ファイナンシャルマネジメント/ロバート・C・ヒギンス

ファイナンスの教科書的な本。
読みやすいというほどではないが、カバー範囲は広く、財務諸表分析に関するところから、投資機会の評価まで記載されている。
ただし、財務諸表分析やバリュエーションといった個別の議題については、それぞれ別の書籍でも内容を抑えておく必要があるだろう。

ただ、ファイナンスの全体像として、基本となる知識がどの範囲なのかという点をまず抑えるという意味では良いと思う。

【目次】
第1部 企業の財務的な健全性の評価
第2部 将来の財務業績の計画策定
第3部 事業を運営するための資金調達
第4部 投資機会の評価

【概要】
第1部 企業の財務的な健全性の評価

第1章 財務諸表の解釈

  • 株主資本とは、株主がその企業に対して行った投資の価値を会計上見積もったもの。住宅所有者の純資産がその家の価値からローンの残高を差し引いたものであるのと同様
  • ウォーレンバフェットによれば、EBITDAを利益と同等に扱うことは、今後何かに置き換えたり、手を加えたり、修理したりする必要がなく、永久に最先端だと仮定するに等しい。
  • 研究開発費用やマーケティング費用の効果は、その大きさや期間を見積もるのが難しいため、通常は発生した年度に全額を営業費用として計上する
  • 損益計算書は、CFではなく発生主義に基づいている点、会計期間中の販売にかかわるCFだけを計上する点の2点から不完全といえる
  • オプションの企業にとっての税務上の効果として、企業はオプションの行使が可能な期間中、キャッシュを支払うことがないにもかかわらず、同額の損金算入を主張する権利を持つ
  • CFは信頼できる指標だが、2点の問題点がある。営業活動によるCFが低い、マイナスであるからといって業績が悪いことを示すわけではない点、CFは必ずしも客観的ではなく操作に影響されないわけではない点の2点。(例えば、製品販売時に掛売する企業と、顧客に対して融資を行う企業では、営業活動によるCFは変わってしまう)
  • 現金収入(純CF)は、利益とは別に事業が生み出すキャッシュを測定することを目的としている。この問題点は、流動資産と流動負債のどちらも事業活動とは関係ないもの、あるいは期間中に変化しないものと暗に仮定している点。
  • FCFは、営業活動によるキャッシュフローから資本的支出を引いたもの(事業を創出するための再投資された資本的支出も考慮に入れている)
  • 会計上は資産の値上がり益を計上するには、客観的証拠としての実現が必要とされている

