平野啓一郎「ある男」

平野啓一郎「ある男」読了(文學界6月号)。

愛する人の過去を知った後も愛し続けられるだろうか。

「法律」「倫理」「差別」。
そういった重い問題に自在に言及しつつ、ある人物の生を辿り、思想を浮き彫りにしていく手法は、前作の『マチネの終わりに』同様、鮮やかだが、特異な事件性を孕みながらも登場人物はより身近でリアリティがあり、一気に読めた。

「わかったってところから、また愛し直すんじゃないですか」
というセリフが軽やかで、深い。

愛は、変化するからこそ、持続できる、という想いは救いだ。負い目も後悔もあるけれど、それらを通過して尚、“今”に存在する想いを見定め、誰よりも自分自身が信じること。そこから、という希望が持てる。