記憶に新しい

2014-08-10

川のお父

おまえのあき地を荒らす草の線、わたしを通せんぼする
雨の線とがいり交じる点に立つ
まるい地蔵
あれは見えていいはずのない、埋められたことへの怒り
匂いたつ吐息そのものよ

川のお父のシャベルもつ手がふうじこめたもの
掘り起こされた具合を踏みかためて、おおよろこびで
坂をかけ上がる足は肉付きのいい山びこ
いったりきたりする
唐桑のお兄から牡蠣がとどいて、火にくべていく
二人のすがたは
海沿いのぶいを横切る名札が
持ち主の子に会えない決まりを渡してくる
ほんとうの親子みたいだった

地蔵からしみだすものを受ける土手
まだ枯れてない井戸犬小屋のとなりにあって
影の三四が
夜ごと庭でおどっていた
じわじわと水のふくらむ音がする。その底にたまるのは
川のお父とが
かたつむりを踏みしだく
ただのわき水だと言いふらすように
前を横切ってすこし
こっちを見る目が、顔一つにつき二つある

その目に一個ずつある井戸のおもてが
ちがう色の山、ちがう川。
それぞれにもつおどり場には
映り込む。
五感をたしかめるお父の指がおちている
お兄の牡蠣はまだあるよ。
蝿に手渡す殻とすり替えられた
戻れますように。
あんなにおいしかったのは
舌を研ぎ澄ませれば見えてくる底で
道具を突き刺す、なにも知らない測量屋さん。
へばりついていた
怒りのたぐいなのでした。

2014-07-28

匂い(2013、2008、2011)

お前が蟹を食ってきたことは匂いでわかる
匂いは、物の影から立ち上るのでない。ツナぎ目が
こすれ合う音を
感じ取ろうとする鼻に付着する。筋肉の粉の
ようなものだよ
まさひさんが家だったものを
ひっくり返し、赤いペンキでバッテン描いて
日が暮れる

朝方にふる雨は宝物になる
葉にたまる雨は
ちいさな山の姿も映る
遠くの坂道も見えるそこはまたちがう山、ちいさな
わたしたちがいて、みんな鬼だった頃の
遊びをしている

二〇ぐらいバッテン描いた、と
せめて意気揚々言えばいいのに悲しむ 行き場を据える権利が
取られる
夕ごはんは今日も中身のないカレーだと
おもうそばから顔出すジャガイモが切なそうだった
年がら年中
いのちを食ったと言って何の足しになる。
わたしは食ねよ。
あー東京も今きっと満点の星空だろう 何が
言いたい。
ふらす雨雲と晴れのツナぎ目
とびこえた足だけが
もう右手の山の峠を駆けぬける
写真ならその涙もにじまないよう表面に
膜が張ってある
カき届こうにも日付は
匂いだけ

2014-05-19

あかるいうちから夜になる

ふたご山は遠く
花火を野宿した
まな板にした体の上を
色とりどりの電車が横切っていくこの窓は
あかるいうちから
夜になる

そのことを町と呼んだとき
川に溶けていく昔
お世話になった遠藤さんが
泣いていた こわい牛を見て泣いたんだって
その牛の声は
こだまになって
ぬりつぶしたような影が落ちてくる
本当はずっと家がこわい
おおよそ
家と呼べるものがあるのなら
ひざでもないところから垂れてくる水で
すすいだ顔が
昼間の川を流れていく表面は
ふろしきのような町を
つつみこむ空が横切っていく

記憶ですむなら
おぼえておく必要なんてないんだよ 遠藤さん
りっぱな肉を身につけて
川上からやってくる
この風があたらしいんだよ あの顔も
鳴り響いているのがわかるでしょ
駅のちかくで
おおきな花火の打ち上げがあって
しかるべき場所にしかるべき石がおかれているのだ
たぶん 帰ろうとおもう場所に
家を建てるのだ

2014-02-12

眠れ

道ばたの雪がまだ
残っていたひとを
忘れないように摘み取っていく

大丈夫、今日も旅館でいられた
顔洗うひと、ねむいひと
ねたいねたいと言うひとを
箸でつまんだ
腰の骨 ふとんなら
へやの裏にある
みたこともない場所をすこし壊した
こうした努力が
手の鳴る、もっと近くで聞こえる
死んでも野山を駆け巡る その顔は
とてもうれしそう

店先はお祝いの花をもいで帰っていくおばあさん
このあいだ さむそうな犬が
顔の力で立っていた

2013-12-30

木製の悪霊

風習で絵を描いて!
娘がはじめて口にした音を
口にした
洗濯物を取り込むように
痙攣しているだけでよかった

おかしなことに
義足を食べて生き延びた
わたしたちが
実話だけで歩いていた頃は
死んでしまった
自分たちを整理するために
ひとの時制を暗記しようとする口が
嗅いでいた足の
においがする 娘の
悲鳴が
眠りにつくのを待っている

テーブル、角が尖った、木製の
悪霊から
足を洗うときがやってきた 頬を
テーブルの上に呼び込んだ
ずっと夜
ここに住んでいたらしい
中身のない会話に煙草を費やしている
便箋は
冬がよく燃えた

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