第11回世界乳幼児精神保健学会世界大会 in 横浜

 やっぱ高額なので日本で国際学会やってても出た試しがないのですが、今回はピーター・フォナギーやらブラゼルトンやら精神分析的発達論の有名どころの人が多数参加していると言うことで出てみました。
 女性比率高いです。外国の方は5分の一くらいでしょうか。
 イーモンつかって実況してみます。守秘義務が問題になるような学会じゃないから許容範囲でしょう。

ストレス下の育児:子どもと親のトラウマについての最近の研究

 シンポジウム・セッション1は早めに来てシンポジウム6「ストレス下の育児:子どもと親のトラウマについての最近の研究」に何とか席を確保しましたが、満員御礼というかちょっと部屋狭すぎ。日本語同時通訳つきです。
 最初はスイス、ローザンヌの先生、サイコロジストでピアジェの影響を受けたそうです。「新生児期における子どもと親のストレスへの接触:後の母子分離の際のストレス反応への影響」早産の幼児の受けるストレスについて。出産に関するPTSDに関する質問紙などを活用したインタビューによる調査ですね。ストレンジ・シチュエーションなんかも調べています。抄録を買わなかったのでちょっとわかりにくいです。全日参加しないと抄録はもらえないのです。ちょっとケチですね。
 母子それぞれのストレス反応を唾にまざるコーチゾールの量なんかで計測するわけですね。愛着のタイプによって分泌量も変わってるくるという・・・。正常群、口蓋裂群、メディカル・リスク群などでいろいろ比較してますね。やっぱり母子関係では相関関係が生じる。
 いや通訳付き、スライドのみだとなかなか話を追うのが難しいですね。そこらへんはわりびいて読んでいただけるとよいかと思います。
 母親のストレスは、ストレンジ・シチュエーションで子どもに影響を与える。分離時の不安は親子の相互作用の安定性を妨げる可能性がある、とのこと。


 次はドイツ、ハンブルグの女性の小児科医の先生。「満期産児と極早期産児における、生後12ヶ月時の親の心理的機能、子どもの発達と母・乳幼児相互交流」。ハンブルグ、ドイツ第2の都市ですか。横浜の姉妹都市だそうです。子ども病院の写真が凄い素敵ですね。NICU(新生児集中治療室) を「肉」と発音していてびっくりしました。低体重児の家族174を正常群と比較。4年間にわたる追跡調査の一部の発表ですね。発達状況、心理社会的資源、親の心理状態、レジリエンス、うつ、PTSD、不安、精神疾患などの調査、凄い大規模な研究ですね。ビデオでのストレンジ・シチュエーション観察も。
 低体重群の大うつ病率は母親で10%、父親で2.5%のハイリスク。母親の大うつ病と早産の関連?ちょっとよくわからないけどコーチゾンも関わってくる?
 スライドの下の方が見えないのもちょっとつらい。やっぱり抄録買わないとダメだ。

 次もドイツ、ミュンヘンの先生、「極低出生体重の早期産児の6歳までの、出産後の神経生物学的リスクと愛着、神経学的および認知的な結果についての縦断的研究」。安定した愛着を確率にするには親子間にどのような相互作用が必要か。その世代間伝承。親の安定した愛着関係が、子どもに影響を与える。母親で75%。父親で65%。新生児の場合ではどうか。
 早産の3ヶ月の新生児と母親とのセキュアな相互交流をビデオを使ってデモンストレーション。早産であっても、その後の関わりによって愛着関係を築くことは十分可能。子どもが低体重で生まれると、子どもが拒否しても無理に親がミルクを飲ませてしまう。親の側のトラウマが子どもとの愛着形成に影響を与える例のビデオデモンストレーション。
 親のトラウマの種類。急性なもの。慢性的なもの。
 子どもの側のトラウマ。急激な母子分離、デプリべーション。累積的な発達リスク。身体の損傷。79例の低体重児の調査。生後14ヶ月の神経学的発達。30%が正常。機能的問題が40%。障害が30%。14ヶ月と6歳児の愛着形成を調べると、14ヶ月時では正常時とそうさはないが、6歳の時点では回避的な愛着が50%近くで非常に多い。セキュアだった愛着関係が回避的になってしまっている。
 母親の愛着はセキュア40、回避20、外傷30。母親の愛着と子どもの愛着には関係なく、神経学的な要因の方が大きい。
 親のトラウマ以外にも神経学的な要因が考えられる。親の対してもトラウマ指向の心理療法をしているそうです。心理療法を施すことによって愛着形成は8倍になる。やっぱり親へのサポートが重要ってことですね。
 早産の子どもには神経学的なリスクがある。健康な子どもの方がセキュアな愛着形成をしている。愛着に問題がある場合に、脳内出血などの身体要因を疑う必要がある。
 最後にまたビデオ。トラウマをもった母親との相互交流。早期の場合はうまく交流できていないけれど、心理療法を受けた後でのストレンジ・シチュエーションのビデオ。母親とのセキュアな愛着関係がはっきり示されている。かわいそうだね。お母さんがはいってきて子どもは抗議の声をあげるけれどあとは大喜び。


