yukihiko yoshida’s dance writing:tokyo dance diary

2018-02-19 薄井憲二先生のお別れの会

薄井憲二先生のお別れの会(芝パークホテル・ローズ)

 薄井憲二先生のお別れの会が先生が良く宿泊されていた芝パークホテルで行われた。バレエ界を中心に国会議員・舞踊団体の幹部など関係者が多く集まった。日本社会で良く知られているダンサーでは黒くシックに装った吉田都さんや平服のジーンズで現れた熊川哲也氏の姿もあった。舞踊界のみならず電通など各界の関係者から花が寄せられた。

 薄井先生は多くのバレエに関心がある人達と手紙なども含めやりとりをされていた。ある先生は薄井先生と10年以上手紙だけでバレエについてやりとりをし、15年ほどしてやっとお会いしたという。バレエを学ぶ・研究をする人たちの国際的なつながりの大きな結節点であった。同時にバレエを社会へ発信する上で常に情熱的に大きな役割を果たされていた。

 先生は良く知られているようにシベリア抑留を経て生還した日本人だった。その悲惨な生活を通じてロシア語を学んだところがある。ロシアに対する気持ちは最晩年まで本当な複雑なものであり平和の大切さを主張していた。私は南方で同じように抑留されその時の演劇経験から後年に舞踊批評家になった後年の桜井勤先生の付き人をしていた。故に抑留のような経験を経た人間の強さと生きる力については薄井先生に接した時もすぐに強く感じた。

 先生は師の東勇作先生が踊った「牧神」がきっかけとなりバレエの道に入られた。最晩年の映像で仙台に東先生の銅像九州から移転をさせる時に「東勇作ほどの存在を私は生涯に本人とあともう1人しかみたことがない」と述べている。東が踊った「牧神」については彼が日本で活動をしながら多く調べた情報に基づいている。戦後になって正しいバージョンが上演され8割正しいものだったという。このことを考えるとその存在の凄さを感じ取ることができる。東に限らず蘆原英了先生を含め”洋舞界のパイロットたち”が成し遂げたことは大きかった。

 私事になるが、生前良くお電話をいただいた。夜も夜半になろうとしているこんな時間に誰がと思って電話口にでると「バレエの薄井です」と、いつもの元気な声がはじまり、それからバレエについて小一時間ほど電話で話すことが多かった。先生はいわゆる夜型で夜に研究をされていたのだ。後年の講演のためのリサーチに協力したこともあり、先生からのリクエストにそって資料をアーカイヴ・ライブラリーで閲覧しドキュメント類を送ることがあった。先生からの調査案件に付随する情報は貴重なものであった。また情報を得るプロセスや論証の過程も見事なものであった。私の研究にも協力いただきインタビューなども実現できた。先生は学校などには所属していなかったが、研究の側においても私の師の一人ということができる。

 先生は古美術の仕事で実績を残した舞踊人の一人でもある。美術展の図録などに薄井先生の名前が残っているケースもある。

例えばこんな本がある。

古代エジプト壁画 / 薄井憲二解説

東京 : 大日本絵画, 1982.7

 美術の仕事をしながら海外へ渡航し、貴重な作品の上演をみたり、バレエに関する一大コレクションを収集された。これが兵庫県立芸術文化センターにある薄井バレエ・コレクションだ。6500点以上のそのコレクションは私も閲覧したことがあるが実に見事なものだ。ノイマイヤーがコレクターとして先生のライバルの一人だったことも語られることがある。

 私の原稿・研究がきっかけになり、先生は古美術のマーケットから資料を手に入れられて、「吉田君、日本のバレエ界にとって一つの資料になるだろうからあの資料を購入しておいたよ。兵庫に入れておくから見に行くと良いよ」とお電話下さった。その頃はこのコレクションの目録は刊行中だったこともあり、その資料の事も目録に記載されている。

 今でも客席で多くの関係者に貴重なバレエの情報、正確な年代で作品や出演者、その時代のバレエ界について惜しむことなく語り続けた先生を思いだす。それが多くの人々をバレエへと導き続けたのだ。本当にありがとうございました。あの世で東先生や有馬龍子先生、蘆原先生、そして洋舞界のパイロットたちとバレエについて語っていてください。日本の新世紀のバレエ界の為に尽力します。

2017-09-30 シティ・バレエ・サロンVol.6

東京ティバレエ団「シティバレエ・サロン Vol.6」

 今回の本企画では女性振付家が活躍をみせていた。会場となった豊洲シビックセンターホールは演出によってはパネルを外すことで劇場の中からレインボーブリッジを遠望できる演出を楽しむことが出来る会場でダンス公演が増えてきている。渡邉優のシンフォニックバレエ「Blue & White」はゴージャスな夜景の光と舞台照明、白と青の衣裳の踊り手たち(中森理恵、飯塚絵莉、加瀬裕梨、吉留諒、吉岡真輝人、杉浦恭太)を楽しむことが出来る良作だ。草間華奈「孤独の先に…」は少女(松本佳織)の歩みを綴った詩編に基づきながら、主人公と紫色のキャラクターたちが音や身体の表情の変化を通じて描きだしていく丁寧な作品だ。二作品とも色調を上手に用いた演出といえる。

