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2015-05-01

ex.91「未来は今」に見るコーエン兄弟の映画作り。

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未来は決して予測できない。
未来とは今この瞬間の積み重ね。
それが地続きの未来へと繋がる。
すなわち、今こそが未来。

90年代、飛ぶ鳥を落とす勢いだったコーエン兄弟の稀に見る惨敗作「未来は今」

主演は同時期に本人の代表作となる「ショーシャンクの空に」に出演していたティム・ロビンス。
共演にジェニファー・ジェイソン・リー、ポール・ニューマン。
脚本はコーエン兄弟の師匠にあたるサム・ライミが共同で担当している。

確かにコーエン兄弟にしてはイマイチではあるが、酷評されるほどひどい作品というわけでもない。
コメディなのに笑えないのが失敗なところか。

今回は作品内容よりもコーエン兄弟の映画作りに関する記事になってしまった。
ネタバレは無しかな。

映画「未来は今」

物語の舞台は1958年のアメリカ合衆国。
大学を卒業したばかりのノーヴィル・バーンズは、ニューヨークに出て職探しに励む。
経験の無さからなかなか仕事が見つからなかったが、ようやくハッドサッカー社の郵便室に職を得た。

一方、ハッドサッカー社の社長ウェアリング・ハッドサッカーは、何を思ったのか会議中に重役室の窓から身投げをしてしまう。
取締役シドニー・J・マスバーガーはこれを好機と見て会社の買収に動き出す。
会社の株価を下げるため間抜けを社長に据える必要の出たマスバーガー。
そんな彼が新社長に選んだのは、青二才のノーヴィルだった…

(あらすじ by wiki)

コインの表の裏は裏。
ロジャーコーマンの元で映画製作を開始し、サム・ライミを師と仰ぐ、インディペンデント映画作家コーエン兄弟の良いところすべてが悪いところとなって現れたような作品だ。

その原因は、お金がありすぎたこと。
それまでニューヨークの片隅で、金勘定に汲々としながらも、好きな映画を好きなように撮っていたコーエン兄弟が、初めて大金を手にして西海岸のいわゆるハリウッドで仕事をすることになった。
こんなときに起きることはひとつ。
金の使い道が分からないってことだ。

観客は意識しないが、映画の製作費は映画によってものすごく違う。
日本の低予算映画と海外の映画との差は分かるが、海外の映画同士の差は分かりにくい。
ちなみにwikiによると本作の製作費は4000万ドル(約50億円)とされている。
前作の「バートン・フィンク」が900万ドル、デビュー作の「ブラッド・シンプル」にいたっては150万ドルで製作されている。
はたして、この差異はどのような形で映像作家の手腕に影響を与えるのか。

まずは大金を回収しなければならなくなるため、大スターを起用しなければならなくなる。
本作でいえば、ティム・ロビンス、ジェニファー・ジェイソン・リー、ポール・ニューマンといった大スターたち。
もちろん、この方々の能力は疑いないのだが、コーエン兄弟の映画に合っているか否かという点でいえば疑問だ。
ティム・ロビンスはどんなにしたって「ショーシャンクの空に」の影がちらつくし、ポール・ニューマンの悪役ぶりはどことなく違和感がある。

そして、大スターを使えば撮影場所がセットになる。
コーエン兄弟作品に見られるアメリカの片田舎といった、お金が無いのを逆手に取ったロケーション撮影がぐっと減る。
なぜなら、田舎には大スターが泊まれるホテルが無いし時間もない。
超大作映画の裏側を描いた傑作ドキュメンタリー「ロスト・イン・ラ・マンチャ」にもあるが、大スターになれば拘束時間や各種条件が尾びれのようにひっついて来る。
そんな作品、コーエン兄弟には似合わない。

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そして、スポンサーすなわちプロデューサーの力が大きければ大きいほど脚本の内容に口出しされる。
プロデューサーは資金を回収しないといけないため、マスを相手にし始める。
すると内容が無難になる。
あれはしちゃいけない、これはしちゃいけない…コーエン兄弟の個性は限りなく消されてゆく。
もちろん、バッドエンドも絶対禁止だ。
ハッピーエンドでないと一般の観客たちは納得いかない。
最後に主人公やヒロインが殺されておしまいの映画に金を払うのはマニアだけだ。

もちろん、スタッフも業界最高峰の人材が揃い、その分わがままになる。
各部に予算がふんだんに与えられることによって分業制が明確になる。
逆に見れば細かいところに目が届かなくなるということでもある。
全体のクオリティをコントロールしたい映像作家にとって何より不満に感じたことだろう。

その他、プロジェクトが大きくなるに連れてあらゆる面が手かせ足かせとなって監督に降り注ぐのは他のビジネスと同じだ。
コーエン兄弟も本作で悟ったのか、本作以後、作品規模を縮小する。
次作「ファーゴ」の製作費は、本作の4分の1に過ぎない700万ドル。
しかし、よっぽどそのやり方が水に合ったのか、「ファーゴ」は評論家受けも興行収入も最高でコーエン兄弟の代表作のひとつとされている。
本作の失敗でコーエン兄弟は映画のプロデュース方法を確立したといっても良いかもしれない。

以後、コーエン兄弟は作品によって予算規模を上手くコントロールしながら作品作りを続けている。
予算が多ければ良いわけでも、少なければ良いわけでもない。
予算に見合った作品作りという映画ビジネスの肝にふれ、兄弟が映画作りの方法論を学んだ作品として記憶されるかもしれない。

あっ、でも、作品自体はウェルメイドで良く出来てますよ。
なんでこんなに人気がないのか分からない。
コーエン兄弟の作品って評価が極端すぎるんだよね。
全部、ほぼ一緒なのに…


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