 最後はアメリカのサイコロジストの女性。「早期産児で生まれた乳児の母親のストレスと対処スタイル」イーモンもパソコンも暖まってます。電源が持つかどうかちょっと心配。
 早産、多胎児などによるストレス。父母のメンタルヘルスはすとれすや子どもの身体的/認知的/社会情緒的発達に影響を与える。
 母親と早産の乳幼児とのさまざまな関係。情報探索ー否認の問題。不安の高低。強い母親の感情ーあまり関わらない。関わりを通じての処理ー距離を持っての処理 交流度の高低。
 赤ちゃんの写真、ほんとに小さい。死んじゃうかどうか不安になるのもわかる。
 個人のストレス反応に関連する対処スタイル。Sensitizers - Repressors(回避)。
 コーピングスタイルと情緒反応、心理状態などの関連。
 早産の子どもを持った親を対象にする。31週くらい1500g前後で生まれた赤ちゃん。失業中、未婚の母、75%は白人。これも大規模研究の一部の発表。国際的格差を感じるなー。
 コーピングスタイルによる親のストレス指標。
 親のストレス指標とコーピングスタイルのカテゴリ。
 親のストレス指標の得点。38%が高得点。赤ちゃん2人は虐待のために亡くなっている。7人が虐待/ネグレクトの可能性。痛ましい。
 不安な母親ほど、子どもがディマンディングであると感じてしまう。
 質問の時間はなし。終了。

