恋愛状態とは快感の伴う「強迫性神経症」である。「ヘレンフィッシャー / 人はなぜ恋に落ちるのか」

人はなぜ恋に落ちるのか?―恋と愛情と性欲の脳科学

人はなぜ恋に落ちるのか?―恋と愛情と性欲の脳科学

どうです。この記事タイトル。笑

「人はなぜ恋に落ちるのか」というこの本。著者は、ヘレンフィッシャー。アメリカで最も有名な人類学者、として有名らしい。しかし日本で翻訳されている本はどうやら今作と1993年の「愛はなぜ終わるのか」の2冊のみ。はて。
この前作がベストセラーとなり、「生物としての人間の特性からすれば夫婦は4年で離婚することが多い」という説を発表している。続くこの本では、新しいfMRIなどによる脳科学の知見を盛り込み、人類学的な視点から「恋愛状態」について考察している。なかなか興味深かった。
ただ、一言。
脳科学の実験結果の個所以外の、根拠が弱い。語尾の「〜だろう」が多すぎ。推測、もしくは筆者の願望で書いてる部分が多いと見た。それでアメリカで最も有名な人類学者というのだから「?」だ。タレント学者なのだろうか。
あと恋愛行為に対しての妙な肩入れの仕方。「愛は素晴らしい」みたいな。ちょっと寒かった。笑 そこだけ除けばまぁ読める本。





強迫性神経症患者と恋愛状態の人間の類似点

恋愛状態における脳内の伝達物質のなかで、とりわけ大きな役割を果たすものとして、筆者は「ドーパミン」「ノルエピネフリン」「セロトニン」を仮説として挙げている。


恋愛状態とは、単純に言ってしまえば、【特定の対象に対しての、極めて強力な報酬システムの作用 + それについて随時、思考させる強迫観念作用】であり、アルコールやドラッグにも似た一種の中毒症状である。これが、本書の大きな主張である。


報酬システムと強迫観念。
この二つの組み合わせで恋愛感情は出来上がっていると考えられる可能性がある。


報酬システムが「ドーパミン」「ノルエピネフリン」で、強迫観念が「セロトニン」作用であると考えられる。


さっと書くと、まずドーパミン


脳内のドーパミン分泌量が増加すると「確固たる動機と目的志向の行動」が生み出される。と同時に極端なほど集中力が高まるようになる。これはすべて恋愛の主な特徴だ。人はひとたび恋に落ちると相手に一心に注目するあまり、往々にして周りのことがいっさい目に入らなくなる。実際、彼らは相手のいい面ばかりに目を向け、欠点など簡単に見過ごしてしまう。愛しい人と共有した特定の出来事や対象物にまで、深い思い入れを抱くようになる。また、恋に夢中の人たちは相手のことを新鮮でたぐいまれな存在だと感じている。そしてドーパミンは新鮮な刺激を学ぶことと関係する化学物質だとされてきた。

でた、ドーパミン。と言った感じ笑
最近、苫米地英人の本をがつがつ読んでいるので妙に親近感のあるこの単語。苫米地的にいえば、「ドーパミンは快感をもたらす物質だと勘違いされているが、その本質は【運動物質】である。運動の結果もたらされる快感を得ようと、生体に行動を起こさせるよう作用する脳内物質」と説明している。ドーパミンの脳内回路が、報酬回路・報酬システム、と呼ばれる所以である。またこの報酬システムの進化が、人間が「時間」を認識しはじめたはしりであろう、とも指摘している。
ちなみに禅を組んだりしてもドーパミンは出る。LSD等ドラッグを飲んでも大量に出る。お経読んでも出る。この結果陥る、いわゆる催眠療法などの基盤になる概念、トランス状態・変性意識状態(意識変容状態)になるとドーパミンが大量に出て、今感じているリアリティという臨場感から足が浮いた状態になっていく。
ドーパミンは人間にとって欲望を引き起こす、かなり根源的な作用を持つ物質である。





次に、ノルエピネフリン

ドーパミンから派生した化学物質ノルエピネフリンもまた、恋する者の高揚感(ラバーズ・ハイ)に貢献していると考えられるらしい。ノルエピネフリンの作用は脳のどの部分で活性化するかによって、さまざま。しかし概して、この刺激物の分泌量が増えると爽快な気分になり、エネルギーにあふれ、眠れなくなり、食欲が失われる――――どれも、恋愛の基本的な特徴である。
愛する人の行動を細かい点まで逐一覚えていられること。ともに過ごした時間をいつくしむ気持なども、ノルエピネフリンの増量と関連しているのかもしれない。このリキュールは、新しい刺激のために記憶を増やすことと関係しているため。