第2章 財務業績の評価

  • ROEをコントロールするレバーは以下の3つ
    1. 売上高純利益率(純利益/売上高)
    2. 総資産回転率(売上高/総資産)
    3. 財務レバレッジ(総資産/株主資本)
  • ROEの数値が似通ってくる理由は競争にある。高いROEを達成した場合、新規参入により競争が起こり、企業のROEを平均的な水準にする。逆に低いROEは、倒産や撤退を引き起こし、生き残り企業のROEは平均的な水準に回復していく
  • 売上高純利益率と総資産回転率は、反比例の関係にある。これは高い付加価値をつけるためには多くの資産を必要とする一方、純利益率が低い場合は高い総資産回転率で補うことになるためである
  • 利益率と回転率の組み合わせはROAとして計算される
  • 企業の価値の源泉は連続的に生み出される利益にあり、試算はこの利益を生み出すために必要な手段でしかない。理想的な企業とは試算を持たずに利益を生み出す企業である
  • 一般的に売上高の減少時には、売掛金や在庫に対する投資が減少するので、一時的に現金が自由になり、他の用途に使用することが可能となる。流動資産が売上高の変化につれて増減して、借入金の返済が可能となることを自己清算的であるという
  • 企業がどの程度の現預金を保持すべきかという議論は、企業にとって流動性はどの程度重要で、どのように確保するのが最善かという、より幅広い議論と密接に関連する
  • 製造業など寿命の長い試算に多額の投資を行う業界や企業は、資本集約的であると言われ、コストの大部分が固定費となるため、経済情勢に敏感になる。固定資産回転率は企業の資本集約度を表しておりこの数値が低いということは集約度が高いということになる(売上高/有形固定資産の純額)
  • ROAと財務レバレッジは反比例の関係にある。ROAの低い企業は一般的に借入金調達能力が高く、逆もまた然り
  • 低リスクで安定しており、流動性もある資産への投資からは高いリターンを期待することは難しいが、借入能力は大きい。商業銀行などはこの例の最たるものである。
  • Net Debtの考え方は、余剰現金や市場性のある証券は、安全で利子を産む資産として本質的には「マイナスの有利子負債」とみなせるものであり、負債額から差し引くべきだという考え
  • 財務レバレッジについて、主たる関心は有利子負債によって生じる毎年の財務上の負担の大きさと、支払いに回すことのできるCFとの比較にある
  • 支払利息・元本カバレッジは、企業が今現在の借入金をすべてゼロとなるまで返済するという弱気の前提に、インタレストカバレッジレシオは、企業が現在の債務すべてを満期がきたとき借り換えできるという強気の前提に立っている
  • 工場や設備のような流動性のない固定資産の資金繰りを流動性の高い短期負債で賄うことは危険である。なぜなら、資産が支払いに十分な現金を生み出す前に、負債の支払期限が到来してしまう恐れがある
  • 当座比率は、棚卸資産を差し引く。これは、会社清算に際して、在庫は簿価の40%以下の金額にしかならない場合がほとんどであるため
  • ROEは以下の3つの重大な欠陥を有している
    1. タイミングの問題:ROEは必然的に1年間の利益しか考慮していない。長期的な観点からの意思決定の影響を捉え切れないことがある
    2. リスクの問題:リスク要素を無視している。その歪みを補正するためにROICが効果的、資金調達戦略の相違を補正可能
    3. 価値の問題:簿価と市場価値に差があり、ROEが高いからと言って株主のリターンも同様に高いとは言えない
  • 株主資本の価値を市場価値に入れ替えた株価益回りも、投資家が持つ将来への期待に大きく左右され、タイミングの問題から業績の物差しとしては有効ではない
  • 流動比率が高いということは、高い返済能力を示唆している。これは株主から見れば、資産構成が保守的すぎることを示唆し、否定的にとらえられることもある
  • 比率が健全か不健全かを判断するためには、経験則との比較、業界平均との比較、経年での比較という3つのアプローチがある

第2部 将来の財務業績の計画策定

第3章 財務予測

  • 外部資金調達必要額 = 総資産 - (負債+株主資本)
  • 外部資金調達必要額は、BSをバランスさせるためのプラグとされるケースが多い
  • 支払利息の増加は利益に大きな影響を与えるが、税金と配当金というフィルターを通すことで、外部資金調達必要額への影響は小さくなる
  • 大企業における計画策定は主に以下の3つの段階に分けられる
    1. 第一段階:本社の経営幹部と事業部長による企業戦略策定:SWOT分析や業績目標の設定を実施
    2. 第二段階:第一段階の決定に基づき、事業部長と部門スタッフが事業部内の活動を決定
    3. 第三段階:第二段階で決定した活動計画に基づいて、定量的な計画と予算を策定

第4章 成長の管理

  • 「持続可能な成長率」とは、財務資源の枯渇を招くことなく企業が成長できる最大の成長率のことを指す
  • 負債と株主資本の成長率が資産の成長率を決定し、資産の成長率により、売上高の成長率が規定される。資本構成を一定と仮定した場合、売上高の成長率を制限するのは株主資本の成長率である
  • 持続可能な成長率は、以下の要素の積となる
    1. 売上高純利益率
    2. 総資産回転率
    3. 財務レバレッジ
    4. 利益内部留保
  • 持続可能な成長率を上回る成長をする場合には、経営の改善(売上高純利益率または総資産回転率の改善)を行うか、財務方針の変更(内部留保率または財務レバレッジの変更)を行うことが必要となる
  • 財務方針が一定であれば、持続可能な成長率はROAに比例する
  • コングロマリット的な多角戦略には2つの問題がある。1つ目は、経営者にとってのリスクは減るが株主にとってはメリットがないこと(株主は分散投資が必要であれば、別々の企業に投資することで実現できる)、2つ目は、資源には限りがあるため、同時に多数の製品市場において有力な地位を得ることは不可能であること
  • 絞り込みによって、資金を新しい成長分野に振り向けることが可能となり、総資産回転率が改善され、売上高が減少する。これにより、持続可能な成長の問題が改善される
  • 企業がアウトソーシングを行う場合、その活動を行うために拘束されていた資産が解放され、それによって総資産回転率が上昇する
  • 持続可能な成長率を下回った場合、問題を無視する、株主に資金を還元する、成長を買うという3つの方法が考えられる
    1. 問題を無視した場合、資源を十分に活用できないことによって株価が下落し、企業買収のターゲットとなる
    2. 配当金の増額もしくは自社株買いによって株主に資金を直接還元することができる。ただし、経営者としては資本の有効活用ができないことを示すこととなってしまう
    3. 高成長企業と低成長企業の間で、余剰資金を管理することで成長管理に関する問題を解決する
  • インフレは財務諸表に少なくとも以下の2つの影響を及ぼす。ただし、インフレ調整後の財務諸表を用いれば、持続可能な成長に対する影響は小さいことが分かる
    1. 外部資金調達必要額が増加する
    2. 取得原価主義に基づいた財務諸表の負債比率が上昇する

