Hatena::ブログ(Diary)

月のひつじ

2009-11-19

秋の夜長のフランス

フランスといえば、ボクにとってはツール・ド・フランスジュール・ヴェルヌの国ということになる。

ワインじゃないのか? と問われるさいには、ボクにとってのワインドイツはシュワルツ村のそれと、チリのピニャ・サンペトロ社のガトー・ネグロを一に挙げるのでフランスワインはちょいと後退したところに置かれる。

ランス・アームストロングが驚異の7連覇でもってツールを征した頃に、ボクはオートバイで事故って… 以後、トラウマとしてオートバイに乗れなくなり、代わって自転車に乗るようになった。

当初は難儀したものの、次第に自転車というバイクに身体が馴染んできたら、もうこれ以上に我が身丈にあった乗り物はないと思えるようにもなった。

ロードバイクにこそ乗らないけれど、自転車は最高にいい…。

ランスが引退して以来は、必ずというワケでもなくなったけど、今も毎年のツールのレースには関心を持つ。

今から30年ほど前に、このフランスで2週間ほど過ごした事がある。

その頃にはランスもいなければ、ヴェルヌに濃厚に魅かれてたワケでもなかったけれど、フランスの空気の感触が好ましかった。

地下鉄に乗ると、体臭としてのチーズの匂いがあって、

「あらま〜」

と、乗るたびに感心したものだった。

当時はまだジプシーの子達が繁華な観光地の一筋裏にたむろっていて、カモが来たなと思うとワラワラ出てきては、お金をねだるのだった。

一度、ノートルダム寺院の近くで、この子らに囲まれ、咄嗟にカラテの真似をしてみせると、その子ら全員の肩がビクリと戦慄し、数歩飛び下がり、眼が怯えているのが直ぐに判った。

よく見ると、子達の顔には傷があって、それは大きなケガとしてのそれではなく、きっと誰かに殴られたであろう、あるいは転ばされて擦ったみたいな感じのものだった。

子供の勲章というには痛ましく、また、その怯えた瞳とあいまって、ボクの中のフランスの子供のイメージは、これで定着してしまった。

今はジプシーとは呼ばれず、ノマドという本来の名で呼ばれている彼らは、30年ほど前のあの日は、フランス市民ではなかったろうけれど、セーヌのほとりで見たその眼達は、今になっても、ボクの"フランスの子供たち"なのだった。

クリニャンクールの朝市で、真っ白い宇宙服を売っているのにもオドロイタ。

ロシア製の本物で、なんでこんなモノが? と訝しみながらも、ちょいと欲しいなと思ったもんだ。

ボデイ部分とヘルメット部分が一体になっていて、ヘルメットの透明なバイザー部分が朝の日差しを受けて眩しく光ってた。

地上での訓練用と思われる。

確か、7000フランの値がついていたと思う。

当時の額面でいえば、38万円くらいかしら… とても高くて買えたシロモノではなかったけれど、それが朝市の露天に吊るされているのが面白くもあった。

「ここに宇宙服ありますよ〜!」

な仰々しさもなく、他の、ごくごく普通の古びた背広などと、栄光も誇りも奪われたアンバイで、ただの一着のスーツとして、一緒に吊るされているのが可笑しかった。

その宇宙服の向こう、およそ300mくらい向こうの市場の中に、モデルの山口小夜子さんが歩いているのを目撃して、えらく… 嬉しい気分になったことをよくおぼえている。

その小夜子さんはもうこの世にいない。

ロシア製のスペーススーツがその後にどうなったかも知るよしもない。

この朝市で買ったのは、懐中電灯だ。

f:id:yoshibey0219:20091119023453j:image:left

角型の電池を用いる方式で、電池の形式といい。日本にはあまりない形だったので魅かれた。

ハロゲンでもなんでもなく、さほどに明るいモノでもないけれど、な〜〜んとなくヴェルヌの「地底旅行」が想起される逸品だったゆえ、買った。

もちろん、かの「地底旅行」にこれが登場しているワケもない。

ワケもないけれど、近似な、何か、こういった雰囲気のカンテラが想起されたんで興を魅かれたのだ。

安かった。

たしか、10フランほど。

550円くらいなもんだ。

いや… も少し高かったかもしれないんだけど、1000円とはしなかった。

ボディカラーが何色かあって、綺麗に見えたし、なんせカタチに惚れたので、茶や緑や黄… 4つほどを買い求めた。

ほとんどを帰国後に友達にギフトしたので、手元に残ったのは一ヶだけになったが、今も部屋の目立つところに置いて、さりげなく愛でている。

ジェームス・メイスンが主演の秀逸な映画「地底旅行」での電燈の描写は、たぶん、ヴェルヌの原作に近いものなんだろう… 手回し式の充電ランプで、ボクがパリで買ったモノとは随分に違う。