そして第三番目の化学物質、セロトニン。これがおもしろい。



恋愛の注目すべき症状のひとつが、愛する人のことをのべつくまなしに考えてしまうという点だ。恋に落ちた人間は、走馬灯のように駆け巡る思いを止めることができない。「起きている時間の何パーセントくらい、相手のことを考えていますか?」たいていの人が「90パーセント以上。」と答え、なかには相手のことをいっときも考えられずにはいられない、とはにかみがちに認める人もいる。



恋する人は強迫観念を抱いている。
そして強迫神経症障害の患者に医者が出す薬は、プロザックゾロフトといった選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI)である。これは、脳内のセロトニン分泌量を【上昇】させる物質だ。恋する人間がいやでも愛する人のことばかり考えてしまうのは、この化学合成物(少なくとも14種類ある)のいくつかのタイプの分泌量が少なくなっていることと関係している可能性がある。

強迫神経症は、とある【強迫観念】が頭から離れず、それをぬぐい去るために行う【強迫行動】を取り続けてしまう神経症の一種。頭の中に浮かぶイメージ、観念を消すために、手を洗ったり、確かめ等の反復行動をする。頭からそれが離れないためにそういうことを何度も何度も行ってしまうため、社会的活動が阻害されてしまう、というもの。


ここで言っているのは、強迫神経症の患者が「強迫」的な観念にとりつかれるように、恋愛状態の人間も相手のことを常時考えてしまう、という類似点があるということ。



そして実際に実験で投薬治療を受けていない強迫神経症患者と、6か月以内に恋に落ちた男女、恋愛中でない普通の男女で比較、対照実験を行うと恋に落ちた被験者と強迫神経症患者の両方が、はるかにセロトニンの分泌レベルが低いことが判明したのである。(ただこの実験においては、脳内、ではなく血液中のセロトニン・レベルの結果なので、脳の特定部位における活動が証明されないかぎり、はっきりと断定はできない。しかし、それでもこの実験で恋愛とセロトニンの低レベルが関係している可能性が初めてあきらかになった。)





恋する脳は「獲得せよ」の大号令を出していた

人間は恋をすると、脳の「尾状核」が活動する。そしてここはまさに先程述べた「報酬システム」の一部である。激しく恋をすればするほど、人間はこの尾状核の活動も激しくなっていくことがわかったと本書にはある。


つまり人間が恋をすると脳の【報酬システム】がフル稼動しはじめる。
その命令はこうだ。
「恋に落ちたものにとって、相手の獲得こそが生涯でもっとも価値ある商品だとひたすら思わせる」こと。」
一度狙いを定めたらわき目もふらず、目標物に突進させる。種の保存、遺伝子を残す、という第一命題を果たすまでは。それが脳の作戦だ。

そして強迫神経症患者のごとく、セロトニン分泌量を低下させることで相手のことを常に考えさせるようにすることで、恋愛、という強烈な動機付けを保っていく、と。脳ってのはよくできてるねぇ、まったく。


強迫神経症と異なる点は、ある意味この「強迫観念」とも呼べるものに「快感が伴う」こと。すくなくとも、強迫観念によって行われた行為がドーパミンに基づいているため、その先には何らかの報酬が待っているからだ。恋愛状態の人間にはそう見えている。



報酬が得られないと…?

そしてもし報酬が得られないと…つまるところ失恋であるが、どうなるか。
人間の脳は報酬が得られずに短期的なストレスを受けるとドーパミンとノルエピネフリンの生産をうながし、セロトニンの活動を抑制する。恋愛状態のメカニズムと一緒だ。


つまり、俄然目の前の目標を獲得させようと脳が働く。
もっと「獲得せよ!獲得せよ!」脳内ではこう命令が下っているというのである。ここが一番個人的にびびった。
なんと皮肉なことか。愛する人が逃げていくに従って、恋愛感情を生み出すまさにその化学物質が、さらに濃度を増すのだから。そのため熱烈な想いや恐怖や不安が高まり、抵抗しろ、報酬――去っていく愛する人――を確保するためにあらゆる力を駆使せよ、と脳が訴え始めるのだ。



