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『シンプル・ミーディア』〜yuichi0613の日記 RSSフィード Twitter

2010-01-16

[][]アメリカ新聞業界の危機その2 経営危機への対応

その2は危機への対応としての、レイオフ、オンライン新聞へのシフト、新聞の廃刊・休刊が行われているという報告。

第2項 レイオフ、新聞の廃刊・休刊、ウェブへのシフト


前記事で見てきたように、全般的な傾向として新聞紙の発行部数が減り、広告費も減りつづけている。


こうした傾向は大手メディアの間でも例外ではなく、例えば2009年10月に発表されたABCの4月〜9月期の新聞の発行部数調査によると、アメリカの主要新聞の発行部数は1紙を除いて軒並みを減らしている。

特に全米一の発行部数を誇っていた全国紙「USAトゥデイ(USA Today)」が前年同期比でマイナス17.2%と大幅に部数を減らし200万部を割り込んだことで、ただ1紙だけ前年同期比0.6%増と部数を伸ばした経済専門紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」に発行部数首位の座を明け渡している*1


こうした傾向は、新聞経営にどのような影響を及ぼしているのだろうか。

2009年の後藤秀雄の論文*2 から、ある著名なメディア・グループの迷走とアメリカ新聞業界が直面する現状を見ようと思う。

トリビューンの連邦破産法11条適用に見る新聞業界の現状

2008年12月8日、大手メディア・グループのトリビューン(Tribune)が連邦破産法11条の適用を申請した。

この会社の当時のデータとしては、新聞発行者としては収入および部数において全米3位を占め、従業員は約2万人。日刊紙として「シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)」や「ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)」、「ボルティモア・サン(Baltimore Sun)」など8紙を擁し、発行部数の合計は週日220万部、日曜版330万部。ピューリツァー賞を93度受賞し、テレビ局23局とラジオ局1局が傘下にあった。

ウェブ・サイトを50個以上持ち、月に1550万人のユニーク・ビジターがいた。その他、無料紙やシカゴ・カブス球団のフランチャイズ権などを所有していた*3

同社は1990年代から放送局を主体に成長。2000年には「ロサンゼルス・タイムズ」を所有する「タイムズ・ミラー社」に対し当時としては最大規模の買収を成功させ、同年、全国広告の販売会社「トリビューン・メディア・ネットワーク」を設立。

経営規模も約2倍に拡大し、全国広告で大きな競争力を得た。

しかし、この買収の結果生じた事業の再編成が課題になった2007年ころから迷走が始まったという。

同社会長でシカゴの不動産投資家のサムエル・ゼル氏は人員削減を繰り返してきたそれまでの新聞経営陣の手法を批判し、経営再建に着手したが、収入の減少に業務見直しの成果が追いつかず、ゼル氏も結局は傘下の新聞各紙で編集局の人員削減や支局統合による人員整理にまで踏み切っている。

例えば、「ボルティモア・サン」紙では2008年7月に100人の人員削減を決め、そのうち60人が新聞社の命とも言える編集局員の削減であった。

また、「ロサンゼルス・タイムズ」では同年に2度に渡る編集局の人員削減を行った。

同年10月にはトリビューン社傘下の新聞各紙のワシントン支局を統合、30人〜50人程度の人員削減の計画が明らかになった。

しかし、キャッシュフローの改善は見られたが、こうしたコストダウンも間に合わず黒字転化は叶わなかったため、資産売却による負債削減に踏み切る。

単体で黒字を計上していた夕刊タブロイド紙の「ニューズ・デイ(Newsday)」を2008年に売却、またシカゴ・カブスや球場を競売にかけた。


前述の後藤の論文によると、ゼル氏は買収の際に、約80億ドルという巨額な借入金で同社の株式を買い集めて、買収に成功したという。

しかし、新聞業界の成長の見込みが厳しい中、この買収当時から専門家の間では「収入の減少に直面している会社を課題な負債で救おうとすることに警告の声が上がっていた 」と言い、ゼル氏の買収手法を「資金調達が容易だった時代の典型で、経済低迷の中では通用しない 」と当時すでに専門家からは見られていたとしている。

