A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

CAとかIAとかそもそも調べる意味があるのか?

Iwasaki Y, Gauthier P (2016) Concentration addition and response addition to analyze mixture toxicity: Is it worth testing? Environmental Toxicology and Chemistry, 35: 526–527

先日あった化学物質の安全管理に関するシンポジウム「複数化学物質のリスク評価」,複合影響の話が色々あっておもしろかったのです。リスク評価的には,永井さんのお話当たりが当面の対処の方向かと思います。ボクなりにざっくりまとめると,環境中では,(基本)低濃度で「超」複数の化学物質曝露下にあるので,ファンネル仮説に従うと考えて相加影響のみを考慮して,CA(濃度相加)かIA(独立作用,影響相加)でリスクを予測するのがよさそう。作用機序がわからない(一つとは考えにくい)ので,IAが当てはまりが良さそうだが,そこまで言い切れるほどエビデンスはない?ので*1,予防的にCAで予測したらどうでしょう。という,感じでしょうか。Iwasaki & Brinkman (2015)でGLMMを複合影響のデータに当てはまる方法を提案していますが,この統計学的な当てはめの世界はあまりに拘っても仕方なさそうに(御利益は少ないように)ボク自身が感じているのは事実です。このあたりをどう攻めるかは,人それぞれな気もします。

と本題からずれてしまいましたが,化学物質の複合影響を評価する上でCAとかRA(IA)とかそもそもテストする意味は本当あるのでしょうか。というのを提起したLetter to the Editor記事です*2。そもそも,SETAC BarcelonaでPatrickさんと会って,少し話した時に出た話題から思い立って書いた原稿ですが,無事ET&Cに受理されました*3

化学物質の複合影響を調べた生態毒性研究の多くは,作用機序はあまり深く考えずに毒性試験をして,とりあえずデータに統計学的に解析して,CAやRA(あるいはIA)の両方を仮定して,それらが成り立つかどうかを調べて,相加のモデルから外れていたら,拮抗や相乗効果について,議論するというのが多いように感じます。これについて議論した上で,「そもそもCAに必要な仮定とかきちんと考えていますか。それを無視していたら,いくら検定をしても,結果に意味を持たせることは難しくないでしょうか。」といった点を指摘して,安易にCAやIAモデルを当てはめるのはやめませんか。という提案をしています*4。じゃあ,どうするか,となると難しいのですが,これを読んでこの問題に気づいて,自分なりにきちんと考えて試験してくれる方が増えるといいなぁと思います。より実務的には,査読者から,むやみやたらに伝統的なCAやIAを使いなさい,と言われた際の反論としても使えると思います。よろしければご笑覧下さい(別刷り喜んでお送りします)。

*1:この当たりが攻める方向か

*2:最近,スティーブに原著をおろそかにしてはいかんよ,とメールされてしまいましたが,これでしばらく打ち止めです。

*3:予想していなかったこういう流れって気持ちいいです

*4:実際書き方としてはもっと弱めですが