とある天体観測好きの七夕観察記

真夏も終盤に差し掛かり、残暑の訪れを待つ時分、
学園正門から見える巨大な「」棟、その頂点に存在する広場、屋上
その屋上へと続く扉が、ロック解除の音とともに開き、学生服を着た数人の生徒が、天文観測用具を抱えやってきた。

「部長、本当に大丈夫なんですか?」
そう聞いたのは部を立ち上げた当初からのメンバーで、現在は副部長を務めている。
それに答えるのは、何故か、織姫衣装を着て、持ち運びができるサイズの望遠鏡を組み立てている女生徒。
「全然問題ないよ」そう答えるその顔は笑みに満ちていた。
いまさら、何故この格好をと問うものはいない。
もうすでに、こういうことはおなじみのことだからだ。
副部長はやれやれといった感じをしながらも、持ってきた観測用具を屋上に設置していった。
鼻歌交じりで観測用具を組み立てる生徒たち。
そこには、宇宙(そら)を観測することへの喜びが満ちていた。

ほどなく観測体制は整い、1年に1度まみえるという彦星と織姫を天の川を挟んで、全天の頂上付近にあること座のベガ(織姫星)、左手斜め下にあるわし座のアルタイル(彦星)。
全天でも、強く輝く星々をこの屋上に集まった生徒たちは見上げ、織姫姿の部長とともに部員たちは思いをはせていた。

「みて、あの空の頂上に輝く1等星がこと座のベガだよ。私たちの地球からは25光年離れていて、いま私たちが見ているのは25年前にベガが放った星の輝きなんだよ。
そして、天の川の中で(左上に)輝くのははくちょう座のデネブ。この星は地球から1400光年離れていて今見ているのは1400年前の光なんだよ。
そのデネブから強く輝く星を2つ下ったところにある1等星がわし座のアルタイル。この星は地球から17光年離れて今見てるのは17年前の光なんだよ。この3つの星を夏の大三角と呼んでいるの。」
部員たちは望遠鏡で星空を見ながら部長の説明を聞いている。

ある部員は「へえ〜、織姫(ベガ)や彦星(アルタイル)以外にもデネブがいるんですね。」と感心していた。
「星座図鑑やサイトとかを調べたら夏の大三角は載ってるでしょ?」部長は星空を眺めながら答えた。
「それだけじゃないぞ。夏の大三角以外にもベガ(織姫星)の右手には星がいくつかあるだろ?あれがヘルクレス座、デネブを頭とする十字架のような星座がはくちょう座、アルタイル(彦星)を中心とする星座がわし座、それらが夏の代表的な星座だ」
観測用具を設置し終えた副部長は振り返り部員たちに説明した。
感心する部員たち、彼らは都会育ちなために空を見上げる機会がない、あるいは見上げても明るい星しか見えない、そう人たち。
いくら興味があるといっても実家が田舎とかでないときれいな星が見えない。
だから、排気ガスとか工場の煙がないこの学園で天文観察している。子ども心に宇宙にあこがれた彼らは今、充実した時間を過ごしている。