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2017-04-07

NO.113 アンジェイ・ワイダ「世代」「地下水道」「灰とダイヤモンド」抵抗三部作

「かくも長き不在」以来の、かくも長き不在…
6ヶ月ぶりの更新です。
ずっと書きたかったのですが、なかなか時間が無くて書けなかった巨匠アンジェイ・ワイダ監督の初期作品群。
抵抗三部作より「世代」「地下水道」「灰とダイヤモンド」の三作品を取り上げます。

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「世代」は抵抗三部作の第1作、というよりアンジェイ・ワイダ監督の処女作。
ワイダ自身の戦時中のレジスタンス活動の経験に基づいた物語になっています。
主人公の青年が、反ナチ・レジスタンスの少女と知り合い、やがて、その思想に共鳴するようになり、レジスタンスに加わるが…という内容。

映像作家というには少し弱いけど、全体通してとても瑞々しい映像が印象的です。
ラストシーン、心を通わせた少女を失った青年の前に現れる新しい仲間の存在が胸を打つ。
ちなみに、その一人は後にワイダと並んでポーランドを代表する映画監督となるロマン・ポランスキー、その人です。

ここで、ワイダ作品を理解する上で基本となるポーランドという国のバックグランドについて簡単に書いておきます。
知らない人のためですので、知ってるって人はすっ飛ばしてください。
ポーランドはヨーロッパの真ん中に位置している小国で、それが原因で近隣の大国に常にその存在を脅かされています。
特に第2次世界大戦の際は、隣国のナチス・ドイツに目をつけられ、これまた隣国のソビエト(現ロシア)と同盟を結ぼうとするのですが、ソビエトにはしごを外されたことによってナチスに蹂躙され、さらにはソビエトにも侵略されるという散々な目に合います。
ワイダはリアルタイムで「ナチスドイツに侵略されたポーランドでレジスタンスの闘士として闘った」という背景を持っています。
作品がリアルなのは、そういう背景を持った人間がそういう知識を持った上で脚本を書いて演出をこなしているからです。

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さて、抵抗三部作の第2作目「地下水道」はワイダが国際的に有名になるきっかけとなった作品。
第10回カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した作品です。
本作によって、ワイダの名前は一躍世界に広まります。
個人的にも三作品の中でもっとも重要かつ見応えのある作品だと思います。

オープニングは戦時下のポーランド首都ワルシャワ。
レジスタンスたちがナチスの攻撃を受けて地下水道に逃げ込みます。
その地下水道をドブネズミのように逃げ回る姿が映画の最後まで延々と続くという希望もへったくれも無い作品です。
明確な主人公も無く、レジスタンスたちがナチに追われ、汚物まみれの地下水道を逃げ惑い、追いつめられては殺されてゆくその姿はまるで、大国に蹂躙されてゆくポーランドという国そのものを彷彿させます。いわゆる暗喩ってやつ。
ワイダ監督も意図的に「絶望」を描くことによって、その裏側にある「希望」や「自由」を観客たちに感じて欲しいと考えたのだと思います。

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そして、ラストは世界的にも有名な作品「灰とダイヤモンド」
その印象的なタイトルのおかげもあり日本でもとても人気のある作品です。
というか、沢田研二の楽曲と同じタイトルのせいかもしれませんね。
あっ、最近だとももクロの楽曲か。

物語は、重要人物の暗殺を請け負ったレジスタンスの青年が誤って他人を殺してしまい、殺人者として追われ、射殺されるまでの1日を描いています。
ポーランドを代表する作家イェジ・アンジェイェフスキの原作&脚本、白と黒のコントラストが印象的な画面構成、悲劇の主人公を演じるポーランドのジェームス・ディーンと言われたチブルスキーの魅力、など見所はたくさんありますが、やはり、本作の見所はラストシーンでゴミ溜めの中でゴミのように死んでゆくシーンにあると思われます。
この主人公の暗殺者は、殺される直前にカフェバーの女に恋に落ちて、会心して堅気になろうと考えるのですが、時すでに遅しで、自身が人を情け容赦なく殺したのと同じように自身もまた殺されゴミ溜めの上で息絶えます。
タイトルの「灰とダイヤモンド」とは、単純に言うと「同一の物質から抽出される正反対の価値を持つ二つの物質」のこと。
この言葉はポーランドの詩人ノルヴィトの戯曲の中の一文で、作品内では主人公のテロリストが恋に落ちた女に向かって語りかけています。
テロリストとしての自身の「燃え滓のような灰」の中に現れた「ダイヤモンド」とのようだと。

とここまで書いておきながらなんなんですが、この作品の面白さはストーリーにあるのは当然ですが、それと同時にポーランドという国の現代史のメタファーになっているところにもあります。
もちろん、それは原作と脚本を担当したイェジ・アンジェイェフスキとワイダ監督の胸の内に秘めた想いだったのでしょう。
実際、本作はその時代にポーランドを支配していた共産主義体制側が検閲時に、ゴミ捨て場でのたれ死にする主人公を見て共産主義の勝利を確信したという、一種幸せな勘違いを生んでしまうほど多種多様な解釈を生んでくれる作品になっています。
ワイダ監督としてはイデオロギーとは全く関係なく、時代に翻弄されて人生の大半を日陰者として生きてゴミのように死んでゆくしか無い一人の青年に同情して欲しかったというのが本音だったと言います。

さらにもうひとつ、本作品の政治的な意味についても少し考えてみます。
実はこの作品の原作は、明確な主人公のいない群像劇として書かれています。
映画を見るだけでは全く分かりませんが、原作に書かれているのは、ナチス・ドイツに蹂躙された第2次世界大戦をくぐり抜けたポーランドという国が、戦後、旧政府系のポーランド亡命政府とポーランド労働者党(共産党)が国を二分する内ゲバ闘争へと発展してゆく過程の数日間を描いています。
映画の中の主人公であるテロリストはポーランド亡命政府に属しており、映画の中では悲劇の主人公然と扱われていますが、実際のところはポーランド亡命政府の捨て駒、やくざの世界の鉄砲玉レベルの存在に過ぎません。
おそらくワイダ監督が真に描きたかったのは、左か右かの政治的ポリシーの話ではなく、政治的ポリシーすら持っていたとも思えない単なる若者とそれを上手いこと操る権力者、つまり持つ者と持たざる者の物語を描きたかったのだろうと思われます。

ついつい長々と書いてしまいましたが、前回のブログ更新から2ヶ月後の2016年10月9日、アンジェイ・ワイダ監督は波乱に満ちた90年間の人生を終えました。
生前、数多くの映画を発表しましたが、その多くが反体制の視点を持った作品ばかりでした。
右とか左とかというイデオロギー的な軸ではなく、戦前戦後ポーランドという国が歩んだ苦難の歴史を、常に民衆の側に立った視点で描き続けました。
中期の代表作「大理石の男」「鉄の男」などは、ワイダ監督にしか撮れないようなドキュメンタリーと見まごうようなリアリズム社会派映画の傑作です。(ちょっと長くて退屈な部分がありますが…)
ぜひ、こちらも観て欲しい映画ですね。


「大理石の男」第31回カンヌ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞
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「鉄の男」第34回カンヌ国際映画祭・パルム・ドール受賞
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