第3部 事業を運営するための資金調達

第5章 金融商品と金融市場

  • 財務担当マネジャーの顧客とは、企業の将来的なCFを予測して事業に投資を行う債権者・投資家である
  • 繰上償還条項が付された場合、発行会社は満期を待たずに社債を償還するというオプションを有する。繰上償還条項を設定したい理由は以下の2つ
    1. 金利が低下した場合に、既存の社債を償還してより低い利率で新規の社債を発行することが可能であること
    2. 市場の状況や戦略の変化に応じて繰上償還条項を利用してその資本構成を変更できること
  • 一般的に発行体に有利な繰上償還条項のついている社債は表面利率が高めに設定される
  • 大多数の経営者は優先株式を税務上不利な有利子負債としてみている。優先株式への配当をやめる企業がほとんどないので、経営者のほとんどは優先株式の柔軟性を評価していない。社債の利息が損金処理できるのに、優先株式への配当は損金処理できないためである
  • 国際金融市場が国内金融市場よりも低いコストで資金を提供できるのは以下の2つの理由による
    1. 銀行口座に準備預金を置く必要がないため
    2. 持参人払いという形式で債券を発行できるため
  • 証券の公募はどんな場合であれ、インサイダーが価値の不確かな証券をアウトサイダーに売るということになる。そのため、アウトサイダーの心配を軽減するために新規発行では常に安めに売られる
  • 効率性市場仮説に対するスタンス
    1. ウィークフォーム:過去の情報をすべて反映している
    2. セミストロングフォーム:公表された入手可能な情報をすべて反映している
    3. ストロングフォーム:公開・非公開を問わずすべての情報を反映している
  • セミストロングフォームで効率的であるということは、以下のことを意味する
    1. 公開された情報は将来の価格の予測に役立たない
    2. 非公開の情報がない場合、最善の予測は現在の価格である
    3. 非公開の情報がない場合、最適な売出時期を選ぼうと試みても、売出条件の改善にはつながらない
    4. 非公開の情報がない場合、または平均以上のリスクを受け入れる意志がない場合、投資家は市場の平均収益率を上回る収益率を継続して得ることはできない

第6章 資金調達方法の決定

  • 株主資本とは、株主が事業投資して、なおかつ借入金を獲得・維持できる最少の金額のこと
  • 調達手段を適切に選択するステップは、第1に外部からの必要調達額を決めること、第2に金融商品の設計である
  • 財務上の意思決定を行うにあたってのポイントは、その選択が今後の同社の資金調達力にどのような影響を与えるかという点
  • 財務レバレッジは営業レバレッジ変動費ではなく固定費を活用すること)と同じ特徴を持つ(Debt financeは利息と元本の返済が増えて固定費が増加する)
  • 財務上の固定費を賄うためにより多くの営業利益を必要とする一方で、ひとたび損益分岐点に到達すると営業利益の増加による利益増はより大きなものとなる
  • 財務レバレッジROEに与える影響は、税引後の利益率に対するROICの相対的な大きさによって決まる
  • 財務上の意思決定が企業価値に影響を与えるのは2通り
    1. 営業CFは所与としたうえで投資家にとっての価値を高める
    2. CF自体を高める
  • M&Mの無関連性命題により、財務上の決定は、それがCFの量自体に影響を与える限りにおいて重要であり、最適資本構成とはこれらのCFを最大化する資本構成であることを意味している
  • 財務上の意思決定におけるヒギンスの5ファクターモデル
    1. 税効果
    2. 破たんコスト:破産コスト、間接的コスト、利害の対立 ※資産の転売価値が高ければ低く抑えられる
    3. 間接的なコスト:キャッシュ節減による機会の逸失、継続供給への疑念による売上低下、資金調達コストの増加等
    4. 利害の対立:Go for brokeの問題
    5. 財務の柔軟性:現在の決定が将来における資金調達の選択肢を狭めないように配慮する
  • 企業の価値は、有形の資産と成長の可能性という2つのタイプの資産から成る。有形の資産は破綻時にも価値が残るが、成長機会はそうではない
  • 企業は資金調達の優先順位をペッキングオーダーの上から順に模索する
    1. 内部資金:留保利益、減価償却、余剰資金
    2. 外部資金:Debt
    3. 外部資金:Equity
  • 企業の資本構成全体を見たとき、支払期日構成のリスクが最も小さくなるのは、負債側の満期が試算側の満期と等しい場合である。この構成であれば、営業活動で生み出される現金により負債の満期日に支払いを行うことができる
  • 企業が満期を一致させないのは長期借入が適当な条件で行えない場合や、満期を一致させないことにより、総借入コストを低減させることができると経営陣が判断する場合である