この事例からは、買収によって得た競争力を使って得られた広告費収入の利益分をつぶしてしまうほど、現在の紙の新聞業界が負債体質を抱えていることが伺える。


危機への対応:人員削減、レイオフ


そして、上記の例でも行われたように、収入源に対応するためのコストカットとして、従業員のレイオフなども行われている。

レイオフされた新聞社の従業員数をウォッチしているウェブ・サイト「Paper Cuts」によると、2008年は15,984人、2009年には14,784人がレイオフされたという 。

編集局の従業員のうち正社員に限った資料では、2005年には54,100人いたが、2008年に52,600人、そして2009年には46,700人と一気に約6,000人も減ってしまった*4 。また、労働省労働統計局の資料から、新聞業界の総従業員数が1950年代と同程度の水準になったという報告もある*5


人員削減がニュースの質に及ぼした悪影響


こうした編集局の無理な人員削減がニュースの質に及ぼした悪影響について、奥村信幸の報告*6 によると、メディアやジャーナリズムに関するレポートを発表する「卓越したジャーナリズムのためのプロジェクト(Project for Excellence in Journalism)」が新聞、テレビ、ラジオなど各メディアの報じるニュースのトピックについて紙面や放送時間での割合や論調について毎週レポートする内容の傾向を追うと、メディアがニュースとして「扱う問題(アジェンダ)に極端な減少*7 」が見られたという。

また、2008年に伝えられたニュースのうち、半分以上が大統領選挙と経済だけで占められてしまい「伝えられないニュース」が増え、「伝えられないニュース」として国際ニュースが約4割と最も減少したことわかった。

また、国際ニュースのなかでも最も扱われることが少なくなったイラク問題については、伝えられる情報の少なさに即時に反応してイラクに対する人々の知識が減少したことを挙げている。

編集局の人員の削減が、報道対象の多様性を奪い、また報じられなくなったニュースは人々の知識として認知されないという悪影響がある。


危機への対応:オンライン新聞への移行


他のコストカットの方法として、従来の新聞紙を印刷し配達するスタイルからインターネット新聞の発行に変える会社も現れた。「クリスチャン・サイエンス・モニター(Christian Science Monitor)」紙である。

この新聞は、1908年創刊で約100年の歴史がある。ピューリッツァー賞もこれまで7度受賞している著名な新聞だが、2009年4月から紙による新聞の発行を日曜のみの週刊にし、平日の新聞発行をウェブ・サイトやEメールを通してのオンライン新聞にシフトした。現在、『CSmonitor.com 』というオンライン新聞を発行している。

狙いは、コストダウンである。

全盛期には22万部の発行部数を持っていたが、2008年にはわずか5万部程度にまで落ち、経営基盤の弱いまま紙の発行を進めるよりはウェブでの発行に転換し、従業員をレイオフして省エネ経営を進めていくことで報道事業の継続を図る。

他にも、約150年の歴史を持つ地方紙「シアトル・ポスト・インテリジェンサー(Seattle Post-Intelligencer)」もオンライン化し、ウェブ・サイト『seattlepi.com 』を始めた例がある。


オンライン化以外のコストダウンを図った動きとしては、新聞製作過程の一部を外部に委託する「アウト・ソーシング」も一部で行われ始めている*8

例としては、2007年に「ニューヨーク・タイムズNew York Times)」が傘下の「ボストン・グローブ(Boston Globe)」と「ウスター・テレグラム(Worcester Telegram)」の従業員を解雇する一方で、インド・バンガロールの企業に広告と販売事業を委託した。

また、同様に2007年ごろから大手メディア・グループのマクラッチー(McClatchy)やガネット(Gannett)が自社新聞の広告制作などを国内外の受託企業に委託している。


危機への対応:廃刊、休刊

コストカットでも経営状態の改善が残念ながら間に合わず、所有者が手放してしまい、

結局買い手が付かなかった場合には、新聞の発行を諦めて廃刊や休刊という決断をしなければならない。

アメリカの新聞の廃刊・休刊などを追っているウェブ・サイト『Newspaper Death Watch 』によると、2007年3月のサイト開設以来、廃刊・休刊を選んだ新聞は、2009年末時点で「ロッキーマウンテン・ニューズ(Rocky Mountain News)」、「ケンタッキー・ポスト(Kentucky Post) 」など11紙、また、廃刊・休刊の危機にありながらも新聞の発行を、紙の新聞とオンラインの融合またはオンライン新聞に絞り、事業の継続を図った新聞は前述の「クリスチャン・サイエンス・モニター」や「シアトル・ポスト・インテリジェンサー」など8紙あるという。

