THE THING

『遊星よりの物体X』に『遊星からの物体X』…。
久々、3作品4本をジ〜〜ッと観賞しての感想。

まずは1951年のハワード・ホークス監督の『遊星よりの物体X』。
現状では2種類のDVDが売られてる。




このIVCという会社から出てるのは、買ってはいけない
ねぼけた画像に、「これで1800円も取るのかよ〜!」と腹立たしい。
黒色部分が潰れにつぶれ、白色部分は飛びに飛びまくって… いくら何でもひどい。
その上で、翻訳字幕が最悪だ。
てひどいホドに省略しちゃって、中盤で、科学者2名が落命した件りを説明のシーンでは、まったく整合性のない、ストーリーそのものが破綻するセリフを読まされて、激昂に近い不愉快を味わう。



もう1本はパッケージ上部にFantastic Cinema Collectionなるロゴのあるもの。
発売元TCメディア。販売代理ニューライン。販売元オルスタックソフト…、となんだかヤヤコシイけど、これは良品。
オリジナル・ネガからのデュープではないにしろ、購買者をバカにしたようなIVCのねぼけ画像と比較するまでもない。がぜん画質がよろしい。
怪物に灯油をぶっかけて室内が焼けるシーンで、女優さんが危険なコトをやってるな〜と思ってたけど… このDVDではじめて、そのシーンはスタントの女性が演じてたのね… というコトも判るくらい画質がよい。
かつ、翻訳字幕が大変に秀逸。



この映画は、空軍大尉のヘンドリーと科学者秘書のニッキーがその恋愛模様もあって主役と思われがちながら、ボクはそう思わない。
主役は新聞記者のスコットだと確信する。
この人が、硬直ぎみな軍と、やはり硬直ぎみな科学者たちの、厚み違いの布をうまく縫う。狂言廻し的役どころではなく、よ〜く観るに、この人の主観がたぶんに映画の前面に出ている。
軍人への辛辣で毒を含んだ記者のジョークの数々は、また科学者らにも向けられる。
そ〜、この人のセリフはほとんどジョークないし皮肉だ。
なので、そこをうまく翻訳し字幕にしてもらわなきゃ困るが、上記のIVC製は、オハナシにもならない不出来。一方でこちらは、かなりそこのツボを押さえてる。
嵐によって無線がうまく伝わらず、アラスカの本部基地から続々届いてるヘンドリー大尉宛の電文を、スコット記者が読み上げ、やがて嘲笑しつつに読んで皮肉をいう件りの… 翻訳字幕は、文字数が増えることを厭わず、かなりキチンとニュアンスを伝えてくれる。
また、この映画の軍人たちの会話もほとんどジョークで成り立つ。



あの怪物めが登場後、軍人の1人に記者が、
「うまく撃てるのか?」
と質問するのに対して、軍人が、
「ヨーク軍曹みたいに、な」
さりげなく銃を構えるシーンがあるけど、ここは… 監督ハワード・ホークスの自家ジョークでもある。
なぜなら、『ヨーク軍曹』というのは彼が監督した映画なんだから、ね。
重要なシーンでも何でもないけど、その辺りの字幕のバランスを含め、このDVDはとってもヨロシイ。
ましてや、日本でテレビ放映されたさいの日本語音声まで収録されてるんだから、2400円という定価はリーズナブルにも思える。
試しにと、その日本語バージョンでも観てみたけど、いや〜、オドロイタ。
だいぶんと大昔の放映とは思うけど、声優たちの吹き替えと同時に音楽まで換えてるんだね。いかにも日本的感性な大袈裟な電子音的音楽。これは悪しき見本として、貴重な"音源"だ。なので余計に、このDVDは価値ありとボクはみた。



ちなみにハワード・ホークスはそのデビューが飛行機映画というコトもあいまって、おそらく飛行機が好きなんだろう… とも思う。
雪原というか氷上に、スキーをはいた軍用のダグラス-DC3を2度に渡って着陸させるシーンを見せるあたり、ど〜も、その匂いがする。
むろん、悪くない。雪と氷しかない北極の広大っぷりが、DC3のフライトでよく判る。
その機内での軍人たちの会話が、これまたジョーク混じりというか、ほとんどジョークでもって進行しているという… 米国軍人のとらえ方も、今観るに、やはりオモシロイ。



