沖縄と看護3
「沖縄」というと「長寿」
沖縄の健康に関するイメージでいうと
「100歳になっても元気で生活している老夫婦」
というイメージがあると思います。
しかし、
それは「古き良き時代の沖縄=琉球」であり、
現在はまったく逆の状況が続いています。
「アメリカ統治」という影響を
強く受けている現代の沖縄では、
人々の生活習慣のアメリカ化が進行し
肥満や糖尿病などの慢性疾患が大きな問題となり、
男性の平均寿命は都道府県別に見ても
あまり高くない状況が続いています。
しかし、沖縄の女性は
世界の平均寿命の No,1 であり、
個人的には「もはや人間を超えた生命体」
として捉えてもよいレベルの平均寿命を誇っています。
今回は沖縄の「長寿」から
看護を考察していきたいと思います。
「特殊な集団」に焦点をあてて
密度の濃い調査と観察による記述を行い、
「その特殊な要因の根拠は何なのか?」
という問いに対して仮説と事実を提示していく方法が定石であり
自分の背景をいったん捨てた上で「文化とケア」を考察して
ゼロベースで対象を包括的に捉えることが
とても重要視されています。
YUITOもこの領域の研究者であり、
アフリカやアラブで僻地や紛争、文化の中における
「ケアと医療システム」について
その興味深い集団を記述しています。
ただし自分も無意識のうちに
自己集団が有する文化に大きく影響されているので、
本当に意味でゼロベースに戻ることは困難であり
「自分がどんな文化と価値を根拠しているか」
ということを知り、
自分がどの視点から他の文化を観察し、
どの志向性=バイアスが発生しやすいのかを
自己認識する必要があります。
「相手の立場に立って包括的に対象を捉える」
という視点は看護と非常に親和性が高く、
「文化人類学」と「看護」は、
お互いに強いシナジーを生み出し、
近い存在として認識されています。
国際看護や異文化看護の基本ですね。
この領域でよく用いられる
「レイニンガー看護論」はクラシックですが、
現在の基盤を確立した良書でしょう。
- 作者: マデリン M.レイニンガー,稲岡文昭
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 1995/08
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話を沖縄に戻しましょう。
沖縄の長寿のおける研究の定義は
「年齢が100歳を越える人」
であり、英語では
" Centenarian"
と表現します。
この沖縄の長寿たちを
看護の本質を用いて研究していたのが、
母校の教員であったカナダ人の
Dr. Craig Willcox でした。
まさに沖縄の長寿を世界中に知らしめた人物です。
おかげで海外でYUITOの履歴書(CVs)をみて
" OKINAWA "という単語に食いついて
「沖縄=長寿」という理論で
ひたすら質問攻めしてくる外人医療者も多いです。
Dr. Craigは、
研究者としても成果もものすごく、みためもCoolで、
研究者としても、人物としても、
自分の人生の目標人物となっている人です。
本当に今でも
人生相談させて頂いています(笑)。
詳しい研究HPはこちらです。
The Okinawa Centenarian Study: health, diet & aging research
沖縄の長寿はどこにいるかというと
本島の北部にある名護を越えた
さらに北部の大宜味村の方に
長寿がたくさんいる集落があります。
その集落に調査に入り、
様々な方法を用いて対象を捉えて、
その長寿の因子を考察していくのです。
Dr. Craigたちがまとめて
世界に沖縄の長寿を知らしめた本はこちらです。
- 作者: Bradley J. Willcox,D. Craig Willcox,Makoto Suzuki
- 出版社/メーカー: Harmony
- 発売日: 2002/03/12
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「なぜ長く生きられるのか」という問いに対する仮説が
看護の視点から包括的に記述されています。
この看護の視点とは、
「対象を身体的、精神的、社会的に包括して捉える。」
ということです。
実際にこの本を開いてみると、
「女性ホルモンの血中の変化」という
身体的な側面を実験医学を用いて証明した項目に始まり、
「自然中心のライフスタイルがストレス耐性を向上する」
という測定を用いた精神的な発達やストレスに関する記述に移行し
「長寿を敬う風習がいきがいを強化する」
という文化人類学的な手法を用いた社会的な側面へと転換され
いくつもの層が重なり、立体となるように
長寿たちの本質を浮き彫りにしています。
もちろん、沖縄の文化から考察した
「神と自然と死」というスピリチュアルな要素まで
とりこんで対象を包括しています。
まさに「対象を包括的に捉える」という
看護そのものの視点を生かして、
ゼロベースで「沖縄の長寿」を記述して
より健康的に生きる仮説を提示してあります。
価値が似ている日本人ではなく、
カナダ人ナースだからこそできた研究でしょう。
学術的には実験医学から心理測定、
そして参加観察を主とする文化人類学に渡るまで
様々な研究方法を採用した点が
" Mix-Methods Study " として
非常に価値があると考えます。
この本と出会ったからこそ
自分が " Mix-Methods "を専攻して
参加観察やインタビューという質的なものから
心理測定や疫学測定という量的なものまで
様々な 研究方法を組み合わせて
対象を捉えることを価値としているのです。
研究方法としても非常に興味深い本なので、
興味があるかたは原著を読んでみて下さい。
その中で「長寿」には
やはり沖縄伝統の健康的な「食事」と
あの独特の文化と自然のなかで育まれた「人間関係」が
重要であったとDr.Craigはまとめています。
国際保健でも
" Social Capital "という概念があり、
人間関係が良好なほど、
健康で平均寿命が長くなるという興味深い内容であり
また看護が直感として信じてきた内容が証明され、
国際看護の基盤となっています。
どんなにいい食事をするよりも
どんなにいい運動をするよりも
「よい人間関係」という社会的な要素を強化する方が、
よっぽど Evidence Based に健康になれるのです。
また「沖縄」と「看護」から
「国際看護」へと昇華した瞬間でした。
「国際看護」は
肩を張って海外へ飛び出す学問ではなく
「地域性のあるローカルな話題」に焦点を当てて、
それを包括的に捉えて、その本質を取り出すと
実はそれがいつの間にか「国際看護」の話題へと
転換されている学問なのです。
海外よりも「日本」を再認識すると
より新しい看護の概念が
飛び出してくるかもしれないですね。
日本発の看護理論を!