(※筆者注:この数字ちょっと少ないかも。先日のNHKの「クローズアップ現代」でも、近年で50紙程度あると触れていた。事実関係を確認次第、修正します。)


なぜこれらの新聞は潰れたのか。

そのうちのひとつである「ロッキーマウンテン・ニューズ」最後の編集長兼発行人であるジョン・テンプル(John Temple)氏の寄稿文*9 によると、「ロッキー」紙が抱える特殊事情*10 に加えて、アメリカ特有と言える都市別のクラシファイド情報サイト『クレイグスリスト』やその他の競争相手に新聞広告の柱である求人広告や不動産広告を奪われてしまったこと、そしてアメリカ新聞業界に襲いかかる3つのトレンドとして経済不況、デジタル革命、社会の変化があったと指摘している*11

なお、第1節冒頭で触れた「イースト・バレー・トリビューン」は2009年の大晦日を最後に廃刊することを11月に発表したが、2010年1月1 日の記事で社の買い手との交渉中であり、少なくともその交渉中は新聞発行およびウェブでの情報発信は続けるとした。もしこの交渉が成功すればだが、事業継続を一度諦めたとしても、それを引き受ける買い手がいれば新聞発行は続けることは可能である。


危機への対応としての諸方策

このように、紙新聞の発行そして配達という従来のスタイルが、アメリカにおいてはジョン・テンプル氏の指摘した3つの要因、「経済のメルトダウンによる広告不況、デジタル革命が起こした生活の変化、同質から多様性へとアメリカ社会が変容したこと」を背景に収益を十分に生まなくなった結果として、人員削減など身を切るようなコストダウンやオンライン新聞への移行、最終的には新聞紙の廃刊、休刊などにつながっているのである。



※これまでの記事

アメリカ新聞業界の危機

その1 発行部数、広告費の推移

その2 経営危機への対応

その3 サイト無料化と有料化―『NYTimes』とマードック氏

その4 「ジャーナリズムの未来」は「新聞の未来」なのか?

その5 新しいジャーナリズムの出現


日本新聞業界の現状は?

その1 発行部数と広告費の推移

その2 社会の変化、新聞離れ

その3 経営悪化に対応する新聞社

その4 新しいメディア主体の不在

*1:「U.S. newspaper circulation plunge accelerates」『Reuters.com』、http://www.reuters.com/article/idUSN2633378520091026(閲覧日2010/1/2)なお、「ウォール・ストリート・ジャーナル」の部数には有料の電子版が含まれている。

*2:後藤秀雄(2009)「経営危機で激震走る米新聞界―不況が広告収入を直撃」『新聞研究』No.691,pp.50-54。

*3:後藤、前掲、p51。

*4:「<資料>数字で見る米新聞業界」『新聞研究』No.698、p.23。 出典はASNE(米ニュース編集者協会)より。

*5:「businessinsider.com」『CHART OF THE DAY: The End Of Newspapers』、http://www.businessinsider.com/chart-of-the-day-workers-employed-in-newspaper-publishing-2009-12

*6:奥村信幸(2009)「ジャーナリストが消えていく ワシントンで見たこと、聞いたこと」『Journalism』No.228、pp62-67。

*7:奥村、前掲、p.66。

*8:廣瀬英彦(2008)「アウトソーシングの広がり―広告収入減への対応と新聞の将来」『新聞研究』No.682、p.7。

*9:Temple,John「最後の編集長兼発行人が明かす なぜ『ロッキーマウンテン・ニューズ』紙はつぶれたか」『Journalism』No.232(2009年9月号)、pp.68-77。

*10:発行地であるコロラド州デンバーには、「ロッキー」と「デンバー・ポスト(Denver Post)」があった。2001年、2紙の親会社は広告不況による共倒れを防ぐために広告・販売の共同運営の会社を作りコストダウンを狙ったが成功しなかった。2008年のメディアの広告不況に際し、「ロッキー」の親会社は同地域での2紙共存の道を諦め、「ロッキー」の廃刊を選んだ。

*11:Temple,John、前掲、pp.70-71。

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