月には行けないスペースシャトル

ほんのチョット前にささやかな飲み会があって、ワイワイガヤガヤとアレコレのヨモヤマ話に花が咲いたり枯れたりして楽しかったのだけど、
「なんでスペースシャトル使って月に行かないんかね〜」
と、誰かが云うので、
「そりゃ、行けないんだわさ」
と、その時には簡単に返事した。
で、数日後。別の飲み会でまた同じ話題が出ちゃった。むろん、まったくの別メンバー。
ボクが参加する飲み会では、どうしても話題が宇宙に行っちゃう傾向が高いのがボク個人は嬉しいのだけども(苦笑)… あんがいと、スペースシャトルというカタチというか機能が知られていないコトをボクは知らされた次第なのだ。
もちろん、知ってる人は知ってる程度の事実なのではあるけれども、これにはどうやら、例えば、「スターウオーズ」とか「ギャラクティカ」といったSF系の映画に見られる、後部ロケット一本でもって惑星から惑星へとサッサと飛んでっちゃう映像が心理的に浸透しきっていて、ゆえに、
「なんでスペースシャトルで遠くに行かんの?」
「アポロなんかよりも、よっぽど大きいし、あれで月へ行けばイイじゃんか」
とのクエスチョンが出るような気がするのだ。
なワケなので、ここでは現実としてのシャトルの限界を書いておこうと思う。
スペースシャトルでは、実はどこにも行けないのだ。
地表から離れて宇宙空間にまで出向けているじゃないかと云われる方もあろうけど、地球外に出る推力は外部のロケットブースターと補助ブースター(オレンジ色をしたヤツ達ね)が担ってる仕事で、シャトルそのものにはその能力はないんだ。
シャトルの後部にあるロケットブースターは地球に戻るための推力しか持っていないのだ。
だから、そのロケットでは、地球軌道から月軌道へと向かうだけの力がないワケ。
いわゆる脱出速度というものだ。
地球軌道上から月に向かうには秒速にしておよそ11.2Kmの速度が出なきゃいけないのだが、シャトルのブースターにそんな力はない。
アポロ計画では、この地球軌道上から月に向かうための推力はアポロ・サターンロケットの第3段めの"S-IVB"が担った。
S-IVBと書いて、エスフオービーと呼ぶ。
TVC-15が販売している「アポロ8号&S-IVB」はこの部分をクローズアップした秀逸なペーパーキットだよ(自分で云うな…)。
このS-IVBに搭載されているロケットは何度も点火が可能なロケットで、当時も今も、再点火可能なロケットエンジンというのは実はあんまりないのだった。
このエンジンはJ2という名前がついているのだけど、アポロ計画でこのJ2は、地表から地球軌道に乗る最終段階で1度、次いで、地球軌道から月の軌道に向かうための2回目、脱出のための推進力として使われたのだった。
さっき記した、秒速11.2Kmが出せるロケットがこのJ2であり、その燃料を搭載したS-IVBなのだ。
スペースシャトルには、このS-IVBに相当する装置はないし、その燃料を詰むスペースも当然にない。
ゆえに、シャトル単体では月へは出向けないのだ。
それに… スペースシャトルの基本設計は、せいぜい地上から350Km前後の所に置かれた場合を想定して一切の装置が取り付けられているから、例えば、補助的なブースターを、諸々、宇宙空間で取り付けてもらって月に向かったとしても、今度はそんな推進系の装置だけではなく、地球との連絡をとるためのアンテナ一本ですら根本設計を変えなくちゃいけないのだった。
実際、ハッブル宇宙望遠鏡を修理するという大任をシャトルが担ったさいには、その危険性にNASAは全神経がヒリヒリしたというくらいなもんだ。
ハッブルは地表からおよそ600Kmくらい離れた軌道を周回しているのだが、シャトルはおよそ350Kmの軌道にいる。
350Kmのところから600Kmの場所まで"上がって"行くには、当然にブースターに点火してエンジン燃料を使わなくちゃいけない。地球に戻るためだけのシャトルのロケットブースターなんだから、それをさらに"上がって"いくために使うのは、とてもリスクがある作業だったワケですわ。
わずか300Km弱を移動するにも、それだけの"要注意"となるシャトルだから、38万Km彼方への飛行というのは… だから、とても無理なのだった。
ルーク・スカイウォーカーヨーダに会うために、ちょいとX-Wingを飛ばして辺境の惑星へと出向いてく… というワケには現実はいかないのだ。
だから、その意味では、日本のかぐやはすごいのだと思う。
むろん、人は乗っていないけども、かぐやは立派に月に出向いたんだからね。成果もすごかった。
昨今、やたらな「はやぶさ」ブームだけど、偉業としての「かぐや」にも注目してもらいたいと思うな…。