男の顔

どうにも好きになれない顔がある。
輪郭から来るものなのか… 好感をもてない。
映画俳優で申せば、筆頭にカーク・ダグラスがいる。
ボクが大好きな『海底二万里』の、銛打ちネッドに扮しているけども、実はこの顔が嫌いである。
大好きな映画じゃあるけれど、尊顔拝すたび、チョット… 我慢するようなところがある。
ご子息のマイケル・ダグラスはもっとダメだ。
生理的に受け付けないといえば過言だけども、どうにも… 親子2代で恐縮だけど、好もしくない。
ロバート・ボーンの顔も好きでない。ジョージ・クルーニーもそう。
この延長には、宮崎駿描くところの銭形警部もいたりして… でもって、5者に共通なのはしゃくれた顎に、妙に眺めの睫毛なんだけど、丸みある顎のみでいえば、例えばロバート・ワーグナーや『アポロ13号』のエド・ハリスがいるけど、こちらはたいそう好感がもてる…。
なので、眼、鼻、頬、唇、額… パーツとしての部分から"嫌い"が生じているワケではないようだ。


好きと嫌いの線引きが絶妙にブレる役者もいる。
ダニエル・クレイグがそうだ。
非常に印象が薄く感ずる時と、その逆とが、この顔には交互に顕れるから… 掴みしろがない。
この人の場合は、ダビデ像みたいな全身での魅力が強いから、よけい判別が難しい…。
けども、そういう曖昧がこれまた逆説的に魅力かもとも思える瞬間があって、だからダニエルの場合は、これは"好き嫌い"ではなく、"不思議"な部類に置いておこう。


数週前、『カジノ・ロワイヤル』、『慰めの報酬』、『スカイホール』の3本を一挙にDVDで観たのだけども、顔という部分では… やはり印象が奇妙で不思議だった。
いつだっけかY子さんから借りてみた『ドラゴン・タトゥーの女』で受けた印象同様に、うまく輪郭を紡げない。
細めた眼元はカーク・ダグラスのそれに近いし、総じての印象もスパルタンな風雪に耐えた顔とボクには刻印されるけれど、それだけではない何か、いつも雨が降って濡れているような別な要素が、この顔のイメージを難しくする。
いつも泣いてるようにも見え… 東京タワーでもないし、スカイツリーでもない。通天閣ではないし、ましてや大仏殿とも違う。
捉えようがない。


『スカイホール』での007は、その出自がスコットランドの貴族階級だったという事がクライマックスで描かれ、かのアストンマーチンの使い方などなど、秀逸なシーンの連続でもあってボクは、ダニエル版007をながく認めていなかったけども撤回して、次回作を楽しみにする立場に身を転じた… と、それは置いといて… 食と同様、好みはあくまでも個々人に属するもんだから、誰ぞを説得したり納得させるコトは出来ないけど、どれが1番というでもなく、同性ながら、ダメな顔、いい顔、不思議な顔、諸々あるというおハナシ。

ユマ・サーマンショーン・コネリー、そして『スカイホール』で次からMになる事が予告されたレイフ・ファインズ主演に、『アベンジャーズ』という98年の映画があって、どうもこの映画は非常に人気が悪い。
評価がとても低い。
けど、そ〜んな他人様の評価なんぞは糞っくらえ。
ボクはこの映画が大好きだ、とあえて広言する。

で、この作品ではショーン・コネリーが悪役を炯々と演じて頼もしく、ともすれば英国諜報部員役のユマとレイフの両名を喰ってしまう名演なんだけども、レイフ・ファインズのある意味で特徴のない、変化の乏しい顔が… この映画においては妙に"活きて"るとボクは感じたりするのだった。

『スカイホール』の中の彼もそうで、いささか頭髪が薄くなってしまって『アベンジャーズ』の頃にはなかった中年の悲哀が加味されてもいるけど、基本として変化乏しき顔。
けど、それが1つの印象としてこちらの頭に残ったりもするんで、そこいら辺りもまた面白い。
男の顔というのは、なので一応にくくれない。
そもそも、男は顔だけで"存在"しているわけでなく、そこが魅力の頂点とも思えぬし、かといってオマケであろうわけもない。

では、何なのさ? の解答を探して、だから、映画にしろ、日常の中にしろ、あんがいボクは男の顔に興味をこっそり持って… 眺めていたりする。
注視してるワケでなく、ましてや同性愛的好色な視線でもなくって、どういったらよろしいか… 風に空気の揺らぎを感じるような、それのおかげでチョイと新鮮をおぼえたりといった皮膚感覚としての変化を、愉しんでいる節がある。
女性の顔を見ている時に感じるものとは、これはまったく別個なものだ…。

コンサートでお馴染みの岡山市民会館の、その中2階のロビーには、歴代の市長や市議会議長の油彩肖像画がずらりと並んでいてレトロな感触と壮観さを味わえるという仕掛けだけども、多数並んじゃいるけど肖像自体は特徴がない。
はやいハナシ、1人として、強く惹かれる顔がない。ヒトヤマ幾らの安物とは云わないけども、つい眼をとめてしまうような顔がない。
市長なり市議会議長なりはそれはそれで1つの"個性"なんだし、いずれも年齢高きな方々なのだから、若さではない滋味があるべきなんだし、「ドリアン・グレイの肖像」めいた醜怪さでもあればと、ひそかに思ったりもするんだけど、いずれのお顔にも毒も華もないんで… つまんない。
むしろ、ボクにとっては刺激の強すぎるカーク・ダグラスの顔の方がよっぽどはるかに魅惑が高い。