第4部 投資機会の評価

第7章 DCF法

  • 会計上の投資収益率 = 年平均キャッシュインフロー/キャッシュアウトフロー総計
  • 会計上の投資収益率の問題点は、それが時間的価値を考慮していないという点
  • 時間的価値の3つの根拠とは
    1. インフレーションにより将来の金銭の購買力は低下する
    2. 金銭の受け取りが先になるほど不確実性が増加する
    3. 機会費用が存在する
  • 事業の評価にどのCFを含めるのかは以下の2つの原則に基づく
    1. キャッシュフローの原則:金銭が実際に動いたときに投資のキャッシュフローを計上する
    2. With-Withoutの原則:投資を行った場合と行わなかった場合の差異の分を計上する
  • 運転資本の特徴
    1. 新製品の売上に応じて増減する
    2. 投資期間終了時に運転資本は現金化され、通常それまでの投資額とほぼ同額を回収できる
    3. 運転資本の増加を伴う多くの投資が、ビジネスの過程で自然に生じると同時に、明示的なコストを伴わない自然発生的な資金源を生み出す
  • 配賦費用についての問題は、事業の規模に応じてそれらの費用が変わるかどうかということ
  • カニバリゼーションによる損失は競争の度合いによって決まる。「競合他社に食べられるぐらいなら自分たちで食べたほうが良い」といえる
  • 相互に排他的な代替案の評価にBCRとIRRを用いた場合の問題点は、それらが投資規模の大小を反映しないという点
  • 資本制約がある場合には、受取額が全体でいくらかではなく、1ドル当たりの受取額に注目しなければならない

第8章 投資の意思決定におけるリスク分析

  • 理想的な条件下でのリスクとリターンの関係は、市場線と呼ばれる直線になる
  • DCFでは、経営者が途中で様々な修正を行うことが計画に含まれていない。リアルオプションと呼ばれるケースを見込むことがある
    1. CFが見込みに達しない場合に投資を中止するオプション
    2. 初期投資が成功した場合に追加投資を行うオプション
    3. 投資を行うタイミングを遅らせることで不確実性を減らすオプション
  • リスクを割引率で調整することは、リスク調整も複利で織り込んでしまうことになる。そのため、将来になるほどCFのリスクが高まるときに限って有効である
  • EVAの魅力は、資本予算、業績評価、インセンティブ報酬という3つの重要なマネジメントの機能を1つに統合している点

