yuichi0613's diary

yuichi0613の雑記、写真、日々の記録。

日本新聞業界の現状は? その1 発行部数と広告費の推移

これまでアメリカの新聞業界の現状、産業の苦境とそれを背景として注目される「ジャーナリズムの未来」、インターネットを使った新しいジャーナリズムの主体の出現について見てきた。
次に、日本の新聞業界を取り巻く環境の変化について記していく。

アメリカと比べるとまだまだ、危機には程遠いです。


第4節 日本の新聞業界の現状


これまでアメリカの新聞社の経営状態の悪化、それに伴って危惧されているジャーナリズムの危機に対して、新しいメディアが出現している状況を見てきた。転じて、日本の状況はどうだろうか。アメリカの例とできるだけ対応させる形で示していく。
第1項に入る前に、日本の新聞産業の構造図を紹介する。アメリカでは広告収入の比率が85%以上だと紹介したが、図 10にあるように、日本では広告収入対販売収入の比率はだいたい54対30となっている。公正取引委員会が新聞業界の現状について調べた報告では、販売収入と広告収入の比率を64対36と見ているが*1 、図にはあり全体の16%を占める「その他収入」が考慮に入れられていない。このように、アメリカでは広告収入に依存する構造であったが、日本では販売収入にウェートがかかっている点を指摘しておく。



図10  新聞産業構造図
(出典:桂敬一[2008]*2


第1項 発行部数、広告費の減少


発行部数の減少はここ数年で加速傾向


まずは発行部数と広告費について見ていく。
アメリカにおいては部数の長期的な減少傾向と、2008年秋以来の広告費の急激な落ち込みが統計数字から見られた。
日本の新聞業界の現状について、日本新聞協会の資料を参考に以下に示す。




図 11 新聞の発行部数の推移と部数の減少率
(出典:日本新聞協会の資料より筆者作成*3
注:発行部数は朝夕刊セットを1部として計算。各年10月、新聞協会経営業務部調べ。


日本の新聞の発行部数のピークは、1997年10月の5,376万部5,000部*4 であった。
この次の図は元の資料が1999年から2009年分しかないなので一番高い山が見えないが、2009年時点で5,035万2831部(一般紙4,565万9,885部、スポーツ紙469万2,946部)となり、ピークからは340万部ほどが減少している。
1996年からゆるやかな減少カーブを描いていたが、一度2004年に一般紙が20万部ほど伸ばしたのが興味深い。しかし、その後は減少スピードを徐々に早めてゆき、特に2008年から2009年の間に113万8,578部で2%の減少と、ここにきて発行部数の減少スピードが加速した。


新聞広告費は減少を見せ、インターネットは第2のメディアへ

次に広告費の推移を見る。新聞広告費のピークは2000年の1兆2,474億円で、この年に成長率が8%を超えた。
しかし、2001年のITバブルの崩壊を引き金にマイナス10%の減少を見せた。その後、2004年にプラス成長に転じたが、2005年からは成長の兆しが見えず、2008年にはマイナス12.5%の8,276億円に落ち込んだ。





図 12 新聞広告費の推移(左軸の単位は億円)
(出典:日本新聞協会の資料より筆者作成*5
※注:2007年に「日本の広告費」の推定範囲を05年に遡及して改訂しているため、2005年から総広告費が増加している。なお、新聞広告費の額には影響はない。




図 13 マスコミ主要4媒体の広告費とインターネットの広告費の推移
(両軸の単位は億円。総広告費のみ右軸を参照、他の媒体は左軸を参照)
(出典:電通「2008年 日本の広告費」より筆者作成*6
※注:2007年に「日本の広告費」の推定範囲を05年に遡及して改訂している*7


マスコミ主要4媒体の広告費とインターネットの広告費の推移も合わせて示す。
図 13によると、主要4媒体がじわじわと減少を見せるなかで、インターネット広告が6,983億円で前年比16.3%成長と伸びが著しく、総広告費の10.4%を占めた。
2009年には新聞を上回り、テレビに次いで第二のメディアになると見られている*8


減少傾向が表に出始めた日本の現状

このように、新聞業界が収益構造を広告収入に依存するアメリカにおいて総広告収入が13四半期連続してマイナス成長するような危機にはなってはいないが、発行部数、広告費ともに新聞はピークを過ぎ、現在は減少し始めたところだと言える。
特に2008年と2009年は発行部数、広告費のどちらの数字も急激な落ち込みを見せた年なので、ここ数年の傾向を注視する必要がある。
また、新聞広告だが、日本新聞協会の統計数字はアメリカ新聞協会のようにプリントとオンライン広告に分けていないので単純比較はできないが、全体的にインターネット広告が続伸する現状にあることから、プリント広告の伸びが鈍化していることが推察される。






※これまでの記事

アメリカ新聞業界の危機
その1 発行部数、広告費の推移
その2 経営危機への対応
その3 サイト無料化と有料化―『NYTimes』とマードック氏
その4 「ジャーナリズムの未来」は「新聞の未来」なのか?
その5 新しいジャーナリズムの出現


日本新聞業界の現状は?
その1 発行部数と広告費の推移
その2 社会の変化、新聞離れ
その3 経営悪化に対応する新聞社
その4 新しいメディア主体の不在

*1:公正取引委員会「新聞の流通・取引慣行の現状」平成20年6月19日、http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.july/080724tenpu02.pdf

*2:桂敬一(2008)「激変するメディア環境と『新聞』」『総合ジャーナリズム研究』No.206、08秋号、p.7。

*3:http://www.pressnet.or.jp/data/01cirsetai.html

*4:「『新聞』のいま、生業の現実2008」『総合ジャーナリズム研究』No.206、08秋号、p.8。

*5:http://www.pressnet.or.jp/data/02ad.htm

*6:ニュースリリースhttp://www.dentsu.co.jp/news/release/2009/pdf/2009013-0223.pdf

*7:2007年の改定で雑誌は推定対象誌を増加し、インターネット広告はそれまでの媒体費に加えて広告制作費も推定したため増額している。そのため、2004年以前と単純比較はできない。

*8:「ネット広告続伸、総広告費は5年ぶりに減少--電通発表『2008年日本の広告費』」『CNET Japan』、http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20388682,00.htm