CSS/Cansei De Ser Sexy(06年10月18日発売/KSR)

yuzurusato2006-09-23


プリミティヴなビートとサンプリングが話題のバイレ・ファンキで世界を刺激しているブラジル(本国では結構前にシーン自体は割と落ち着いているという話を聞きました)はサン・パウロから元気な新人さんの登場です。その名もCSS。「Cansei De Ser Sexy」の略で、ビヨンセの「Tired Of Being Sexy」(セクシーでいるのにも疲れたわいな)という発言から取ったバンド名で、本作『Cansei De Ser Sexy』はかつてはニルヴァーナやマッドハニー。最近ですとポスタル・サーヴィスなんかを輩出しているアメリカはシアトルの名門インディ・レーベルSub Popからのリリースになります。

アーティスト写真を見るとブラジル出身のバンドとは思えないような(←失礼)ファッショナブルな出で立ち。NYのバンドと言われてもあんまり違和感がないというか。実際かなりアートへの指向の強いバンドみたいで、このやたらかっこいいジャケットもバンドのメンバーによるものだそうです。アルバム収録の“Fuckoff Is Not The Only Thing You Have To Show”という思考停止状態のパンクスに唾を吐くような痛快なタイトルも、ライヴで男性下着を投げまくるパフォーマンスもそうしたバンドのスタンスの表れでしょう。ひとりだけフレディ・マーキュリーにそっくりな人もいて、そこも気になリ過ぎてしょうがないんですが、キリがないのでひとまずほっときます。

さて、僕がこのバンドを知ったのは、Diploが運営しているMad DecentからリリースされたEPが好調のBonde Do Role(バン・ジー・ローと発音するはずなのですが、ちょい不安なので英語表記にさせて下さい)でひとり腹踊りをして盛り上がっているところを知人に教えてもらってからでした。で、さらに正直に話すとそのシングルは“Let Make Love And Listen To Death From Above”という割と分かり易いディスコ・パンクなトラックで、ポップでカッコいいのだけど、正直ディスコ・パンクなんてピンからキリまでこれまでに飽きるほど聴いてる訳でして、それほどピンとは来なかったわけです。

ところがですよ。アルバムが実に素晴らしい! シングルで彼女たちの魅力を完全に見誤っていたことに反省しきりです。

アルバムはシングルで見せたディスコ・パンクっぽい路線かと思いきやそうではなく、エレクトロクラッシュからヨーロッパっぽいゴシックなムードを抜き取って、代わりに90年代のUSインディ・ロック的な解釈を持ち込んだようなロック・サウンド。トラッシーな打ち込みビートばかりでなく、荒削りでダーティなディストーション・ギターとポップなメロディとシンセの組み合わせがエラいかっこいいロック・アルバムです。Sub Popが契約したというのもなんとなく頷けます。

どことなくスーパーチャンクや初期ソニックユースを彷彿とさせるローファイなギターの軽快なコンビネーションが気持ちいい“Patins”。チープな打ち込みとシンセ、シンプルなメロディが無駄なく組み合わされた“Alala”。M.I.A.の“Pull Up The People”とビースティ・ボーイズ“Sabotage”をマッシュアップしたような ワイルドなパンク・ロック・チューン“Art Bitch”。豪快なキックとメランコリーなシンセが都会の夜をイメージさせる“Meeting Paris Hilton”。ちょっとペイヴメントを思わせるリラックスした心地よいローファイなロック“Alcohol”。チープさが却って癖になるファンク・チューン“Music Is My Hot Hot Sex”。“Let Make Love And Listen To Death From Above”と近いムードを持つ“This Month, Day 10”。シンプルな作りが貫かれていながら、どの曲もいちいちセンスがよくポップ! レ・ティグレと共振するようなインテリジェンスなパンク・スピリッツとアートへの果敢、そしてビースティに通じる豪快さ感じるのです。

かつて閉塞していたロック・シーンを打ち破った90年代のインディ・ロック・バンドたちのような風通しのよさと破壊力を持ったロック・バンド、CSS。ロックンロール・リヴァイヴァルが落ち着ち、ある意味ロックンロール自体が様式美化しているきらいもあるロック・シーンに新たな火種を投げ込むか? ジャンルを超えた超エネルギー体。彼女たちにはそんな勢いと魅力を感じるのです。