※ 懐かしのビリケン商会のフィギュア



『遊星からの物体X』
さてと、ジョン・カーペンターによる高名なリメーク作品。
製作年は1982年。ハワード作品が撮られて30年めのリメークだ。
ボクは彼カーペンターを、「A級のB級づくりの監督さん」と認識して久しいけど、本作のみはB級で括れない。
ハワード・ホークス版が、あえてキャンベルの原作「影が行く」の極めて大事なポイントたる"生態変容"を大きく前面に出さなかったのと比較して、カーペンターは逆にそこに注力した。
だから、かなりグロテスクな映像がボンボコ… 出て来るのはご存知の通り。80年代当時、けっこ〜衝撃だったね〜。
この監督は映画音楽まで自前で創って演奏してしまう人ながら、本作はその気分を押し殺し、あえて有名どころのエンニオ・モリコーネにテーマ曲というかイメージサウンドの根底を委ねているのも、いい。
重低音ベースの、ズズン、ズズン、ズズン… を背景に雪原を一頭の犬が逃げに逃げ、それをヘリコプターが追って銃撃しているあの巻頭シーンは、
「何が起きてんじゃ?」
と、亀ですら首を出して訝しむ程の… もはやそこだけで名作のハンコを押してもイイ。その緊迫なテンションが最後の最後まで続くという点でも、これは希有に近い上出来。
CGなき時代の手作り感も存分に味わえる。
多様されているとおぼしきマット画と実写の整合がメチャに素晴らしい。
犬の"演技"も素晴らしい。




ごく個人的好みを云うなら、デヴイッド・クレノンがマリファナをプッカプカの技師役で出てるのがイイ。このヒトはちょっと風変わりな人物を演じると最高に光るね。トム・ハンクスが創ったTVシリーズ『フロム・ジ・アース・トゥ・ザ・ムーン』での鉱物学の博士役はボクのイチバン好みなキャラクター。



『遊星からの物体X ファーストコンタクト』
つい数年前の2011年に創られた新作。邦題はダサイけど原題は『THE THING』、上記した作品たちとまったく同じ。
しかも、カーペンター版の巻頭につながる”その3日前”の出来事という実に巧みな造り。
カーペンター作品が公開されて30年も経って、”その3日前”が描かれるんだから、こりゃ付き合うしかないじゃ〜ないか。
今回、はじめて観賞。良く出来ております、な。
あえてCG色を前に出さず、カーペンター的特撮でもって3日前のノルウェー隊基地の惨状が描かれる。
壁に刺さった赤いオノ。自殺したらしき無線係の人。合体した人体の焼け残り… などなど、見事にカーペンター版を踏襲し、そこを説明し、いわばとっても頑丈に造られてる。



初見では、この映画もいささか緊張を強いられる。ま〜、そういう物語というか展開なんだから、いわば緊張して楽しむという性質な映画だけど、カーペンター版の再生産とみては気の毒だ。
観客のボクらはすでに30年前、南極での米国の科学探査基地で何が起きたかを承知しているし、当然にノルウェー隊基地の惨状も知っているから、だから登場人物達の顛末も判ってる。
けどもそれゆえ、逆に彼らの「生前」に興味をおぼえる次第…。
本作では怪物の登場と展開が早い。あらためて説明するまでもないワケだから、その速度感もまたイイあんばいだ。
本作がなにより頼もしいのは、30年の歳月を思わせない、3日前の出来事をしっかり"記録"したところだろう、ね。巻頭のユニバーサル社ロゴもカーペンター時代のものに置き換えて、見事なタイムスリップだよ。
主人公の女性科学者はどうなったか…、その安否情報を含めて、も〜1本創られてもヨロシイかと思わさせる演出もウマイ。





という次第で、同じタイトルの3作品4本をば続けて観賞。
カーペンター版が南極で、ホークスのは北極という違いがあるけど、ボクの好みは… なんといってもそのホークス作品。
氷原下の謎の物体のサイズとカタチを、人が輪のカタチになって示し見せる件りは、なんど観てもホレボレします、な。
怪物がいかにもフランケンシュタインのそれに類じるのは時代のせいとしても、氷と雪と風のみの荒涼世界にあってユーモアたっぷりな会話を混じらわす人間が、とにかくオモシロイ。



