カニサレスとNHK交響楽団による『アランフェス協奏曲』

世界で最も美しいフラメンコを奏でるギタリスト、カニサレスと、
日本の最高峰のオーケストラ、NHK交響楽団との共演による
『アランフェス協奏曲』を聴けた幸せをかみ締めている。
カニサレスのフラメンコは、スペインという枠をとうに超えた、
ヨーロッパのフラメンコであり、かつ東洋の流れを汲むフラメンコ、
そんな壮大さを感じる。
それは机上のものではなく、世界各国で演奏し、
その場所で暮らす人々と生身で対話を交わした積み重ねを軸とした
知性と情に裏打ちされている。
だから、カニサレスの奏でる音は生命力の漲る、説得力のある音楽となる。
饒舌さえも必要ない。
緻密な技術とインテリジェンス、
そしてフラメンコ的野生を同時に持つ乾いたギターの音、
そこに託されたカニサレス自身の精神を感じたくて、
私たちはただ耳を傾ける。
満員の観客の昂揚感に満たされたNHKホールの、
息が止まるような静寂に圧倒される。
カニサレスの音楽に吸い込まれていく幸福な緊迫感だった。

幸せな没頭から解放されたプログラム後半、
ドビュッシー『映像 イベリア』では、
波が幾度も迫って来るような官能に顔が火照り、
ファリャ『三角帽子』の踊りだしたくなるような熱を持った音楽に浸った。
オーケストラの厚みのある滑らかな音色は、
麻薬のようなものなのかも知れない。
恍惚から未だ戻れないままでいる。