第9章 事業価値評価と企業のリストラクチャリング

  • ターミナルバリューの5つの推定方法
    1. 清算価値
    2. 簿価
    3. PERマルチプル
    4. 成長率ゼロの永久年金
    5. 永続的な成長
  • 運転資本への投資額とは、オペレーションを支えるために必要な流動資産の増加額から有利子負債を除く流動負債の増加額を控除したもの。流動資産へのネット投資額に等しい
  • 永久成長率の絶対的な上限は経済全体の長期的な成長率である2~3%に期待インフレ率を加算したもの
  • リストラクチャリングの財務的な根拠の主なものは、節税効果、インセンティブ効果、FCFの支配権である
  • 株主と経営者の関係は、CFの支配権をめぐっての主導権争いであるとも考えられる。敵対的企業買収は、株主が主導権を回復し、リストラクチャリングを行うことを可能にした
  • アクティビスト投資家の目標は、1980年代の敵的買収時のように支配権を握ることではなく、経営陣を威嚇し、株主価値を増加すると彼らが信じるアクションをとらせることにある
  • 買収発表後5日間のプレミアムの中央値が20~40%であることは、被買収企業の株主が合併によって大きな利益を得たことを示している
  • 1980年から2006年の期間で、超大型買収案件は全買収案件の買収総額の43%を占め、マイナス3.5%と明らかにマイナスの超過収益率を買収者にもたらしている
  • LBOが価値を生むかという研究はスティーブンカプランが行っており、LBOが概ね成功していること、さらに成功した場合に発揮される強力な財務レバレッジを示している
    1. LBOを行った企業が買収後2年間に増加させた事業資産利益率の中央値が、属する業界へ金と比較した場合36.1%と良好であった
    2. 同意用に、総資産に対するFCFの比率を業界別調整後ベースで85.4%増加させた
    3. LBOから事業価値評価日までの2.6年間において、調達された資本に対するリターンの中央値は市場調整後で28%、株主資本に対するIRRは785.6%


半導体業界の動向とカラクリがよくわかる本/秀和システム

半導体業界の基本について。
半導体といっても、意外とそもそも何をどう作っているのか理解していないところがあるので参考になる。
ただ、工程が難しいのもあるのか、半導体自体と業界の理解は分けて、それぞれもう少し詳しい書籍で補完したほうが無難か。

【目次】
第1章 半導体業界の基本と仕組み
第2章 グローバル経済における半導体業界
第3章 半導体業界の主要メーカー
第4章 半導体製造の技術を知る
第5章 半導体を使ったアプリケーション
第6章 半導体産業の今後と未来


【概要】
第1章

第2章

  • 半導体GDPの約1%を占め、川下の電子産業や川上の半導体製造装置産業等を含めると5%に及ぶと言われる
  • シリコンサイクル:好況→設備投資→注文の増加→新しい設備の稼動→供給過剰→安売り・新商品開発→新たな半導体需要→好況
  • 半導体産業は設備に巨額の投資を要するため、リスク回避のために、生産受託契約の締結、販売金額の前倒しでの受け取りを行うケースもある
  • 半導体の設備投資はメガバトルとミニファブの二極化
  • 日本においては、半導体を専門に取り扱う半導体商社にはメーカー系列と独立系の2つが存在
  • 米国においては、世界規模で事業展開するMega-Distributorとエリア単位で技術的なサポートを行うRepresentativeが存在
  • Mega-Distributorは米国内だけでなく海外にもネットワークを拡充し、ワールドワイドな体制を整備、半導体メーカーと直接の取引はしない
  • Representativeは半導体メーカーが指定したエリア内で、ユーザ企業の技術サポートをするのが仕事、大量の在庫を持たない
  • 半導体工場のことをファブと呼び、工場を持たないメーカーをファブレスメーカーと呼ぶ

第3章

第4章

  • N型半導体:負の電荷を持つ自由電子がキャリアとして移動することで電流が生じる
  • P型半導体:正の電荷を持つ正孔がキャリアの多数を占める
  • シリコンウエハ製造
    1. 単結晶成長
    2. ウエハ切断
    3. 鏡面研磨
    4. 洗浄
  • トランジスタは動作原理からMOS型とバイポーラ型に分類、さらにバイポーラ型は、NPNトランジスタとPNPトランジスタの2種類に分類できる
  • バイポーラ型:電流増幅やスイッチング機能が主な役割で、航空宇宙や防衛、民生機器などで利用
  • MOS型:モバイル端末、PCのICやLSIで利用
  • システムLSIはCPUやメモリ、そのほかの電子機器に必要な周辺回路などを1チップに集積した半導体素子
  • マイクロプロセッサのアーキテクチャ設計手法はCISCRISCの2つが代表的
  • CISC:可変長の複雑な命令セットや多種多様なアドレッシング機能を持つ(PCなどの汎用機で利用)
  • RISC:命令の種類を減らし、回路を単純化して演算速度の向上を図る(ワークステーションやスーパーコンピュータなどで利用)
  • ユーザの要求に応じて回路形成を変更することが可能なオーダーメイドの半導体がASIC、以下の4種類
    1. gate array:下地を予め製造し、配線層をユーザ要求に応じて作成
    2. cell base:設計済みの機能ブロックが配置、個別ロジック回路と配線層を作りこむ
    3. embedded array:設計済みの機能ブロックをgate array下地の一部に埋め込む
    4. structured ASIC:gate arrayの下地に加え、汎用機能ブロックを組み込み
  • 半導体工場の設備投資は前工程に8割、後工程に2割
  • 前工程:シリコンウエハ→素子分離形成→トランジスタ形成→配線形成→保護膜形成→裏面研磨→プローブ検査
  • 後工程:ダイシング→ダイボンディング→ワイヤボンディング→パッケージング→最終検査
  • 保護膜形成の技術には、主にスパッタリングとCVDがある
  • 露光作業:半導体の回路パターンをウエハ上に焼き付けていく作業(フォトリソグラフィ技術が利用される)
  • エッチングリソグラフィで生成されたパターンに沿ってウエハの加工を行う作業(ウェットエッチング/ドライエッチング
  • ダイシング:ウエハ上に形成されたチップを、個々のチップに切り出していく作業
  • ボンディング:切り出されたチップをリードフレームのマウントアイランドに貼り付ける作業
  • パッケージング:ベアチップをパッケージングする