ピーター・フォナギー「乳幼児期と境界性人格障害

 午後は精神分析家ピーター・フォナギーの講演。精神分析的な発達理論を脳神経学的な実証研究と絡めて解説。ミーハーですがのぞきに来ました。会場はまたも満員。しかも、同時通訳機壊れてるし。
 脳のメンタライゼーションの話から。メンタルなものはいきなり現れるのではなく、外界との積極的な相互作用の結果形成されると理解しました。フォナギー有名ですが、本はまだ読んだことないので後日チェックです。
 顔の一部、目のあたりだけの写真を見て、それをどのような感情表現ととらえるかというような今はやりの脳科学ですね。バロン・コーエンの社会的脳モデルというのがあるそうです。神経伝達物質によるパルスという基本的なモデルと社会性みたいな日常的概念を架橋するものなんでしょうね。それをつなぐものとして Shared Attention Mechanism(共同注視メカニズム)モデルなどが提出されているそうです。北山修先生の浮世絵の共同注視研究などということが関わってくる領域です。共同注視などとひとくちに言いますが、情緒の探知機、意図の探知機、視線方向の探知機などさまざまな複雑な情報処理過程があるようです。
 ここには単に認知的な問題だけでなく、やはり精神分析的な発達理論家、ジョン・ボールビーの愛着概念などの情緒・感情の問題も関わってきます。
 ピーターの子どもの頃の家族写真。ピーター「〜〜」の論文で博士号を取りたい。父親「そんなボールもってちゃ何にもできないぞ」ピーター先生、なかなかユーモアのある方ですね。混乱度、違った、コンランド・ローレンツの古典的な刷り込み実験。
 嗜癖としての愛着。MacLean ,Panksepp、Inselらの実験。社会的愛着は愛着混乱か。
The mesocorticolimbic dopaminergic reward circuit in addiction process。嗜癖脳科学的な説明。
 Prelclinical Models of Parenting。ラットの親行動。
 ヴォールって野ねずみ?2種のヴォール。乱交型かそうでないかでで脳の状態が違う。遺伝子レベルの説明。
 同時通訳機ちゃんとしたのに交換してもらった。
 愛着の神経イメージ的研究。自分の子どもや知らない子どもを親に見せて、fMRIで変化を見る。
 父親も同じ領域が活性化される。自分の子どもだという感情を覚える。愛着には情緒が関係してくる。
 いろいろな表情の赤ちゃんを母親に見せる実験。自分の子どもをみた場合は Hemodynamic な脳の反応が違う。赤ちゃんの感情によっても変わってくる。笑っているときは活性化が一番違う。
 赤ちゃんも母親の反応を見て笑うことが重要だと言うことを学習していく。間主観的な感情の交流によって調節機能を学んでいく。オキシトシンが愛着に関係があると言うことがわかってきた。
 男性であってもオキシトシンを嗅ぐと、顔の表情を注視するようになる。ミラーリングの能力を活性化。contingent marked mirroring。しるしをつけてかえしてもらう体験。心の状態のコントロール
 人格障害の場合はそうしたことが難しい。養育者が生で感情を返す。ネグレクトがリスク・ファクター、印をつけて返すのと、生で返すのとは違う。赤ちゃんがつらい状況であって、母親がないてもダメ。母親が理解して、しるしをつけて返す場合は違う。
 ピーターの二つの表情。Unmarked mirroring、Marked mirroing。ピーター先生講演慣れしてますね。
 high congruent & marked mirroing ビデオ実演。母親の表情に反応する赤ちゃん。しるしをつけて返してくれないと感じると、自己表彰を維持できず、ボーダーラインの見捨てられ不安を説明する。
 自分の子どもの喜んだ顔を見ると、安定した愛着を持った母親は脳の前頭前野が反応。自分の子どもは特別だというように反応。かなしい顔を見ても反応。ソクザカクも反応。
 不安定な母親はソクザカクの反応が見られない。インシュラーが反応する。母親の自分自身の悲しい体験が喚起されてしまう。それが世代間伝達の基礎かもしれない。
 安定した愛着の母親にとっては、泣いているのを見ても母親にはそれが報酬になる。自分のネガティブな情動調律が育たないかもしれない。
 またビデオ。Low contingent ' unmarked mirroring.母親が表情を制止させる。そして表情を回復させる。赤ちゃんは母親が交流を回復しても自己の体にとらわれている。
 mother accesible mother stillface mother accesible again の場合で赤ちゃんの自己注視を比較。混乱型では対象が戻っても自己注視が止まらない。境界人格障害との共通点。
 ごっこ遊び。
 要約。赤ちゃんが笑うと母親との相互交流が増す。よい関係では報酬がすくなくても交流は続く。Marked mirroring 象徴化の能力などを促進。外傷が親の外傷を再活性化させてしまう場合がある。
 境界人格障害患者の外傷体験の多さ。トラウマを体験をすると怒った表情を見たときに前頭葉が活性化される。リンビックシステムからの影響。虐待 悲しみ 愛着の活性化 親しみを求める もっと怖い目にあってしまう という悪循環。
 BPOにおける愛着の過活性。過剰な感じすぎ。
 愛着と社会認知。メンタライゼーション。遺伝的でない能力。15%が遺伝に寄与。独裁的な母親のしつけ、家族の情緒的雰囲気。前言語期の子どもも感情を持っている。
 ロンドンでの研究結果Bartles & Zeki(2004)。自分の子どもを見たときに前頭前野、側頭葉の皮質の活性化。恋愛関係のパートナーをみたとき同じ反応が起こればその人をほんとうに好きだと言うこと。
 母親的な愛も、恋愛も重なり合うような脱活性化 deactivations を引き出す。境界人格障害の場合は、親しい人も親しくない人も差がない。愛着系が非常に活性化されている。メンタライゼーションの阻害。貧しい情緒調節が外傷的なストレスを引き起こし、愛着システムの過剰活性化がおこり、否定的な情緒、認知がひきだされる。判断力が阻害。
 主観性の前メンタライゼーションモデルがBPDを支配している。心理的等価性。pretend mode.


