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2012-01-22

[][]橋下市長にフルボッコにされた山口二郎氏と現場を知っている教育学者の苅谷剛彦09:14 橋下市長にフルボッコにされた山口二郎氏と現場を知っている教育学者の苅谷剛彦氏を含むブックマーク

池田信夫ブログの「山口二郎氏は何を間違えたのか」というエントリを読んだ。

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51768741.html

山口二郎氏(北大)がテレビで橋下徹知事市長(※誤字訂正)にボコボコにされた動画を紹介している。

池田氏は「なぜ山口氏はボコられたのか」と問い、山口氏が「選挙で勝ったからといって正しいとは限らない」「競争原理はよくない」といった原則論・抽象論しか持ってなかったからと答えている。

まあ妥当な答え。

そして池田氏は橋下氏の教育改革について、教育委員会日教組支配のための手段であり「これに目をつけたのはエライ」と褒めている。結局は「日教組支配の非効率性をなくせ」という今日も池田氏は平常運転

あとこのエントリについては、一点誤りを指摘してきたい。山口氏が丸山眞男氏の弟子だと言っているがおかしい。だって丸山氏は政治思想史で山口氏は行政学で専門からして違うじゃん*1。山口氏の師は辻清明氏→西尾勝氏という東大行政学の系譜の人たちだろう。



橋下・山口論戦に話を戻すと、実は山口氏の小泉内閣など新自由主義批判はいつもこんな抽象論レベルである。本当にレベルが低い。例えば『若者のための政治マニュアル(2008)を読めばそのレベルの低さが分かる。


番組中に橋下氏は「学者は現場を知らない」と学者全般を不必要に批判してしまっていたが、「じゃあ、現場を知っている教育学者はどう言ってるの?」という問題になる。


最近は教育学については苅谷剛彦氏(オックスフォード大)の本しか読んでいないので、苅谷氏の本を何冊かそれぞれ簡単に紹介したい。

1.苅谷剛彦ほか『教育改革を評価する』(2006)

まず一冊目はこの本。中に次のような文がある。

ここで重要なのは、この評価プロジェクトが、たんなる印象論や経験論を許さない「議論の空間」を成立させたということである。(p.55)

現在の教育改革は公教育の内実を決定するプロセスを、これまで以上に教育専門職の外部へ開いていくことを求めている。(p.58)

明らかに橋下氏に軍配が上がっている。この二文だけでは評価できないかもしれないが、本書全体を読んでもらえば分かると思う。

この本は番組で山口氏も言及していた愛知県犬山市の教育改革を苅谷氏とその教え子たちがインタビューやら調査票やらいつもの苅谷氏らしい統計手法で分析したもの。

やはり教育学者の知見から言っても山口氏に勝ち目はないのではないか。


2.苅谷剛彦ほか『脱「中央」の選択』(2005)
脱「中央」の選択 地域から教育課題を立ち上げる (岩波ブックレット662)

脱「中央」の選択 地域から教育課題を立ち上げる (岩波ブックレット662)

二冊目。そもそも苅谷氏は教育の文科省に反対し、教育の地方自治を主張しているという点で橋下氏に近いとも言える。本書では、鹿児島県教育委員会が文科省のゆとり教育政策を各学校の実態に合わせて換骨奪胎し成功を収めたという主張をしていた(上述のようないつもの統計的手法に基づく)。ということで池田氏のように教育委員会がどうこうと単純には言えないと思う。池田氏も抽象論で語っているに過ぎないのではないか。なお、苅谷剛彦ほか『教員評価』(2009)も宮崎県教育委員会における同様の事例を紹介したもの。


3.苅谷剛彦、山口二郎『格差社会と教育改革』(2008)
格差社会と教育改革 (岩波ブックレット)

格差社会と教育改革 (岩波ブックレット)

一方、苅谷氏は、教育の市場化に反対という点では山口氏と同じ意見だ。私は橋下氏の教育改革が教育の市場化なのかは知らないが、テレビでの山口氏の言い方はそれを前提にしていた。

実は苅谷氏と山口氏には対談本があり、その中で苅谷氏は教育の市場化を批判している。苅谷氏が批判する教育の市場化とは私立学校偏重や塾偏重ということだ。よって山口氏のいう教員の評価という話とは異なる。本書で苅谷氏はいつもの統計に基づき私立学校偏重などが教育格差を生んでいると批判している。

なお、この対談でも山口氏はテレビでやってたような薄っぺらい新自由主義批判をしている。


4.苅谷剛彦ほか『杉並区立「和田中」の学校改革』(2008)

かといって苅谷氏は自由主義的教育改革を否定しているわけではない。杉並区立和田中は元リクルート藤原和博氏を校長に抜擢して話題になった。本書はその藤原氏の学校改革についてその成果をいつもの統計的方法で分析したもの。

まず杉並区の場合も教育委員会が藤原氏を抜擢して教育改革を進めたという点が指摘できる。

次に藤原氏の行った民間の発想をベースにした自由主義(リベラル)的な改革が重要。例えば、教員の雑用を減らし授業のために使う時間の割合を増やした。苅谷氏はこのような自由主義的改革も評価している。同時に藤原氏は共同体主義(コミュニタリアン)的な改革も行っており、成績下位の子どもに対する補習や子ども同士の教えあいを推進した。苅谷氏はマスコミ視聴率目当てで市場主義的な改革しか報道しない、このような共同体主義的な改革もあったのに、と怒っている。

藤原氏と共著を出している宮台真司氏(首都大)はリベラリズムの教育改革ばかりを重視するが、私としては「どっちもやる」という藤原氏の方針は賛成できる。


5.結論

最後に個人的見解のまとめを。

  1. 山口二郎氏の新自由主義批判は薄っぺらいので橋下氏にボコられるのも当然
  2. 苅谷剛彦氏の言うように教育の市場化は教育格差を生む
  3. しかし、教育改革は地方自治とともにあるべきであり、教員評価もその一環。教員評価は日教組・教育委員会から地域に開かれるべき
  4. よって、橋下氏の教育改革が2.ではなく、3.なら賛成。逆ならば反対

結局、私は苅谷氏の意見を信用しているということだ。苅谷氏の議論は山口氏や池田氏に比べて、明らかにバランスがとれてる。

ほかには内田樹氏が苅谷氏から影響を受けてよく言っている<教育を受ける前と受ける後では本人(子ども)の評価基準が変わるので、本人は市場主義的に(コスト・ベネフィットで)自分の受ける教育を評価できない>という指摘も重要だろう。


若者のための政治マニュアル (講談社現代新書)

若者のための政治マニュアル (講談社現代新書)

人生の教科書 よのなかのルール (ちくま文庫)

人生の教科書 よのなかのルール (ちくま文庫)

*1:丸山氏自らが"出店"と呼んでいた"政治科学"を専門と呼ぶなら話は別。

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