第5章

  • 次世代アプリ:民生機器(デジタル家電)、産業機器(自動車が牽引)、新分野(MEMS、ナノバイオテクノロジー
  • デジタル家電:AV機器、映像機器、ゲーム機、スマート家電
  • カーエレクトロニクス:車載ネットワーク、自動運転
  • セキュリティ機器(監視カメラ、センサ)
  • セキュリティカード、プリペイドカード、ICタグ
  • MEMS(Micro Electro Mechanical Systems):センサや医療分野、バイオテクノロジー分野で活用

第6章

図解でわかるリースの実務 いちばん最初に読む本/六角明雄


業界勉強用。
リースの仕組みについて、法律・会計・税務の視点から記載されているので全体像をつかめる


【目次】
第1章 そもそも「リース」とはどういうことか?
第2章 リース取引の流れと契約のしくみを知っておこう
第3章 リース取引に欠かせない法律の知識
第4章 リース取引にまつわる会計処理のしかた
第5章 リース取引に対する法人税の取扱いと税務処理
第6章 かしこいリースの活用法はこれだ!


【概要】
第1章

  • リース契約の特徴は、融資を受けて、機会・設備を購入する場合に近い契約となっている点
    1. リース期間中の中途解約はできない
    2. リースされた物件の保守・修理はリース物件を利用しているものが行う
    3. リースされた物件に欠陥があったときは、所有者であるリース会社ではなく、リースされた物件を販売した会社が責任を負う
  • リース取引の3つの特徴
    1. 賃貸借契約の1つ:法律的には賃貸借契約の1つ
    2. 金融機能を持つ:融資を受けて購入した場合に近い、リース利用者がリース物件を指定して、リース会社がそれを購入
    3. サービス機能を持つ:資金調達や固定資産税の納付、減価償却費の計算、動産保険の加入、廃棄をリース会社が実施
  • 機械・設備を購入する場合と比較して、リースは早く費用化(償却)することができる(耐用期間と異なり、リース期間は自由に設定可能)
  • 割賦販売、融資と類似している、耐用年数よりも短い期間のみ利用したい場合はリースが適している
  • ファイナンスリースとは融資を受けて機械・設備を購入する場合と経済的効果が変わらず、金融機能としての正確が強い取引
    1. non cancelable:中途解約ができない
    2. full pay out:リース物件の購入とそれに付随する費用を上回る金額をリース利用者が負担する
  • オペレーティングリースは、ファイナンスリース以外のリース(自動車リース等)
  • 保守をリース会社が行うものをメンテナンスリースと呼ぶ(サービス機能としての側面を強化したもの)
  • sale and lease backは、リースの利用者が購入したものをリース会社が買い取って、そのままリースする契約で、以下のようなケースで用いられる
    1. 多種類の資産を導入する必要があり、直接利用者が購入したほうが事務の効率化に資する
    2. 輸入機器のように通関事務等に専門的知識が必要とされることがある
    3. 従来の利用者と購入先の取引状況に鑑みて、利用者が資産を購入するほうが安く購入できる
  • リース料の内訳は以下
    1. リース物件購入代金
    2. 金利
    3. 固定資産税、保険料
    4. 手数料