 中弥智博「numero5」は、オールド・ファンには舞台の上で食べるのは良くないとされることもあるとはいえ、野菜を食べる場面を可愛らしくわざとコミックに入れてみたり、円を描き手拍子と共に弾けるなど、一般的なバレエ・ダンスの構成にみられない場面を多く取り入れた力作である。男女の世界を描いた石黒善大「夜、」と共に現代美術を用いた演出、接点を模索していくと広がりがでてくると考えられる。浅井永希「Nostalgia」はよりシンプルに象徴的な物語に絞っていくと多義でありながら明快になるともいえるが、ダンサーたちの演技は素晴らしかった。

 5作品いずれも日本のバレエ界の現代のスタンダードな作風と比較してみると、それぞれの個性と発想の萌芽がある。それが大きく育つ日が楽しみだ。

(9月30日、豊洲シビックセンターホール)

2017-08-27 マクミラン没後25周年

小林紀子バレエシアター「マクミラン没後25周年記念公演」

注目をされたマクミラン「春の祭典」(日本初演)は黒い衣裳の踊り手たちが舞台いっぱいに広がる。シンプルで意外だが素晴らしいダンス表現であり、しっくりくる内容だ。マクミランの興味深い横顔と振付家としてのスケール感を感じさせる。黒という混乱の時代を想わせる色調を用いたファシズム台頭前の世界、1920年代〜30年代良さを想わせる「LA FIN DU JOUR」(日の終わり:日本初演)では島添亮子・高橋怜子の演技が冴える。ピアノ・オーケストラを通じて紹介し時代に迫った。アシュトン「バレエの情景」は稽古などのシーンも入る軽快な演目といえる。指揮はポール・ストバート、演奏は東京ニューフィルハーモニック管弦楽団。前者2作品は現代社会を意識した内容と考えることもできる。

(8月27日、新国立劇場オペラパレス)

2017-08-22 及川廣信「カフカのサーカス」

サーカスのスペクタクル性、現代社会を穿ってみる視点に注目が集まりリバイバルな昨今だ。作家カフカの世界には「サーカス」が登場する。及川廣信はそこに着目した新作を発表した。一座の進行役はカフカの生涯や作品に登場する場面を寓意(アレゴリー)のように描写していく。生前は無名だった作家(蒼浩人)の表情を織り交ぜながら情景は展開する。作家の作品も次第に入り時混じっていく。舞踏の相良ゆみはアトラクションの場面で久世龍五郎、坂上健と共にバレエシーンも披露し客席を沸かせた。NYCから帰国中の貝々石奈美のコンテンポラリーバレエが繰り出す尖鋭なムーヴメントや小劇場系でパフォーマンスで名を馳せるスピロ平太の笑いを誘う捨て身の芸もサーカスの民衆娯楽の味わいが加味され味わい深い。

及川のメソッドに注目した前回の大野慶人との共同作品に続く本作は、作中の表現や構成にそれが応用されており、ジェストを中心に身体技法が見事だ。蒼や演劇でも活躍する清水穂奈美が継承するアルトーメソッドを自然に作中に盛り込み作品を成功に導いた。及川の近年の公演ではメソッドの特色や独創性そのものをテーマにしてしまう事で、独自な世界観を理解できるか/できないかという一線が作品にあったが、この作品では寓意やサーカスの持つ独特な親しみやすさと結びつくことで優れた表現を導いた。フラヌ―ルとして戦後を生きてきた巨匠の歩みが送りだした最晩年の名作と言っても過言でもないかもしれない。本作に及川は声で出演。さらなる活動についてもメッセージでアピールした。

及川のグループは土方巽・大野一雄らの舞踏に対抗するように、パフォーマンス・フェスティバル・IN・ヒノエマタやShu Uemuraとの活動を通じて、浅田彰と情報社会論で並んで注目されていた粉川哲夫や現代の演劇評論の大家たちと独自の場を構築してきた。及川の系譜が80年代に八戸で実現させたイベントにカフカ・コロックがある。これは後に「カフカとサーカス」(三原弟平、1991)などの著作につながる企画だった。自身の活動から生みだしてきたコンテクストの中から、カフカとサーカスという2つのキーワードに焦点をあてることで良作を送りだした。

(8月22日、D倉庫、ソワレ)

2017-08-05 「Summer Mixed Program」

スターダンサーズ・バレエ団「Summer Mixed Program」

バランスのとれたプログラムによる優れたバレエ公演が行われた。ビントレーの「Flowers of Forest」ではスコットランドの歴史や自然が描かれた名作の日本初演。吉田都とフェデリコ・ボネッリも出演した。バランシンの「ワルプルギスの夜」では渡辺恭子らが盛り上げた。「眠れる森の美女」よりグラン・パ・ド・デゥはオニール八菜(2016年:ブノア賞)と日本でエトワール昇格をしたユーゴ・マルシャンを起用し話題性を強めている。男性ダンサーたちとはフォーサイスの人気の演目「N.N.N.N.」も上演した。ダンスの面白さ、ムーヴメントの魅力を通じて幅広い内容を楽しめる企画だ。

(8月5日、新国立劇場オペラパレス)