佐藤優『いま生きる「資本論」』(2014)


資本論』はソヴィエト連邦崩壊とともに過去の遺物になった
と僕も頭のどこかで高をくくっていたように思う。
佐藤優『いま生きる「資本論」』を読む。


いま生きる「資本論」

いま生きる「資本論」


資本論』の論理で一ヶ月の賃金は以下の三要素で決定される。


  (1) 一ヶ月の食費、服代、家賃、ちょっとしたレジャーといった、
   翌月も働くことのできるエネルギーの蓄えのためのカネ


  (2) 次世代の労働者を作り出すために家族を養う、
   あるいは独身者だったらパートナーを見つけるためのカネ


  (3) 資本主義の発展に不可欠な技術革新に対応するための学習費用


以上は生産のときに決まる。
なので賃金は分配ではない。
資本家が商品化された労働力を使ってどれほど利潤を上げようと
その金は内部留保に回され、他の資本との競争に使われる。
労働者に分配されることはない。


なんだ、いまの日本はこのとおりに進んでいるじゃないか。
新自由主義の御旗の下で。
ところどころでオブラートに包まれているから、
うっかりしていると景色全体に霞がかかって見渡せなくなる。
佐藤が指摘するようにあからさまなカタチで現実を認識するのは
自分が相対的弱者に追い込まれるときだ。


資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)


僕も定年退職しシニア契約社員を始めてみて
こうした現実が以前よりは鮮明に見えてきた。
年俸300万円になって、初めて我が事になったのだ。
年俸300万円でやりくりしてみると
年収180万円の生活も年収500万円の生活も
自分の想像、予測の範疇に入ってくる感じだ。
既にずっと弱者であった非正規雇用者、高齢者、心身障害者、
女性や外国人の多数にとっては当然見えている「現実」だろう。


資本論」をいまの視点で学びなおすことは
社会における自分の位置を再確認することだと佐藤は言う。
問題をきちんと把握すれば全面的に解決できなくとも
「出口」や「逃げ場所」を見つけることができると読者を励ます。


経済原論 (岩波全書)

経済原論 (岩波全書)


本書は新潮講座「一からわかる『資本論』」
第一期(2014年1月〜3月)を活字化した一冊。
僕も5月から同講師の同志社講座「ナショナリズムと国家」に
月一回のペースで通っている。
「採算度外視」の論理で講座に取り組む佐藤、
身銭を切って講座に通う人たちの熱心さが手に取るように分かる。
生きにくいと多くの人たちが感じる時代にこそ、
自滅せず、しぶとくサバイバルするために
知恵と技術を身につける必要があると僕も思う。



(文中敬称略)