随分に違うけれど、場がフランスだったゆえ、ヴェルヌをボクは想起したんだと思う。

ここ最近のボクは、寝間に入るや必ず、ヴェルヌの本を読むというのが習癖になっていて、でもね、数行も読まぬ内に眠さに負けるという日々を送ってる。

ヴェルヌが退屈なワケではなく、ただもう睡眠の欲求が強いというだけのことなんだけど、眠る間際にヴェルヌの本を手にするのは、至福なのだった。

再読を重ねた本達だけれども、読み返すたびに新鮮だ。

「おほ〜っ」

と、溜息をつくような詩的な一説が随所にあるから、御馳走でもある。

「子供のための小説でしょ」

などと、いまだに思っておられる方があれば、是非に、も一度、ヴェルヌに接していただきたい。

ヴェルヌがつむいだ小説は大人が読んで、今もって唸ることが出来る希有な作品だ。

もちろん、当時の挿画がそのまま入っているのが、ボクには望ましい。

以前に、試しにと、各国で出版されてる「海底二万里」の諸々を丸善で取り寄せて見比べてみたことがあるけど、オリジナル版の挿画を越えるものには出会わなかった…。

オリジナルのそれには色もなく、濃淡もない、線だけの描写ながらも、強くて濃い印象を残す絵達なのだった。

ポール・デルヴオーがあの不思議な絵の中に、繰り返し繰り返しして、「地底旅行」の人物挿画を入れ込んでいるけれど、デルヴォーをしてそうさせた磁力に、ボクもまた魅かれるのだった。

匿名係長匿名係長 2009/11/26 19:40 こんばんわ。以前へインズのアポロ整備書発売の件でコメントをしました者です。
今回のエントリーについてお聞きしたいのですが、オリジナル版の挿絵があるベルヌの本は、何処の出版社から出ているどんなタイトルの物がオススメでしょうか。分かる範囲で構いませんので教えて頂けましたら参考になります。

アポロニアアポロニア 2009/12/01 20:02 ちくま文庫から「詳注版・月世界旅行」が出ていますが、ひょっとすると今は絶版になっているかも知れません。
この版が一番に挿絵がたくさん入っています。続編としての「月世界へ行く」の挿画も一部がカバーされていますし、小説を読み解くための注釈が圧倒されるくらい素晴らしい本ですので、ぜひ、手に入れてください。
ただ… 挿画に関しては、やはり文庫版というサイズが残念です。どうしても、絵の詳細がつぶれがち。もう少し版の大きな本の出版が望まれるところです。

アポロニアアポロニア 2009/12/01 20:09 「地底旅行」に関しては、岩波文庫から今もオリジナルの挿絵が入った版が出ています。760円+税金、です。
画家のポール・デルヴオーに強い影響をあたえた絵もこの本に収録されていますよ。

アポロニアアポロニア 2009/12/01 20:19 「海底二万里」は、福音館書店のものがダントツにいいです。なんせ厚い表紙のはーどかばーで箱入り。
オリジナルの挿画も極めて綺麗に印刷されています。
価格は2500円+税金ですけど、印刷の精度が良いでの絵の詳細がつぶれていません。とても綺麗。
ちなみに、この福音館書店からは、「海底二万里」の続編とも云うべき「神秘の島」も出版されています。意外やこの続編の方が長編でして… 福音館では上巻、下巻の2冊というボリュームで出版しています。

匿名係長匿名係長 2009/12/01 21:36 アポロニア様
詳細に教えて頂き有難うございます。ちょうど一昨日、詳注版月世界旅行を図書館で見つけ借りてみたところでした。まずは注釈無しで読み進めているところですが、確かに挿絵はサイズ的に少し残念ですね…。
他の三冊も検索したところ最寄の図書館に所蔵されていましたので、順次借りてみる事にします。Amazonでも検索してみましたが、海底二万里、神秘の島共に想像力を刺激されるなんとも詩的な絵の表紙で、読むのが今から楽しみです。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証