第3章

  • リース取引は典型契約ではない(典型契約とは、民法で規定されている契約で、売買契約や賃貸借契約等)
  • 瑕疵担保責任サプライヤーが負い、ユーザとの間で直接解決する
  • リース物件引渡し前の危険負担はサプライヤーが負い、リース期間中の危険負担はユーザが負う
  • リース物件が修理不能となった場合、ユーザが損害賠償金をリース会社に払う。リース物件に対する保険金がリース会社に対して払われた場合は、ユーザからリース会社に支払う損害賠償金が減額される

第4章

  • リース会計基準においては、リース取引の開始時に、リース料総額などから計算される金額を「リース資産」「リース債務」としてそれぞれBSの資産・負債に計上、リース料の支払に伴いリース債務を減額し、リース資産を減価償却する
  • リース会計基準が適用されるのは上場会社等とその連結子会社等、中小企業は賃貸借契約として処理できる
  • ファイナンスリースは売買取引と同様の会計処理、オペレーティングリースは賃貸借契約として会計処理
  • Full pay outの判定基準は、以下のいずれかに該当するか否か
    1. 現在価値基準:リース料総額の現在価値が当該リース物件をユーザが現金で購入するものと仮定した場合の合理的見積金額の90%以上
    2. 経済的耐用年数基準:リース起案が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね75%以上
  • リース物件の所有権が最終的にユーザに移る場合を「所有権移転ファイナンスリース」といい、以下の基準で判定
    1. 譲渡条件付リース取引
    2. 割安購入選択権付リース取引
    3. 特別仕様物件のリース取引
  • 所有権移転ファイナンスリースは、自己所有する資産と同じ方法で減価償却
  • 所有権移転外ファイナンスリースは、リース期間定額法で減価償却
  • 重要性の乏しいリース資産は賃貸借取引としての処理が可能
    1. リース料総額が、購入時に費用処理する資産の基準額以下
    2. リース期間が1年以内
    3. リース契約1件のリース料総額が300万円以内(所有権移転外ファイナンスリースのみ)
  • リース会社の会計処理
    1. リース料総額を売上高に計上、同額をリース投資資産に計上
      リース料の受け取りにあわせてリース投資資産を減額
      利息相当額の翌期以降に受け取る分について繰延処理
    2. リース物件の購入価額をリース投資資産として計上(買掛金もあわせて計上)
      リース料を受け取った際にそれを売上高として計上
      受け取ったリース料から利息相当額を引いた分を売上原価として計上
    3. リース物件の購入価額をリース投資資産として計上(買掛金もあわせて計上)
      リース料を受け取った際に利息相当額を受取利息として計上、残りをリース投資資産から減額

情報処理技術の基本/矢沢久雄

情報処理技術の基本/矢沢久雄

タイトルのとおり、IT関係の中で初歩的な内容をまとめた本。
ITの初歩の本というと、いろいろとシリーズがあるが、その中でも初心者向けに振り切ったものといえる。

20年前くらいのPCと違って、今はユーザ側で意識するような設定がかなり減っているので、
こういう本を読むことで自分のPCがどう動いているのか、ということを少しは分かっておいてもいいだろう。
ユーザ側としてはPCの時代ももう少しで終わるのか、というところではあるが、
結局のところ端末がPCからほかの何かに変わったところで、コンピュータ技術の基礎的な部分が変わるわけではないので、
イメージをつかんでおいたほうが、新しい技術への理解も増すだろう。


【目次】
第1章 パソコンの中を見てみよう
第2章 プログラムをつくってみよう
第3章 OSの機能を確認してみよう
第4章 SQLでデータベースを操作してみよう
第5章 ネットワークツールを使ってみよう
第6章 2進数とアルゴリズムを手書きでおぼえよう


【概要】
第1章

  • コンピュータの5大装置
    1. 入力装置
    2. 記憶装置
    3. 演算装置
    4. 出力装置
    5. 制御装置
  • PCと周辺装置をつなぐ規格をインタフェースという。現在はUSBで統一されているのが主流
  • マザーボードには拡張ボードを装着するためのコネクタがあり、これを拡張スロットや外部バスという
  • CPUにはデータを格納するためのレジスタがあり、レジスタを使って演算や制御を行う
  • 1枚のメモリモジュール上に、複数のメモリICが装備されている(例;32MBのメモリIC 8個 = 256MB)
  • 複数のインタフェースの機能が数個のデジタルICに集約されており、これをチップセットという
  • Windowsではノースブリッジ、サウスブリッジの2種類のチップセットが使われる
    ノースブリッジはメモリ・グラフィックス制御、サウスブリッジは拡張スロット、その他I/Oの制御
  • ディスク装置とはIDEというインタフェースで接続されている、IDEはパラレル形式であるため、信号線が複数接続されている(対義語はシリアル形式)
  • サーバマシンのCPUはデスクトップPCやノートPCよりもスペックが低い、これはサーバ上で動作させるソフトウェアには高度なゲームやグラフィックスのようなものが無いので、新しいCPUの機能を必要としないため
    ただし、メモリとハードディスク容量は膨大

