った本を5冊も読んでりゃここにいる資格あるだろ、と自分にそっと言い聞かせてみる。

追悼対談と銘打っているが、健在であったときから話題に事欠かない人だったようだ。
同志社大学に入って岩国で反戦デモに参加してそのまま反戦喫茶「ほびっと」のマスターになって鶴見俊輔に心酔・・・と聞くと、ある種のイメージが湧いてくるが、「六平さんはね、俺は誰々(←著名人)と知り合いだから、というようなことを仄めかす人間が、とにかく嫌いだったよね。」という言葉でその姿が明確になる。たたき上げの苦労人で権威に媚びる奴が大嫌い。本作りはズバリおおざっぱだったけど、埋もれた原石を見つけ出す勘は誰よりも鋭かった。
坪内祐三、石田千ら少数の売れっ子以外は採算を度外視して「自分の読みたい本」を作った。著作の帯にトンデモな宣伝文句を書くかと思えば、ぐうの音も出ないほど的確な指摘をしたりする。親しい人間にはずけずけものを言ったが、皆に愛された。
ハラッパ的編集者(by山口昌男)、中川六平。なかなか魅力的な人である。


(2013年12月27日記)

2014-11-20

外国人が見た日本、日本人が見た外国

ゆる〜い異文化体験エッセイが人気の昨今ですが、ちょっと変わり種2冊を紹介しよう。どちらも素敵な表紙だ。


◆『英国一家、日本を食べる』マイケル・ブース著◆

フード・ジャーナリストである著者が、家族を引き連れて日本縦断食べ歩き旅行にやってきた。
家族連れならではのハプニングを含め、英国流おとぼけジョークが随所で効いていて、いやはや予想以上におもしろい本だった。
巨大なトーキョー・シティに呆然とたたずみ、北海道でラーメンに感激し、大阪で幼い息子たちと焼き鳥を楽しみ、沖縄料理で長寿を考察し、SMAPのお料理ショーに感心する・・・時には京都の高級料亭に招待されたりもするけれど、基本的にはカジュアルスタイルで「日本食のフシギ」にどんどん飛び込んでいく。
彼の持つ日本への違和感や疑問や賞賛はジャーナリストらしく正確な言葉で具体的に示され、「ほほう、そうきたか」と呻らされること多々あり、しかもコミカルで楽しい読み物なので、ぜひお気軽に手に取ってみてください。

*追記 
この本はベストセラーになり続編まで!(パクリ本も見た!笑)



◆『ヨーロッパぶらりぶらり』山下清◆

ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫)

ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫)

山下清の文章かあ・・・なんかそういう拙い感じの作品が好きな人もいるけど、私は別になあ。アール・ブリュットもあんま好きじゃないし・・・と読んでもいないのに思っていましたが。
いや、いいですわ山下清。読ませる。
旅行中の走り書きメモを時系列に並べたようなものではなくて(←そういうものかと思っていた)、思いのほかまとまった、立派な旅行記に仕上がっている。(原文は句読点も改行もカッコも一切ない悪夢的なものらしいが。笑)
子供のように率直な微笑ましい感想があるかと思えば、妙に理屈っぽいこだわりを連ねたりもする。奇を衒わない文章っていいな、と感じる。
石畳の街並みを描いた細密スケッチは感嘆のため息が出る見事さだ。

本中に頻繁に登場する「先生」というのは式場隆三郎博士のことなのだが(ここでも取り上げました ⇒ http://d.hatena.ne.jp/yoneyumi0919/20111110/p7)、この二人の間で交わされる会話がこれまたいい味なのだ。
山下清は見知らぬ土地に興奮して、「窓を開けていいですか」「さわってもいいですか」的なまだるっこしい質問を何度も繰り返すのだけど、その度にきちんきちんと言い含め「こうなったら清も困るだろう。だからこうするのだ。」と丁寧な説明を惜しまない。そこに注目した解説の赤瀬川原平の言葉だ。

山下清の手記の中に出てくる式場先生が、何だかすごく実感がある。ヨーロッパ旅行を全部随行して、山下清にいろいろ注意というか、ごく当たり前のことを教えるんだけど、その当たり前の感じが凄くいい。常識っていいなあ、と思えるのだ。


最後は本文より、私の好きなワンシーンで締めくくろう。

式場先生が「これは山下清ですが、こんどの旅行のマスコットです」というので
「マスコットというのはなんですか」ときくと「たからものという意味だよ」というので
たからものならもっと大事にしてくれてもいいがなあと考えていると、領事かんの人が
「山下さん、ヨーロッパにきてなにかほしいものがありましたか」といわれた。
あまりきゅうだったし、まだヨーロッパはさっぱりみていないので、
みていないものはなにがほしいかきめることができない。

(山下清『ヨーロッパぶらりぶらり』より)


*追記
赤瀬川原平さんのご冥福をお祈りいたします。



(2013年11年1日記)