愛着理論と精神分析
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ビデオ・セッション

 ビデオ・セッションは満員のところがたくさん。ちょっと疲れたのもあって座れるところに。フィリピンでの子ども支援の日本のNGO活動のまとめのところに。お茶の水大の青木先生。セッションの終わりに参加者一同で集合写真をとる、というようなアットホームなセッションでした。

Plenary Interface I

 メインホールで「泣きやまない赤ちゃんの原因・治療における自己調節能力を多面的に検討する」に出る。入り口で明日のトーマス・ブラゼルトン博士の一般講演のちらしをもらったけど1918年生まれって90歳ですか?いちおうぐぐってみましたが正しいみたい。うーん凄い。


 モジュレータの方の症例を、コメンターの二人が、力動的な視点、親ー子の相互交流などの視点からビデオだけを見て考察するという企画でした。
 ミュンヘンの3ヶ月の赤ちゃん。夜泣き。乳首を噛んでしまっておっぱいをよく飲めない。抱いていないと寝ない。母親はうつ的に。マザリングの失敗に関してアンビバレントな感情。
 この事例についてビデオの情報だけからコメント。
 母親ー乳児の交流、父親と乳児の交流と家族システム、社会的資源。
 母親と赤ちゃんの相互交流のビデオデモンストレーション。アイコンタクトを避けている。眉をしかめて無表情。泣くこともむずかることもない。筋肉の脱力、応答性もない。身をよじる回避行動。抱っこしても状況は変わらない。
 母親の語りかけも早い。反応しなくて刺激するがうまくいかないという悪循環。子どもにイニチャティブがない。陰性の相互性。
 観察、転移、逆転移という視点。情動と表象。
 養育者の機能不全。赤ん坊が泣く力。親の愛着表象、被害的な表象を喚起する。
 母親も赤ちゃんもがんばっているけれど、うまくいかない。「お母さんは緊張してるみたいでこわい」「こんなにやっているのに」。両者とも不安。
 通訳機はこれもダメ。ちょっとひどい。「だっこされるともっとやな感じ」
 授乳のビデオ、おっぱいを飲んでくれない赤ちゃんへの怒り、その怒りに対する赤ちゃんの反応、悪循環。
 研究者による介入。泣くことを我慢している過敏さ、緊張。
 神経学的問題と反射。
 父親との相互作用のビデオ。膝の上に立たせていて笑う、泣き出す赤ちゃん。椅子に座らせている赤ちゃん、お父さんの指をかみ、そしてアーアーいいながら笑う。父親はプレイフルに関わっている。噛まれたら、噛んじゃうぞ、とか。赤ちゃんの発声。情動調律。ユーモア。興奮させすぎるというリスクも。「いろいろあるけど楽しんでる」という父親の姿勢。間を取ることの重要性。赤ちゃんがコントロールすることを良しとする。自己効力感を高め、相互調節を高める。
 家族システムの評価。三者関係とは二者関係に何かが追加されたというものではない。
 両親との三者関係のビデオ。父親に抱っこされて笑う赤ちゃん。
 ミニ分離の反復。本当の三者関係がない。機能的に共同養育をしていく。一方で無能な母親と思い、引きこもってしまう。母親の注意をひくために競争する。赤ちゃんに対して連合してしまう。家族の絆を考えることが重要。7年の結婚生活が資源として考えられる。父親も来院しているのは資源。
 観察の環境を変えると驚くような変化が起こる。反応しない、赤ちゃんの反応を待つ。笑ったり、いろいろなサインを送ってくる。母親が話しかけると視線をそらし、いやな顔をしている。母親の無表情はストレスになると言うが、無表情の母親の方がかわいい赤ちゃんになっている。表情も合わせる。相互性。確かに凄い。驚くべきコミニュケーション能力。
 <コメント>文脈の変化。母親が侵入的になるのでなく、コンテインしている。自分の力を利用する余裕。良性の応変性を母親からもらう。母親の相互作用のレディネスへのマイクロキューを見ている。当惑、安心、否定的な応変性に逆戻り。
 距離ができて赤ちゃんは居心地がいい。母親は赤ちゃんが可愛いと思うけれど、だんだん自信がなくなって不安になってくる。
 おむつの赤ちゃんをあやす母親のビデオ。
 うまく関われるときもある。特に内科的問題はないときいて母親が安心。赤ちゃんが天使になるのはどういう時?反応が反応を呼ぶ肯定的なループ。