日常

狩野の薬を受け取りに下落合に行く。帰りは沼袋から練馬まで歩いてみる。30分もかからなかった。

漫画や文庫本の娯楽小説など数えるほどしかなく、人文系の専門書で棚が埋め尽くされている、やたらとハードコアな品揃えの古本屋を沼袋駅前で発見する。特にフランス文学関係の充実ぶりが凄まじい。澁澤龍彦の『フローラ逍遥』ですら、この店では「通俗作家のお気楽エッセイ集」に見えてくる。絵に描いたような「庶民の町」でこんな店をやっていて、経営は大丈夫なのか。自分の土地なんだろうなあ。

今月末に細かい入金があるまで財政事情が厳しいので、P.R.O.M.は欠席。むぐぐぐ。

New York, New York

踊る大紐育」(ジーン・ケリースタンリー・ドーネン、1949年)」[amazon]

「これってガーシュインが音楽なんだよね」と思いながらビデオをセットしたら、オープニング・ロールで「With Music By LEONARD BERNSTEIN」と出てきてびっくり。はい、「巴里のアメリカ人」[amazon]と完全に混同しておりました。

有名な作品だけど、「働く女性」、「知的な女性」、「芸術家志望の女性」に高い価値が与えられており、「美貌しかとりえのないバカ女」がひとりも出てこない点は、もっと注目されてもいいのではないか。強引な設定のメロドラマのわりには清涼感があるのは、このためだろう。「美貌というとりえすらないバカ女(でもじつはいいヤツ)」は出てくるんだけどね。

バーンスタインの音楽は例によってワーグナーマーラー的などぎつさが強く、コメディー映画の劇伴としては味が濃厚すぎる感じ(「ウェスト・サイド」みたいなシリアスなドラマでは、この作風がプラスに作用するわけだが)。製作サイドも同じことを思ったらしく、曲をいくつか差し替えたそうだ。詳細はこちら。オレが「バーンスタインっぽくないなあ」と思ったのは、だいたい差し替え後の曲であった。

ちなみにつんくプロデュースでこの映画をリメイクするなら、キャストは

  • なっち…アイヴィ(芸術家志望の女性)
  • ソニン…クレア(知的な女性)
  • 矢口…ブランヒルド(働く女性)
  • ケメ子…ルーシー(美貌という……)
だろうな。

レニーとマイルス

バーンスタインマイルス・デイヴィスは、何だかキャラクターがかぶる。以下、思いつくままに共通点を列挙してみよう。

中産階級のインテリボーイなのに、タフガイを演じようとしたこと。活動が多彩すぎるため、全体像が見えづらいこと。「誰でも知ってるポピュラーな名作」が意外と少ないこと(「ウェスト・サイド」は例外)。何をやっても頭でっかちで、理屈先行に感じられること。社会的成功を得てからも人種・民族の問題で悩み続けたこと。作風が一貫せず、つねに迷いが見られること。極端にアバンギャルドな音楽には否定的だったこと。私生活が破滅的だったわりには、そこそこ長生きしたこと。場合によって、左翼に見えたり神秘主義者に見えたりすること。

総じて「20世紀がかかえる問題」と「アメリカがかかえる問題」を真面目に引き受けてしまったせいで、やっかいな生きかたしかできなかった気がするのだ。もうちょっと頭が悪かったら、いまごろ幸せな晩年を迎えていたはずなのにね。