川島桂子 カンテソロライヴ 「極上の憂い、情念の華」

「極上の憂い、情念の華」
パセオライヴ 川島桂子カンテソロライヴ】

のっけから「もう終わってもいい(笑)」というくらい素晴らしいノリの良さで観客の心を掴み切ったカンティーニャに続き、川島さんは、艶と憂いに満ちた声で、情感溢れる素晴らしいカンシオンを歌ってくれた。独特の粘りとノリで思わず腰を動かして踊りたくなるコケティッシュタンギージョ・デ・カイも忘れ難い。バルコニーから天の歌声を降らせたサエタを経て、後半は、ティエント・イ・タンゴ、ソレア、シギリージャ、と、カンテ・ホンドの世界を、自らの気迫の限界に挑むように、惜しみなく、重くじっくりと聴かせてくれた。川島さん自身が最高に楽しんでいるような自由自在さを感じさせつつ、練りに練ったプログラム。共演者も観客も、彼女の発する音楽の大きなうねりに巻き込まれていく快感にただ浸り、味わうだけで良かった。

ラストのブレリアの前に語った、川島さんの一言が印象に残っている。今日は師や先輩方への感謝の想いを捧げ歌ってきました。最後は私のブレリアを歌います。それは川島さんにしか為し得ない、エモーショナルな「歌い上げる」ブレリアだった。

アグヘータのもとで暮らし、彼らの薫陶を直に受けてフラメンコを学んで来た川島さんは、誰よりもフラメンコを求める心を強く持った人だ。天は川島さんに、フラメンコの黒い魔力に魅入られる感性と、その一方で、艶と湿り気のある独特の美声を川島さんに与えた。乾いた叫びのようなカンテへの渇望と、ウエットな深みのある歌唱力を持つことを自覚する川島さんは、ピタリとは重なり切らない方向性の中で逡巡し続けている。そしてそれこそが川島さんの魅力を際立たせていくのだ。

齢を重ね、経験を積んでいくことで、人間の苦悩を内在するフラメンコへの追求はより深まっていくだろう。そして歌い続けていくことで川島さんの艶のある歌声はよりいっそう磨かれていくだろう。ふたつを極めていけばいくほど、アルティスタとしての迷いも深まり、それが極上の憂いとなって、川島さんならではの情念の華となっていく。

「後ろで伴唱しているときは、踊り手をすべて包み込んで、ガッと支えたい。そんな想いで歌っているの」
そう語ってくれた川島さんは、逃れることのできない深い迷いを持ち、その哀しみを知っているからこそ、誰よりも強い優しさと包容力を持ち得る。 それが川島さんのフラメンコになっていく。

パセオフラメンコライヴVol.035
川島桂子 カンテソロライヴ
10月27日 高円寺エスペランサ

川島桂子(カンテ)
エミリオ・マジャ(ギター)
有田圭輔(パルマ
三枝雄輔(パルマ
容昌(パーカッション)