大規模私立大学のパイ獲得競争

大規模11私大、定員申請3倍に 抑制策前に駆け込みか:朝日新聞デジタル(高浜行人、片山健志 2016年5月29日05時09分)

 2017年度に私立大学がどれだけ入学定員を増やすか、文部科学省が今春、申請を受け付けたところ、全体で前年の2倍の7千人超となり、うち大規模大学(収容定員8千人以上)が計3866人(11大学)と前年の3倍に急増した。6月に文科省の審議会が認める見通し。文科省が地方創生策として大規模大の学生数を抑える策を18年申請分(19年度分)から本格導入する前に、大規模大が駆け込み申請した格好だ。

 入学定員増の申請は09年申請分(10年度分)以降、私大全体で2千〜4千人ほどで推移しており、昨年申請分(16年度分)は計3657人。大規模大はうち3分の1弱の1200人(7大学)だった。

 今年3月の申請では44私大から計7354人分が提出され、その半数超を大規模大が占めた。大規模大の増加数はこの10年の中で最多。文科省幹部は「これほど大規模大の定員増が多いのは異例」としている。申請は例年、6月に2度目の受け付けがあり、さらに増える可能性がある。

 文科省は地方に大学生を分散しようと、首都圏や東海、関西に多い大規模大に対し、入学定員の一定の割合を超えて学生を受け入れると翌年以降、定員を増やせなくする規制を強化。今年の申請分から段階的に導入し、18年の申請分から本格実施する。この抑制策に大学側が危機感を強めたとみられる。

 志願者数が全国一で、今回最多の920人増を申請した近畿大大阪府東大阪市)の担当者は「抑制策が検討理由の一つ」と話す。他大学に流れる学生を想定して多めに合格者を出すが、結果的に入学者が定員を大きく超過することがある。抑制策の本格実施後は定員が増やせなくなる事態が予測されるため、早めの増加に踏み切ったという。

 一方、文科省の担当者は「抑制策が本格実施され、定員増の基準が厳しくなった後は、都市部への集中を緩和する効果が期待できる」と話す。(高浜行人、片山健志)

■「教育の質、低下を懸念」

 〈金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)の話〉 大規模大は定員を超えて学生を集めるケースが多い。その場合、教員1人あたりの学生数が増えて教育の質が落ちていないか懸念される。規模が大きいほど教職員の目は届きにくくなり、さらに定員を増やすのは学生にとって利点が見当たりにくい。経営面以外の「哲学」があるかどうかが問題だ。大学が名前でなく質で選ばれるためには、教員1人あたりの学生数など教育の質が分かる情報の公開を義務にするよう、制度の見直しが必要ではないか。

大学ビジネスは規模の経済性が強いように見える。中小私大が全国ブランドにどう対抗するか。その戦略は地方過疎県と大都市圏とで異なるようにも見える。
往年の繊維不況や鉄鋼不況のようなことが起きなければよいのだが……。