東電 実質国有化へ:賠償スキームと送発電分離案

毎日新聞より。http://mainichi.jp/select/biz/news/20111208k0000m020114000c.html

東電:実質国有化へ 政府、公的資本1兆円注入
 政府は、東京電力に少なくとも総額1兆円規模の公的資本を注入する方向で調整に入った。福島第1原発の事故対応費用の増加などで、13年3月期に東電が債務超過に陥る可能性が高まっているため。来年6月の定時株主総会で新株を発行する枠である株式授権枠の大幅拡大について承認を得た上で、原子力損害賠償支援機構が東電の新株(優先株)を引き受ける形で来夏の実施を目指す。勝俣恒久会長ら東電の現経営陣の大半を退陣させ、東電の一時、実質国有化に踏み切る構えだ。

 野田政権は藤村修官房長官が座長を務める「電力改革及び東京電力に関する閣僚会合」などで東電の経営形態について議論しており、年明けにも公的資本注入の方針を示す考え。東電側は原発の早期再稼働と電気料金の大幅値上げを強く求めているが、政府は「消費税率引き上げの議論もあり、国民の理解を得るのは容易ではない」と判断。電力の安定供給確保の観点から、東電を法的整理には追い込まず、資本注入をてこに経営改革を主導したい考え。

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 東電は既に、損害賠償の費用として支援機構経由で国から計8900億円の支援を受けているが、使途は賠償費用に限られている。今後膨らむ除染費用や事故炉の廃炉費用の規模が判明していく過程で債務超過に陥るのは確実と見られている。

 廃炉を巡っては、[…]政府関係者は「現在の財務状況では最低で1兆円は必要」と話す。
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東電の経営形態を巡っては「電力改革及び東京電力に関する閣僚会合」などで、原子力部門を切り離して賠償支払いの主体となる清算会社として別会社化する案や、東電を持ち株会社に「原子力」「発電」「送電」の子会社を配置する分割案などが取りざたされている。東電はこうした事実上の「解体案」に強く抵抗しており、年明け以降は経営形態の見直しを巡って政府側との激しい綱引きが予想される。


「今頃になってやっとか」という印象と「政府も一応まともな方向を目指す気はあるのかな」という印象を受けた。以前のエントリで<今のまま賠償を進めても取引コストが無駄にかかるだけだから早く国有化すべきだ>と書いたが、これで賠償を含め事故処理および電力産業の再編が低取引コストで進めばよいのだが。記事に「東電はこうした事実上の『解体案』に強く抵抗」とあるが、こんなバカなことで取引コストを発生させないために国有化するのであって東電の現経営陣なんかの利害を考慮していては話にならない。これだけは止めてもらいたい。


さて、事故処理および電力産業の再編のプランについては公共経済学者の八田達夫氏の提言が個人的には今のところベストなんじゃないかと思っている。そこで東洋経済新報社編集部 編『震災からの経済復興』(2011)に基づき八田氏のプランを紹介する。

まず東電が資産を売って賠償の原資を作る。具体的には発電部門を売る。株主・債権者保護になるのを防ぐため。発電部門は自家発電を行っている事業者やPPS、他地域の電力会社、外国企業などが買う。ただし、原子力発電は国が買う。この当たりは寺島実郎氏の提言とも共通。
次に政府が税金で賠償する。賠償金を電気料金に転嫁すべきではない。企業の海外脱出につながるから。
旧東電は発電部門を売っても賠償金が足りないだろう。よって、その時点で破綻させる。送電部門は国に売り、国が送電に特化した新東電を発足させる。送電料金は政府が規制する。


ということでやはり送発電分離だ。これが実現できるか。記事中にあげられている例は八田氏の案に近いものだろう。

【関連エントリ】

震災からの経済復興 ―13の提言

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