New York, New York
「踊る大紐育」(ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン、1949年)」[amazon]
「これってガーシュインが音楽なんだよね」と思いながらビデオをセットしたら、オープニング・ロールで「With Music By LEONARD BERNSTEIN」と出てきてびっくり。はい、「巴里のアメリカ人」[amazon]と完全に混同しておりました。
有名な作品だけど、「働く女性」、「知的な女性」、「芸術家志望の女性」に高い価値が与えられており、「美貌しかとりえのないバカ女」がひとりも出てこない点は、もっと注目されてもいいのではないか。強引な設定のメロドラマのわりには清涼感があるのは、このためだろう。「美貌というとりえすらないバカ女(でもじつはいいヤツ)」は出てくるんだけどね。
バーンスタインの音楽は例によってワーグナー/マーラー的などぎつさが強く、コメディー映画の劇伴としては味が濃厚すぎる感じ(「ウェスト・サイド」みたいなシリアスなドラマでは、この作風がプラスに作用するわけだが)。製作サイドも同じことを思ったらしく、曲をいくつか差し替えたそうだ。詳細はこちら。オレが「バーンスタインっぽくないなあ」と思ったのは、だいたい差し替え後の曲であった。
ちなみにつんくプロデュースでこの映画をリメイクするなら、キャストは
レニーとマイルス
バーンスタインとマイルス・デイヴィスは、何だかキャラクターがかぶる。以下、思いつくままに共通点を列挙してみよう。
中産階級のインテリボーイなのに、タフガイを演じようとしたこと。活動が多彩すぎるため、全体像が見えづらいこと。「誰でも知ってるポピュラーな名作」が意外と少ないこと(「ウェスト・サイド」は例外)。何をやっても頭でっかちで、理屈先行に感じられること。社会的成功を得てからも人種・民族の問題で悩み続けたこと。作風が一貫せず、つねに迷いが見られること。極端にアバンギャルドな音楽には否定的だったこと。私生活が破滅的だったわりには、そこそこ長生きしたこと。場合によって、左翼に見えたり神秘主義者に見えたりすること。
総じて「20世紀がかかえる問題」と「アメリカがかかえる問題」を真面目に引き受けてしまったせいで、やっかいな生きかたしかできなかった気がするのだ。もうちょっと頭が悪かったら、いまごろ幸せな晩年を迎えていたはずなのにね。