金曜日に務めを終えると、
月に一度か二度、紀伊國屋書店新宿本店に行く。
平積みの本、本棚の本、書店員のPOPなどを眺めながら
店内を何周かそぞろ歩きをし、
小遣いで買える範囲の本(主に文庫、新書)を何冊か仕入れる。
Amazon、公立図書館では見つからない本に出会うことがある。
「池上彰」「越境」「すべては"左遷"から始まった」。
三つの言葉に気持ちが引かれ、購入し、読んでみた。
池上彰『知の越境法 —「質問力」を磨く』(光文社新書、2018)。
- 作者: 池上彰
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/06/13
- メディア: 新書
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池上が現在の池上にどうやって「越境」していったか、
そのきっかけとなった「事件」を率直に書いている。
私はNHK入社後、松江、呉での勤務を経て、
東京の社会部で10年勤務しました。
その後、キャスターとして「首都圏ニュース」を5年、
「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年担当。
その間、早くキャスターを辞めて、
解説委員になりたい、と思っていました。
NHKでは、毎年、人事考課表に
今後の異動希望先を書く欄があります。
私はそこに毎年「解説委員希望」と書いて出していました。
すると、あるとき廊下で解説委員長に呼び止められたのです。
「君は解説委員になりたいという希望を出しているけど、
それは無理だな。解説委員には何か一つ専門分野がなければ。
君には、専門分野がないだろう」
NHKでの人生設計が潰(つい)えた瞬間でした。
(pp.16-17)
淡々と書いてはいるけれど、
上から目線のエリート気取り(事実、エリートなんでしょうけど)の
解説委員長の姿が目に浮かびます。
一読者としては、むしろ幸運な事件でした。
池上が解説委員にならなかったお陰で、
その後やむなく「越境」することになり、
僕たちに身近な池上彰が誕生したのですから。
本書にはすぐに実行できる、
具体的な助言も随所にあります。
それと、人の話を聞くときは、
必ず相手と斜め45度になるように座ります。
これはとても大事なことです。
正対するとまるで経営側と労働側の
労使交渉になってしまいます。
インタビューは
別に喧嘩をしに行っているわけではないので、
話しやすい環境を作ることが大事です。
(略)
もう少し関係を深めたいと思ったら、
お互いが斜めに座る。
これが相手の本音を引き出す角度です。
正面になると、人間はやはり鎧をまとってしまうのです。
(p.214)
以前から僕もなんとなく実行していましたが、
プロフェッショナルのインタビュアーもそうなんだな
と確信を持ちました。
池上チームが「越境」というキーワードを発見した過程は
「おわりに」にあります。
人生では、さまざまな場面で
高い壁に行く手を阻まれることがあります。
そんなとき、真正面の壁を越えるのではなく、
真横に移動することで、壁のない道が見つかることがあります。
これを私は「越境」と名付けました。
人生の越境ばかりでなく、
「知の越境」というのもあるはずです。
専門分野に閉じこもることなく、
さまざまなジャンルに飛び込んでいく。
いわゆる「専門家」ではない視点から、
新しい発見も生まれるはずです。
(略)
古川さん(引用者注:光文社編集担当)、
木村さん(同:取材・構成)と
何度も話し合っているうちに、
「越境」というキーワードが誕生しました。
(p.256)
「越境」は将棋で言えば、
香車ではなく桂馬のような動きを連想しますね。
このキーワードの発見が本書を俄然魅力的にしました。
編集担当: 古川遊也(光文社)
取材・構成: 木村隆司
おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか? (NHK出版新書)
- 作者: 池上彰
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2014/04/09
- メディア: 新書
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