ハーフ題材の小説+実在の人物編

ハーフマニア―日本の有名人の混血をカリカチュアで大紹介!』には、現在活躍のハーフ以外に歴史上の人物も何人か登場します。

例えば、日本と明(中国)のハーフで、今なお日中台3国の英雄といわれる鄭成功(国姓爺)徳川家康のブレイン、イギリス人ウィリアム・アダムス(三浦按針)の息子、ジョセフ・アダムス鎖国政策によってインドネシアに追放されたじゃがたらお春、幕末、長崎のドイツ人医師シーボルトを父に持ち、日本初の産婦人科医になった楠本イネ、中国のラストエンペラーこと溥儀の姪にあたる愛新覚羅慧生(あいしんかくらえいせい)など、皆非常に波瀾万丈・激動・流転の人生を送っています。


いずれ彼らについてはこの日記で参考文献などとともに詳しく書いていきますが、今回は彼らとは別に、海外と深く関わった実在の日本人をモデルにした小説を紹介します。ハーフが生まれる事情となった留学や漂流、外交や貿易に関わって外国に渡った日本人をテーマにした作品です。山ほどあるのでほんの一部だけですが。僕のサイト「洋画・洋楽の中の変な日本・がんばる日本」には海外に渡った日本人特集ページがあるので興味のある人はそちらもご参考ください。


井上靖の『天平の甍』(1957)は高僧・鑑真を日本に招くために中国に渡った留学僧らの苦難の物語。

天平の甍 (新潮文庫)

天平の甍 (新潮文庫)


僕は高校の時、夏休みの宿題に『天平の甍』が読書感想文の課題にされて、当時はまだこのジャンルの小説には全く興味が無かったので渋々読み始めたのだが、途中であまりの面白さに食事も忘れくらい夢中になって一気に読み終えた。それから井上靖の『青き狼』や『敦煌』などの歴史物に嵌り、井上だけでなく、以後しばらくはこの手の小説ばっかり読みまくったなあ。今なお歴史物が大好きなのはこの小説のおかげだと思っている。もしこの日記をお読みの方でまだ読んでいない人はぜひ騙されたと思ってお読みください。ユニオシの絶対のお薦めであります!井上靖には江戸時代に漂流しロシアに渡った大黒屋光太夫を主人公にした『
おろしや国酔夢譚 (文春文庫)』(1968)もありますが(映画化もされている)こちらも。


吉備真備とともに鑑真来日に尽した僧・玄硃(げんぼう)らを描いたのは松本清張の『眩人 (中公文庫)』(1980)がある。


時代は少し違うが唐に渡って密教を窮めた空海については司馬遼太郎の『空海の風景〈上〉 (中公文庫)』(1982)も有名だ。これは小説というよりセミドキュメンタリーのような文体で、空海とライバルといわれた最澄と、二人の微妙な関係を軸に描かれた作品で、これも一人の弟子を巡ったゾクゾクとする話が語られている。また司馬には江戸時代にロシアに捕らえられた蝦夷の商人・高田屋嘉兵衛についての長編『菜の花の沖』(1982)もある。『菜の花の沖』は竹中直人主演でNHKドラマにもなった。

鎖国でマニラに追放されたキリシタン大名高山右近は、長部日出雄によって『
まだ見ぬ故郷〈上〉―高山右近の生涯 (新潮文庫)』(1991)という小説に纏められている。


戦国時代にローマに渡った天正遣欧少年使節の4人の物語は若桑みどりの『クアトロ・ラガッツィ』(2008)という小説に詳しい。この著は、鎖国によって当時の日本人による記録がほとんど抹殺されて「無い」のに、ヨーロッパには宣教師らによるわりと豊富な資料があるので、それを具に紐解くことで可能になったものだ。著者・若桑の執念・粘りにはまったく頭が下がる。とはいえ、「歴史学のための学術書」のようなものではなく、非常に読みやすいエンターテイメントに仕上がっている。彼らの旅行記とその後の波乱の人生はこれまたゾクゾクするほど面白くて、僕のサイトに天正遣欧少年使節の特集ページがあるがこの本をかなり参考にさせて貰っている。

クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国

クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国


また、江戸時代にシャム(タイ)に渡り日本人町の頭領になった山田長政については遠藤周作が『王国への道』(1981)として書き、白石一郎は『風雲児』(1994)という小説にまとめた。東南アジア諸国との御朱印貿易で財を成し後にカンボジアに渡ったルソン助佐衛門は城山三郎黄金の日日』(1978)の主人公になった。『黄金の日日』もNHK大河ドラマになっている。

黄金の日日 完全版 第壱集 第1回~第28回収録 [DVD]

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この他有吉佐和子の小説・戯曲『振るあめりかに袖はぬらさじ』(1982)は実際に横浜にあった遊郭・岩亀楼が舞台で、喜遊という遊女がアメリカ人に羅紗緬(らしゃめん)として買われるのを嫌い自害したという伝承を基に創作された悲劇。これを舞台化した作品は坂東玉三郎の演出・主演でロングランとなった。



吉村昭が亡くなった時にこの日記に彼の作品について書いているが、
http://d.hatena.ne.jp/yunioshi/20060803

吉村昭には『ハーフマニア』にも書いた楠本イネが主人公の『
ふぉん・しいほるとの娘〈上〉 (新潮文庫)』(1978)があり、これも大変参考になった。彼には他にジョセフ・ヒコを書いた『アメリカ彦蔵』(1999)、『大黒屋光太夫』、 外交官・小村寿太郎が主人公の『ポーツマスの旗』(1979)などがあり、いずれも綿密な取材と膨大な時間をかけて緻密に書き上げた傑作揃い。彼の作品もユニオシのお薦めであります。

では今日はこの辺で。

ハーフマニア―日本の有名人の混血をカリカチュアで大紹介!

ハーフマニア―日本の有名人の混血をカリカチュアで大紹介!