水不足

水が未だに手に入らないことによる、キャンパスの動物たちの影響は深刻だ。
昨日は牛が猛烈に「水がねーぞぅ!」と叫びだし、山羊たちもその狭間で「水がないよー」と叫んでいた。
牛は角をぶつけわずかな水を求め戦い始めた。
それでも動物を担当している握り師(ニギリシ)さんは、どうせ手に入らないからと行動する気配はない。
こういう平常心はまねたくないが凄いと思う。動じない。動物のことだからか。

あまりに牛の様子がおかしいので水を何とかして手に入れるため学校内を探し回った。
水はすぐに見つかった。いつも水を溜めておくタンクの底にかき集めれば、程度に残っていた。
タンクは結構大きいのでわずか数センチの高さの水でもかなりの量になる。
そこらに転がっているホースを使って理科の実験なんかでよくあるサイフォンで集めだした。


一週間はこれで何とかもつ。一生懸命集めた水を牛にやると、うまそうにゴッキュゴッキュ音を立てて呑み始めた。
弱いものは追いやられ順番を待つ。あげてもあげても飲む、飲む。相当に乾いていたようだ。

そんなこんなしていると、喰い尻さんが隣のバス会社の水道から水をもらえるように交渉してきてくれた。
決して動物のためではなく、自分たち人間の体を洗う用の(飲むことに関しては何とかなるので)。
水の問題は一時解決した。一時だが。。。

牛舎の掃除

牛舎を久々に見て、もの凄い量の糞がたまっているのに気付く。
糞の泥の中をグチャグチャと歩いているようだ。
牛の体も糞まみれだ。
これが南アのやり方なのか?
僕は日本のやり方すらも何もわからないのでなんとも言えないが、パセリに聞くとこれはまずいようだ。
と言うわけでパセリと二人、牛舎から糞を掻き出す事に。

もの凄い数のハエと時たま現れる糞虫に邪魔されながらも掻き出しに精を出す。
疲れて休むと肌が露出している部分にハエが50匹くらい止まる。こそばゆくてたまらない。
かつて、難民の体にハエがワサワサ付いているのを見たことがあったが、顔に関してはあんな感じだ。
でも僕は牛のように振り払えるだけましだ。
コバエも空気の色を変えるくらいいて、スコップを動かすたびにプチプチと肌にぶつかるのを感じる。
糞が醗酵して硫化水素アンモニアを発生していて気分が悪くなる。
牛番アルファは何をしていたのだ。もう。
一輪車にして30杯はあった。
幸いグニ牛(皮専用)と呼ばれるこの牛は極めて強い牛なので病気はしていないが、相当ストレスが溜まっているに違いない。

パキスタン人の店の被害

まだストライキは続いているので夜でも外はにぎやかだ。
たくさん動いたせいで疲れ、四阿で休んでいると、ナトリウムランプでオレンジに色付けされた暗がりから妙な音が聞こえてきた。
ものを激しく破壊する音。100mくらい離れた店の方だ。
喰い尻さんが「店が襲われているな」と言う。
みんな商品を掻っ攫っていくのだと言う。
昼間の暑さが残る夜でも寒気を感じた。

案の定翌日昼間にパセリと見に行くと店は被害を受けていた。
扉が破られ、見るも無惨に商品がごっそりなくなっていた。
しかも厭らしい事に「パキスタン人が経営する店」だけが被害を受けていたのである。
隣の黒人が経営する店は全くの無傷だった。
無性に怒りが沸いてきた。
何が人種差別はなくなった、この国は自由だ!だ。
そして暴力に怯え商品を泣く泣く渡したパキスタン人が哀れでならなかった。
日ごろ近隣住民は近くで物が買えるという恩恵をこのパキスタン人から受けているのではないのか?
調子のいいときだけマイフレンドと声をかけ、ちょっとした事で簡単にそんな言葉は捨て去られる。
ストライキで食べ物がないからと言うだけなら、金を出して買えばいい。
金は持っているんだから。
実際のところ南アでは政府の援助が手厚いので、食べ物が買えなくて飢える人は殆どいない。
この近辺に限って言えば聞いたことはない。
酒におぼれて金がなくなっているのはよく聞くが。
公平を期してムニシさんの弁明も載せると、パキスタン人やインド人は税金も払わず店をやっている無法者だと聞く。
だから日々の鬱憤が募って襲ったんだと言う。
でもそんなものは子供の理論だ。
結局自分たちが働かずして物を欲しかっただけのことに過ぎない。
こっちの人に対する僕の嫌いな部分が浮き彫りになった出来事だった。

それでも大多数の人はそんなことをする人ではない。
でも彼らを止めなかった(止められるものでもないが)のは事実だ。
そういう社会を暗黙に許しているのも事実だ。