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2015-06-27

「ニセ科学本」はデータをどう扱っているか?

「ニセ科学本」はデータの扱い方に特徴がある。普通のデータを普通に扱うだけでは、常識をくつがえす大胆な主張は展開できないからである。ここでは『早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいい』(武田邦彦著/竹書房新書)を題材に考察してみる。

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データの扱い方

(1)データにモレがある

世界の男性喫煙率について武田氏はモンゴル、中国、韓国、トルコ、トンガ…というランキングを示し、「ややアジア系の国が多いことがわかる」と主張している。しかし出典の「タバコアトラス2002」をみると、4位に入るべきロシアが抜けている。

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(p45)

出典:『WHO:タバコアトラス2002』

(2)引用した元データが不正確

世界の肺がん死亡率について武田氏は「世界地図『肺がん死亡率トップ10』」からデータを引用している。ところがこれは正式なデータではなくネット地図ショップのもの。すべて男女が逆になっているというお粗末な間違いがある。 武田氏はそのまま著書に用いているので、ここだけ女性のデータになっている。

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(p46)

武田氏の出典:世界地図『肺がん死亡率トップ10』
参考 OECD:Mortality from cancer


(3)データの出典が不明

民族ごとの肺がん死亡者数について「武田研究室調べ」と記載されているが、出典不明。OECD(経済協力機構)などの公的な数字と比較すると全体的に数字が1桁多い。

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(p51)

参考 OECD:Mortality from cancer

資料の読み方

(4)グラフの読み方が間違っている

武田氏は国立がん研究センターのグラフを引用して、「痩せすぎの女性たちのグループでは、タバコを吸っている方が危険度が小さい。むしろ、タバコを吸っていない女性のほうが危険度が高い」と主張している。しかしこの解釈はデタラメ。本来は、喫煙の有無にかかわらず、太り過ぎ・痩せすぎの人は標準体重の人より死亡リスクが上昇することを示している。

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※武田本のグラフ(p57)

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※国立がん研究センターのグラフ。「全対象者」であれ「非喫煙者」であれ、BMI 23.0-24.9 を基準=1とすると、太り過ぎ・痩せすぎの人は死亡率が高くなっている。

中年期男女におけるBMIと死亡率との関連(詳細板) リンク先PDFのp11
国立がん研究センター・予防研究グループ「中年期における体重変化と死亡率との関連について」


(5)もとの資料をわざわざ歪曲したうえで批判する

国立がん研究センターの記事は 「約4万人を調査。4386人に何らかのがんが発生。そのうち681人には肺がんが発生」となっている。それを武田氏は「4386人を調査。681人に肺がんが発生」と歪曲したうえで、「そんなことはありえない」「メチャクチャぶりにあきれ果てた」と主張している。 (参考)最弱のヒーロー!?「ストローマン」とは

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(p58〜59)

国立がん研究センター・予防研究グループ「喫煙開始年齢とがん発生率の関連について」

(6)論文を誤読している

受動喫煙と肺がん死との関連を世界で最初に示した平山雄博士の論文(1981年)の女性グループ肺がん死亡率について、武田氏は「14倍も高い」「こんな異常に高いグループをどこから探してきたのか」と批判している。しかしこれは14年間調査した結果(0.14%)なので、年間の死亡率(0.01%)の14倍程度になるのはごく自然なこと。

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(P75)

Non-smoking wives of heavy smokers have a higher risk of lung cancer: a study from Japan.

(7)盗用

上記(6)で武田氏は平山論文を批判している(←まったく的外れではあるが)。それにもかかわらず、別のページでは、まるで自分が作成したような書きぶりで論文からグラフを盗用している。武田氏は「30年間に渡る男女の『肺がんの粗死亡率』の推移」と説明しているが、これは平山論文にある「年齢調整死亡率」のグラフそのまま。つまりグラフを盗用し、間違った説明を加えている。

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※武田本のグラフ(p84)。「粗死亡率」(年齢調整していない死亡率)という間違った説明になっている。

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※平山論文(1981)に登場するグラフ。日本における肺がんの年齢調整死亡率(1947〜1978年)
Non-smoking wives of heavy smokers have a higher risk of lung cancer: a study from Japan.

