吉村萬壱『回遊人(かいゆうびと)』(徳間書店、2017)


通勤の帰り道、途中下車して時折寄るA図書館は
新着コーナーが充実している。
「新刊は1年間、貸し出さないでほしい」
と出版界が図書館の団体に申し入れしているが
現在のところ実現していない。


回遊人 (文芸書)

回遊人 (文芸書)


本を作り出す源が経済的に枯れてしまえば、
図書館も読者である僕たちも元も子もない。
出版後6ヶ月は館内閲覧に限定する案に僕は賛成である。
けれど、新刊でも2週間の貸出が認められている今は
納税者として、フル活用させてもらおうとも考えている。
新着本棚を覗いて、
思いがけなかった本に手を伸ばせるのがうれしい。



吉村萬壱の書き下ろし小説『回遊人(かいゆうびと)』
徳間書店、2017)を読む。
中華料理店「縄首飯店」床に落ちている錠剤を飲むたびに
主人公の小説家・江川浩一は過去にワープして人生をやり直す。
設定自体は目新しくはない。
三部けい僕だけがいない街』でも
物語の枠組みは同じだった。
なのに、この作品に
徐々に引き込まれていったのはなぜだろう。



まず文体が読みやすい。
ちょっと冴えない登場人物のひとりひとりは、
よく考えれば僕たちに似ている。
普段は自分可愛さにそうは考えたくないだけで。


ごく当たり前の暮らしのいとおしさ。
ちょっと冴えなくても、
ちょっとセコくても、
人間や毎日の暮らしには捨てがたいものがあるじゃないか
というようなメッセージが、
上からの説教でなく、じわんと伝わってくる気がする。


なかなかいい作家だな。
他の吉村作品も読んでみようかな。


ボラード病 (文春文庫)

ボラード病 (文春文庫)

wikipedia:吉村萬壱


(文中継承略)