逆張り書評:今あえて木村剛さんを応援する

去る3月16日、経営破綻した日本振興銀行の元会長、木村剛被告に東京地裁から銀行法違反(検査忌避)による有罪判決が言い渡されました。

http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/120316/cpb1203161728000-n1.htm

この事件に関して、判決が正当であるか、正直私はよく分かりません。
が、有罪判決が出た以上、これからもいろんなメディアは、木村さんをそれこそボロカスに叩きに、叩きに、叩きまくることが予想されます。数多い木村さんの著書もブックオフで二束三文で売り飛ばされるだろうと想像できます。

まぁ、それはそれでいいのですが、ただ、私個人は学生時代から木村さんの著作や寄稿を読み、自分の行動指針を決める際に大いに参考にしていました。今、過去の木村さんの著作を読みなおして改めて確信するのが、「志の低い人に絶対にこの文章は書けない」ということです。

だから、もし本当に犯罪の道には走ってしまったのなら、どのような環境の中で当初の志から踏み外していったのか、それを詳述するだけでも社会的意義はあると思いますし、逆に、かけられた罪が理不尽なことであれば徹底的に戦ってほしいと思っています。そして、それなりのケジメをつけられたなら、ビジネスにもできるだけ早く復活していただきたいと願ってます。

今回はそのエールも込めて、これから、木村さんの著作の一部を紹介したいと思います。基本的にブックオフの100円コーナーに並ぶであろう木村さんの著作は、すべて買いでいいと考えます。

私の過去の記事『フォーサイト休刊を考えて、早速復刊を願う - YOSHIHISA YAMADA’s Blog / 山田義久Blog』でも書きましたが、私の印象では、国際情報誌フォーサイトの中での連載、『日本経済「常識に還れ」』で日本経済について実直な提言を続けられる中で徐々に知名度を高めていかれました。その後、立て続けの著作を上梓されていきます。

まず、2000年5月に上梓されたのが『通貨が堕落するとき』。
制度疲労を起こした日本経済が、外資金融にカモにされる様子やインフレに陥っていく様子を描いた経済小説です。インフレに陥った後の日本の描写などは、むしろ今の方が現実味を帯びいている気がします。

通貨が堕落するとき

通貨が堕落するとき

2002年9月の著作『日本資本主義の哲学』は、資本主義社会の基本的な仕組み(資本主義−株式会社−会計制度)を、御自身の経験談を交えながら、極めて平易に説明された超良書だと思います。なぜ会計知識が、現在社会の中で生きているために必須のビジネスランゲージでであるかもよく分かります。この意味でも、これから社会人になる全学生必読に言ってもいいと思います。
本書の後半では、マックスウェーバー山本七平等、碩学の著作を参照しながら、日本型の資本主義社会の形についても模索されています。読者は、木村さんの考えに同意するかはともかくも、この本の議論を起点に自分なりの見解を持ついいきっかけにもなると思います。

日本資本主義の哲学―ニッポン・スタンダード

日本資本主義の哲学―ニッポン・スタンダード

次に、2003年7月に『「会計戦略」の発想法』を上梓されます。
この本は、『日本資本主義の哲学』の中で書かれていた会計制度に関して、より深く書かれた本です。会計制度の基本的な仕組みから、その歴史、また当時起こっていた経済事象(エンロン事件等)を取り上げながら、経営の中でいかに会計が重要かを詳述されます。また内部統制の重要性に関しても強調されており、その制度を維持するために必要な人間的資質(「誠実さ」等)まで言及されています。
今読み返すと、なぜここまで内部統制の重要性を高邁に強調し、知識も経験も持たれていた木村さんが、逆に自分がその内部統制を率先して破る形になった理由とその背景を本当に知りたいと思います。

「会計戦略」の発想法

「会計戦略」の発想法

その後、2004年3月に『戦略経営の発想法』を上梓されます。
この本は、今までの著作が制度や社会の仕組みを中心に論じていたのに対して、逆にビジネスの現場の実態を描きだそうとした力作です。経済は、当然無数のビジネスを営む会社から構成されているわけで、それらの会社の経営者がどのような行動理念を持っているのかを理解しないと経済の動きも理解できないという木村さんの考えがあるように思います。よって、全体的にインタビューが多く、HIS澤田秀雄さん、ワタミの渡邉美樹さん、ドン・キホーテ安田隆夫さん等の現役バリバリの経営者の方々の言葉には含蓄があります。ビジネス書としても一級品と思います。

戦略経営の発想法 ビジネスモデルは信用するな

戦略経営の発想法 ビジネスモデルは信用するな

そして時間がもどりますが、2003年9月に『金融維新』を上梓されます。

金融維新―日本振興銀行の挑戦

金融維新―日本振興銀行の挑戦

この本は、今は破綻した日本振興銀行の設立に至る挑戦について詳しく語られた本です。私は、少なくともこの本の中で語られる木村さんや設立関わった人々の志には素晴らしいものだと思います。もし、その後その志を曲げる場面が本当にあったのなら、後世のためにそこに至る経緯や、自身の葛藤をぜひ伝えていただきたいと思います。
最後にこの著作の中で、木村さんが落合伸治氏(日本振興銀行の初代代表取締役なる予定だった方)について語ったことを引用します。

私は人間の価値は、過去にではなく、将来にあると考えている。
過去に何をやったかではなく、将来何を成し遂げるかにあると思っている。
過去に対する言い訳ではなく、将来に対する覚悟のほうが数万倍重要だと確信している。『金融維新』342p

私は、この言葉は志が低い人には絶対に言えない言葉だと思います。よって、ここまで言えた木村さんの志は極めて高かったと信じます。
だから、私は、それなりのケジメをつけられたなら、木村さんが将来何を成し遂げるかをについてフォローしたいし、応援したいと思います。