まとめ

以上、ニセ科学本のデータ・資料の扱い方について、武田邦彦氏の著書を例に考察してみた。

データの扱い方
(1)データのモレ
(2)元データが不正確
(3)出典不明

資料の読み方
(4)グラフの読み方が間違い
(5)資料を歪曲したうえで批判
(6)論文の誤読
(7)盗用

科学を標榜した「ニセ科学本」を鵜呑みにして、ご自身や周りの人の命を縮めることがないように、皆様くれぐれもお気をつけください。

かまぼこかまぼこ 2015/08/25 08:20 私は愛煙家でも嫌煙家でもありません。
BAZOOKAの動画を見て、藤本さんご自身(?)が貼られていたリンクからこちらに来ました。
この記事を読み終わってから番組に出ていらした藤本さんの書かれた記事だと知って少しがっかりしました。もちろんご自身のブログですからご自身の立場やポリシーなどは割愛されたのかもしれませんが、前知識なくこの記事だけ読んだ私には、こちらのコメントで小島さんの書かれている通り、「あたかも広義の「ニセ科学本」に対する検証としてたまたま武田氏の本を取り出したかのように表現し」ているように見えました。

さておき、書かれている内容について、この本を読んでいない素人がこの記事を読んだ感想ですが、
(1)はロシアを入れても上位10国中、5国がアジア圏なので「ややアジア系の国が多い」という主張が揺らぐものではない。
(2)OECDのデータでも武田氏の「喫煙上位10位にあるアジア圏の国々が上位10位以内にはなく、喫煙率と肺がん死率の因果関係は見えない」という主張に矛盾するものではない。
(3)論文で自身の研究室での研究結果や調査結果をデータとして出すのは一般的では? それを出典不明と言うのはやや乱暴に思う。写真からはOECDとの差異の詳細はわからない。
(4)「本来は〜を示している」とあるが、データはただの事実であって、そこから何が読み取れるかは単一ではないのでは? 単純にグラフだけ見ればBMI 14-22.9は非喫煙者の方が全対象より死亡リスクが高い。全対象には非喫煙者も含まれるので喫煙者のみの場合、全対象よりさらにリスクが低くなることが予想できる。ただし色々なものが補正されているので、その点は素人にはなんとも言えない。「喫煙とBMIと死亡リスクの関係を見るのに適切なグラフではない」という根拠をもっと示してもらえると納得できるかもしれない。
(5),(6)詳細な文章の内容がわからないので論ずる価値がない。
(7)そもそもグラフに「盗用」とは適切だろうか? データ元が明記され、もし同じデータから同じ条件でグラフを作成したとしたら同じグラフになる。それを盗用と言うのだろうか? ただ「年齢調整死亡率」のグラフと「粗死亡率」と書かれたグラフがほぼ同じグラフである点には確かに疑問を感じる。

……と、総じて、粗探しの域を出ず、「ニセ科学本」とするにはやや説得力に欠けると感じました。「ニセ科学本」と言うからには、間違ったデータが使われていることにより書かれた主張が崩れることを示すところまでやらないと「で?」という感じです。

番組では、武田氏の意見の中にも眉唾だと感じる部分は多々ありましたが、喫煙否定派の方々の意見もそれほど説得力は感じられず、心に響いたのは磯村さんの依存症の話だけでした。他者の意見の間違い探しや四角四面な反論よりも、もっとわかりやすく反論の余地がない情報でひっくり返して欲しかったです。

長々とコメント失礼いたしました。

ワイネフワイネフ 2015/08/25 09:53 かまぼこさん

ご意見ありがとうございます。丁寧に書いてくださっているので、ご自身の素直な感想なのだなということはよく伝わってきます。

(1)(2)
これはいい着眼点ですね。
ここでは(a)「結論の正しさ」と(b)「結論を導くプロセスの信頼性」の区別が必要です。あなたが気付いたとおり、私は「ややアジア系の国が多い」などの結論について否定しているわけではありません。そのプロセスに問題があると指摘しています。仮にこの(1)(2)が高校生のレポートだとしても、(b)の点で減点、または不合格になるはずですよ。

(3)
ここに問題がある理由が2つあります。
(a) 数値が通常とは1桁違っているが、その理由が不明。
(b) ここは特にBAZOOKA番組(4月27日)で問題となった部分です。2回目の収録までにこの部分の出典を明らかにするように番組スタッフを通じて武田氏にお願いしたにもかかわらず、回答はありませんでした。

(4)
>単純にグラフだけ見ればBMI 14-22.9は非喫煙者の方が全対象より死亡リスクが高い。

これは(武田氏と同じく)あなたのグラフの読み方が間違っています。
グラフの真ん中「23.0-24.9」をご覧ください。(a)「全対象者」(b)「非喫煙者」ともに相対危険度が1になっていますよね。
(a)「全対象者」の場合、標準体重(23.0-29.0)を1とすると、痩せすぎ(14.0-18.9)の人の死亡率は2倍弱。
(b)「非喫煙者」の場合、標準体重(23.0-29.0)を1とすると、痩せすぎ(14.0-18.9)の人の死亡率は2倍強。
…ということです。「全対象者」と「非喫煙者」の死亡率を直接比較しているわけではありません。

(5)(6)
ご指摘のとおり、きちんと論ずるには武田氏の著書の文章そのものと比較する必要があります。著書は誰でも書店で手に入ります。興味があればぜひ比較してみてください。武田氏のデタラメ具合に驚くはずです。