余談だけど、宇宙からの侵略ないし未知の生物をテーマにした映画は数多あるけど、「エイリアン」にしろ近年の「プロメテウス」にしろ、「ボディ・スナッチャー」、「インディペンデンス・デイ」などなどにしろ…、どの作品も、侵略者側に"個体の個性"がないのはとても不満。
迎えうつ地球人は多様なキャラクターを配し、侵略者に対しての意見見解行動がそれぞれバ〜ラバラで、そこに個性が出る仕掛けながら、宇宙人はいずれも"目的遂行がためのパターン"化されたジンブツでしかなくって… そこいらあたりが不満。
『エイリアン』シリーズが回を重ねるほどに、その"宇宙人"がステレオタイプな兵士めいた没個性になって、いわば"企業戦士"みたいなモノに堕しちゃったのはヨロシクなかった。
宇宙からやってくるモノの、その不気味を描いてるうち、次第にグローバル・スタンダード的にそれを捉え見てしまった視座が… ヨロシクない。
ま〜、その点で、どんどん変容しちゃって実の正体すら不明な「THE THING」は不満が生じにくい。
ジョン・カーペンター版『遊星からの物体X』の巻頭の謎の宇宙船とても、あれは既に微生物的な、あるいは細菌的な、何だか判らない、すなわち「THING」に憑依されちゃった結果としての地球への落下でもあったろうと推測すると、なにやら怖さが深まる。
擬人化されたような宇宙人、人の感性で容易に飼い慣らせるレベルのものは、もう飽き飽き…。
ワケわかんないレベルでの宇宙人の登場をこそ願うね。
といって、トランプのようなワケわかんないジンブツに大統領職を委ねたいホドに大らかじゃ〜ないし、
『トランプ次期大統領と緊密に協力し、日米同盟の絆を一層強固にするとともに、日米両国で主導的役割を果たすことを楽しみにしている』
との祝辞を贈ったアベ某のようなリーダー幻想にまだ浸ってるジンブツも好まない。


ワケわかんないレベルという1点を拡大するなら、かつて、タヌキやキツネは化けてヒトを騙していたワケだけど、タヌキやキツネははたしてチャンとしたタヌキやキツネであったのか? ひょっとして彼らもまた何かが憑依しての変容過程にあるモノじゃなかったかしら? みたいなクエスチョンが起きるようなSF映画やオハナシを… この先、観たり囓ったりしたいなぁ。




原作となったキャンベルのブックカバー


今週、眼を細めたり拡めたりしつつに読んだ1冊。(今、老眼鏡が合わないのさ)
『微生物が地球をつくった』
ポール・G・フォーコースキー著 青土社



微生物は、なぜ、どうやって、組織された巨視的な生物(動物や植物)になったのか… の問いに応えるべくな解説が丁寧に繰り出される、SFではなくって科学解説と考察の本。

例え手術で右眼が良くなろうと、微生物は可視できない。人間の髪の毛の直径に100個をこえる細菌を並べるコトが出来る… という小ささ。
その小さな微生物たちが複雑に連携した組織的社会を作り、髪の毛というミクロから地球というマクロ規模でそれを眺めるに、バイオマス(生物体の量)としては、全人類をはるかに越えた重量の微生物ワールドが地球だというコトになってきて… ともあれ、この本に蒙を啓かさせられた。
ボクのような凡庸には途方にくれるくらいな情報量。知らないコトがいっぱいだ。

同種の別な本によれば、そこいらのチョットした広場なり公園の、土の表層概ね15cmくらいを削って計測出来たなら(現状はそんな分離計測は出来ない)、総重量が2トンになる微生物がいるそ〜な。

ボクの身体もアナタの身体にも無数大数の微生物がいるワケゆえ、たとえばボクはいま60Kg前後なメカタなんだけど、そのウチ2Kgくらいは、あるいはもっとが… ボクではないナンヤカンヤの微生物(主に腸内細菌)らしい。
だからホントのボクは57〜58kgでしかなく、プラスの2Kgはボクを活かすための共生微生物のメカタというワケで、さ〜てそうすると、
「ボクって、けっこ〜既に"遊星からの物体エックス"してんじゃん」
な、面持ちにもなろうというもんだ。

ま〜、それらを読んでるさなかに触発されて、上記な映画たちを再見して、ここに1筆してるという次第なの。


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トランプ氏が大統領に当選した同日、新見市長の石垣氏が不慮の事故で亡くなった。
過去、とある件で氏には3度か4度お会いし、けっこう長時間なインタビューも収録したことがある。
かつて訪問時、市長室のデスクには、宇宙に出向いた向井千秋さんの写真が飾られていて、ボクはそれに強く印象づけられた。
山林に囲まれ、夏は暑く、冬は雪深い、ごくごく小さな市の、そのトップの中の宇宙…。宇宙的規模に憧憬したか、あるいは向井さんという希有な人物に憧憬したかを、聞くまでもなく彼は逝ってしまったけど、ボクが知りうる数少ない政治家の中、とても好感高い方だった。
向井千秋さんの写真が示唆するのは––––– 小さき田舎町とても宇宙的規模の呼吸をしているんだよ––––– その規模ともなればもはや中心はないんだよ––––– って〜な感覚だった。
云い換えれば、新見という町であっても、そこが世界の中心の心持ちは忘れない––––– という感覚だった。
地域社会に先進のIT技術を導入していくにはある種のグローバル化も必要だったけど、彼はそれに溺れない醒めたところもあったような気がする。
グローバリズムによる弊害としての、新見という特性の喪失をホントのところは懐疑もしていたような気がする。

いかにも惜しい。
謹んでご冥福をお祈り申しあげます。