京都メディアフォーラム例会記録(2004.7~2011.12)

京都メディアフォーラム例会記録

国際関係論の新傾向

 昨日に続いて、国際関係論研究会の話題である。本日は、他の報告者の報告内容について説明する。
三日間のテーマは、最後にして、二日目以後の報告にコメントをする。


アメリカの保守と世界秩序:柏岡富英(京都文教大学
  70年代のニュー・レフトが90年代にはネオコンになったことは、冷戦に(予期した以上に)あっけなく勝利した米国が、過大に優位性を過信することで、米国が他国と比べて特別な存在になったことを、近代化論との関係で報告した。


グローバル時代の国際結婚ー主婦化という戦略ー:嘉本伊都子(京都女子大学
 日本には、外国人の家政婦が不在であることは、日本社会の閉鎖性の結果である。国内的には、男女の格差がなくなってきたことで、農村部の男子の配偶者が不在となった。そこで、中国やアジアから「アジア花嫁」を輸入した。風俗産業のアジア人女性は、性を商品化することで賃金を得ているが、「アジア花嫁」は、無料の性サービスを満たす上に、親の介護を背負う「嫁化」を求められる。
 戦後の日本女性は、自分よりも学歴の高いサラリーマン男性と婚姻することで、専業主婦という特権を得る。専業主婦は、給与を夫に依存することで、むしろ「よき妻」「よき母親」を求められ、家事と教育に全力を注ぐ。
 学歴の高い男性と同等の地位を得た女性は、海外の高学歴男性と婚姻することで、地位を得る。
 国内での男女平等が進行すると、海外から底辺層を流入させることで、代償措置を取るという格差構造が世界化されることは衝撃的だった。


国境を越える子:柄谷利恵子(九州大学
アフリカやアジア諸国で、恵まれない環境にいる子供を先進国の人が養子として引き取る事例が多発化するなかで、こどもの権利条約に基づいて、1993年ハーグ条約で条約化した。英国の法制度を事例にして、国内と国際的な養子との異同関係、マドンナの事例を挙げてながら、子供の意思が確認できない状況を含めて、大人と子供の関係、養親と実親、先進国と途上国などの不均衡な関係を前提に、どういう方策があるのかについて議論した。


1月7日
冷戦後の国際紛争空爆:定形 衛(名古屋大学
NATOによるユーゴ空爆を事例にして、空爆後の平和形成の意味を論じた。空爆の是非はともかくとして、国内での平和復興には、世界的には事例によって様々な相違があるが、そこでは未解決の問題と、対処可能な問題とがあることを議論した。


チェチェン紛争ーその経過と背景ー:野田岳人(野田岳人)
ソ連時代やロシア時代におけるロシア・中央アジア民族政策の中で、分離・強制移住・帰国・孤立などを経てきたチェチェン民族とナショナリズムの関係について、紛争直前の状況について議論した。大国の意図や石油資源の存在など複雑な要因が絡まって、先の見えない現状を理解するのが精一杯だった。


グローバル化と福祉政策の衰退:松田哲(京都学園大学
 グローバリゼーションの意味とそれに関係する英国とスリランカの事例を元に議論した。福祉国家政策は、成長政策(Growth-led Medeated Security)と公的支援策(Support-led Security)との二つの円の交差点で実施されてきたのであるが、1960年代後半から米国経済の破綻の中で、前者に傾斜した新自由主義が米国や英国で採用された。
 その動きを、交差点からより後者に傾斜した政策を採る必要から国際公共政策が唱えられている。この政策と市民社会との関係を議論するためには、市場ー公との線上での理解では不十分で、むしろ参加の多少という第二の軸を採用することで、参加程度の大きい部分に「市民社会」が入り、その逆には「権威的な動き」が入ると筒井は提案した。


久しぶりの本格的な国際関係の議論に参加して、最新動向が把握できたと共に、その重要性を再確認した点で、有意義だった。自分の知らないことを吸収し、そこに自分を置いてみることができることが学びの原点である。


ただ、蛇足ながら、三日間約22時間の詰め込み議論だった中で、参加者の何名かがかなりひどい風邪を煩っていた。うつされてはかなわないと思い、報告者が一人終了毎に、換気をしたが、甲斐なく7日夜は少しもらったようだ。


ゼミ生には、風邪だけはひくな、と言っているので、火曜日の授業までには直そうと、8日は静養していた。おかげで、夜にはほとんど回復したことで胸をなぜおろした。


みなさん、風邪は自分の大切な時間と体力を失うだけでなく、仲間のそれをも奪います。くれぐれもお気をつけください。



以下は、三日間のスケジュール。

1月5日

1月6日

1月7日