(7)
そうですね。これが「年齢調整死亡率」であれば、データ的には何の問題もありません。しかし残念ながら、間違った説明が加えてあります。
有名な平山論文は1966年から79年までの14年間の調査結果に基づいて執筆されています。だからこのグラフにおける死亡率も1978年までのデータになっています。武田氏の場合は1978年までのデータにする必然性がどこにもありませんね。
1947年から78年までの32年間…これが偶然の一致だとしたらたいしたものです。でも武田氏は平山論文を読んだことを明言しているわけですから、偶然でもありません。


>もっとわかりやすく反論の余地がない情報でひっくり返して欲しかったです。

そう仰る方は多いですね。その気持ちはよく分かりますし、私たちの伝え方の未熟さも多々あったと思います。そこは今後の課題ですね。

もし「武田氏が基本的事実すら調べずにBAZOOKAで間違った発言をしている」「証拠を捏造している」などの証拠がしりたければ、仰ってください。実例をお教えしますよ。

ワイネフワイネフ 2015/09/13 11:41 コメント欄については勝手ながらいったん整理させてもらいました。私が記事を書いた動機についてあれこれ詮索・曲解するよりも、先入観抜きで記事の内容を見てもらう方がいいと思ったからです。
かまぼこさんのコメントは、記事内容についての質疑応答として意味があると思ったので残してあります。(記事内容についてのQ&Aは引き続き大歓迎です)

たっつぁんたっつぁん 2015/11/17 08:09 武田本をひっくり返す必要なんてこれっぽっちも無いと思います。

なぜなら武田本が既に発効している国際条約のFCTCをひっくり返せていない。

即ち、WHOをはじめ世界中の科学者を納得させられない単なるシロウト相手のマヤカシ本にすぎずエビデンスの無い、科学本ですらない紙くずですから。

たっつぁんたっつぁん 2015/11/17 08:09 武田本をひっくり返す必要なんてこれっぽっちも無いと思います。

なぜなら武田本が既に発効している国際条約のFCTCをひっくり返せていない。

即ち、WHOをはじめ世界中の科学者を納得させられない単なるシロウト相手のマヤカシ本にすぎずエビデンスの無い、科学本ですらない紙くずですから。

ワイネフワイネフ 2015/11/17 14:04 たっつぁん。学会レベル、世界レベルで考えれば、武田本はまったく無力ですね。まあ武田先生がゴチャゴチャ言い出したときは、この記事内容を一緒に検証ましょうということで(笑)

たっつぁんたっつぁん 2016/01/28 03:13 武田センセはゴチャゴチャ言いませんよ養老センセと同様にシロウトにしか通用しない似非科学で、きちんとした場に出てきて説明できるシロモノじゃありませんから逃げ回るだけです。

yosikazufyosikazuf 2016/01/29 11:13 たっつぁん。たしかに「データの捏造」も「論点逸らし」も逃げの手段ですね。とはいえ「逃げているのに逃げていないようにみせる」テクニックは、なかなかのものだと思います。私としては、その解説がいつでも明快にできるようにトークの技術を磨いているところです。

まよりんまよりん 2016/04/04 03:29 率直なところで申しまして、喫煙は害だと「感じて」いますし、「知って」います。
喫煙が害であることを鮮明に示すには、喫煙度と肺がんの発現期間の相関関係を示すことだと思っています。

論点はずれますが、公衆衛生学の研究室におりましたときに、いくつか考えたことがあります。
「覚せい剤や大麻の犯罪者は喫煙者である」
タバコを吸う人は、上下関係などの関係者から吸うことを勧められて始めることが多いのですが、例えば不良仲間ではタバコを吸うことを断れないほど上下関係が厳しいのです。不良が犯罪者になっていくパターンは大きいと思います。また、覚せい剤は注射などの方法がありますが、大麻はタバコのように吸う方法のため、喫煙が前提になります。大麻はタバコの延長ですから、タバコを吸わなければ大麻は吸わない、ということになります。

喫煙を全面禁止にした場合、大麻の犯罪も防げるのではないかな、と考えています。

個人的には、酒もパチンコも競馬も嫌いなので、酒とギャンブルは全面禁止で構わないのですが、無理ですよね。

yosikazufyosikazuf 2016/04/16 17:45 まよりんさん。コメントありがとうございます。「覚せい剤や大麻の犯罪者は喫煙者である」…そういう傾向はあるでしょうね。合法的なタバコがゲートウェイとなるような。
喫煙全面禁止…将来的にはそうなっていくと思いますが、現状は社会の意識としても難しいのでしょうね。
JTが喫煙・受動喫煙の健康被害についてどんな認識をしているのか、近いうちに問い合わせてみようと思っています。

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