また、報酬を得られなかったストレスは「怒り」も生み出す。
愛を拒まれた、怒り。
なぜそうなるのか。
筆者は、愛と憎しみは脳内で複雑に結びついているからだ、と指摘。
「怒りを生み出す脳内ネットワークは、報酬の評価と報酬の期待を処理する前頭前野皮質の中心部と密接につながっている、そして人間やその他の動物が、期待していた報酬が危機にさらされている、あるいは手に入らないと気づくと、前頭前野が小脳扁桃にシグナルを発し、怒りを引き起こす」のだそうだ。


なるほどー、と。報酬と怒りは結びついている。
これは基礎心理学では「欲求不満―攻撃性仮説」と呼ばれている。



よく考えてみればこうした情動に共通点が多いことがよくわかるはずだ。どちらも肉体的、精神的な覚醒と関係している。どちらも過剰なエネルギーを生み出す。どちらも愛する人に対する強迫観念的な集中力を引き起こす。どちらも目的志向の行動を生み出す。そしてどちらも切実な思いを引き起こす。それが愛する人とやり直そうと努力することにしても、自分をふった人間への復讐だとしても。

ちなみに怒りは代謝的にとんでもなく高くつく。心臓に負担をかけ、血圧を上昇させ、免疫システムを抑制してしまう。


失恋の第二段階――あきらめと絶望

愛する人を失うと、人間という動物の中に深い悲しみと憂鬱が引き起こされるのが普通だ。心理学の世界では「絶望反応」と呼んでいる。
過去8週間以内に恋人にふられた経験を持つ114人の男女に対して行われた調査で、40%以上が「臨床的に無視できないうつ状態」に陥った、と答えている。うち12%が重度のうつ症状を見せている。心痛のあまり死ぬ人もいる。うつが原因で心臓発作や卒中に見舞われ、命を落とす。



捨てられた人間が、けっきょく報酬が二度と手に入ることはないと徐々に気づくようになると、中脳に位置するドーパミンを作る細胞が今度はその活動を減少させていく。ドーパミンの分泌量が減ると、無気力、意気消沈、そしてうつ症状が引き起こされる。短期間のストレスはドーパミンとノルエピネフリンの生産を活性化させると同時に、セロトニンを抑制する、と書いた。しかし、捨てられたことに対するストレスが消えていくと、そうした強力な化学物質のレベルをすべて通常より引き下げてしまう、という。――――結果、深いうつがし生じることになる。






結局、人はドーパミンありきの動物なのか?

…なんて考えがここまで読むと浮かんできてしまう。以前、ここの日記で「人は希望を食って生きている生き物だ」と書いた。その正体はもしかしてドーパミンだったのだろうか…。


恋愛のみならず人間は、身の回りのものに向けて「欲望」を持つ。その時脳内ではドーパミンが分泌されて、「獲得せよ!」「気持ちいこと、楽しいこと、あるよ!」と命令される。ことさら恋愛に関してはセロトニンが低下することによって、ますます対象物しか目に入らなくなる。常に目の前のものだけ考えさせられる。もはや脳内と体は全力疾走の状態だ。


まるで目の前にぶら下げられたニンジンめがけて走り続けるバカ馬のように、走り続けていくのが人間なのか。
種の保存というのが最上位命題である動物、まぁ人間にとってはそれが進化の過程上、必要な仕組みだったのだろうが。


しかしそれはあくまで「動物」としての人間の側面でしかない。動物としての人間はそれで十分満足だが、ならば動物としての恋愛は、目の前の相手をゲットして性行為の果てに子孫を残した時点で必要がなくなる。(事実、筆者は「人間の恋愛感情は種の保存上、子孫を育て上げるまで継続させるようにインプットされている」と指摘し、その結論として、結婚から4年以内で離婚しやすい、と言っているのだが)
現に、結婚後何十年でも仲むつまじき夫婦は存在するわけであってね?


男が浮気性であったり、女が惚れっぽかったりするのも、種の設定上いたしかたないところではあるだろう。だからといってノーモラルな男は感心しないが―――。



とにかく、ひとつわかったことは、「恋愛状態を回避したかったら、SSRI抗うつ剤)飲めば?w」ってことだね!!w
結局、セロトニン低下が問題なわけだから。したら広く視野は保てるよね。たぶん。おすすめしないけどね。


同時に言えることとして、うつ症状を持っていて抗うつ剤を飲んでいる人は、恋愛感情を持ちにくい、「にぶく」なってしまうということだ。これも本書で指摘されていた。失恋でカウンセリング来たのに恋愛できなくなる薬飲まされるとは、なんとも微妙な話ではございますがね。




以上。