第3章

  • CUIのシェルでは複数のコマンドを実行するバッチファイルを使える
  • OSの中で、ハードウェアと入出力を行うプログラムをデバイスドライバという
  • デバイスドライバの中で、デバイスとの入出力をファイルの読み書きと同様に行うものをデバイスファイルという(例:コマンドプロンプトにおけるCONファイル)
  • OSとしてデータを保持するための仕組み
    1. 環境変数:OSが持つ変数群で、それぞれの変数にはOSに設定されたさまざまな情報が格納されている
    2. レジストリ:OSが持つデータベースで、OSだけでなくアプリケーションの設定情報も保持する
    3. クリップボード:OSが管理する共有メモリ空間

第4章

  • Windowsの「サービス」とは、ウィンドウを表示せずに動作するプログラム
  • データベースの操作はCRUDと総称される(Create, Read, Update, Delete)

第5章

工場のしくみ/松林光男、渡部弘


工場で行われる業務について整理した本。初心者向けにまとめられている。

工場業務について理解する必要があったために読んだものだが、
業務を管理するという点では歴史が長いこともあり、
ある程度、日々の業務にも敷衍できる考え方もあるだろう。



第1章 工場とは何か

  • 組立型:部材を集めて加工・組み立てを行い製品化するタイプの産業(自動車や家電 等)
  • プロセス型:素材を化学的に変化させて製品化(石油化学、薬品、製鉄 等)
  • 購買⇒製造⇒販売の横の流れ、開発・設計⇒製造の縦の流れが工場の基本、あらに原価・品質や財務等の管理が加わる

第2章 工場見学!モノがつくられる工程をみる

  • 大きな工場(従業員300人以上)は全体の1%もないが、出荷額は全体の50%を占める

第3章 さまざまな生産のしくみ・タイプ

  • 工場の分類
    1. 加工プロセスによる分類:プロセス生産/アセンブリ生産
    2. 製品の種類と生産量による分類:少品種多量生産/多品種少量生産
    3. 機械の配置による分類:フローショップ型生産/ジョブショップ型生産
    4. 組立の方式による分類:ライン生産/セル生産
    5. 生産指示方法による分類:プッシュ生産/プル生産
    6. 生産指示単位による分類:連続生産、流れ生産、繰返し生産、フロー生産/ロット生産、バッチ生産
    7. 在庫ポイントによる分類:見込生産/受注生産
  • ジョブショップ型では装置が加工機能ごとに集められ、それぞれが1つの加工センターになる。多品種少量生産で一般的。
  • フローショップ型では製品の加工順に装置を配置。ある程度まとまった生産量がある場合に採用
  • ライン生産は、作業の単純化により人件費を抑制可能、一定の生産量にあわせて最適化されているので変化に対応しづらい
  • セル生産は、1人あるいは少人数で作業所(セル)を作り、そこで製品を製造。作業者に要求される技能レベルが高くなるが、生産量の増減、工程変化に対応しやすい
  • プッシュ生産は生産を効率よく進めるための計画を立て、そのとおりに生産。不要な製品が生産されることも発生
  • プル生産は後工程が引き取った分だけを前工程から補充。(トヨタ生産方式

第4章 工場全体のしくみ

  • 情報の流れ(概要)
    1. 新製品が開発されると製品に関する情報が工場に連携:基準情報(品目情報、部品表などから構成)
    2. 工場では生産技術部門が工順表を追加し生産準備
    3. 営業部門では販売計画を作成
    4. 営業と生産管理部門が販売計画をもとに生産計画を作成
    5. 生産計画をベースにした部品の発注タイミング等:MRP(資材所要量計画)
  • 工場業務の全体像
    1. 販売管理:販売計画策定
    2. 生産計画と調整:販売計画に基づき、生産計画を作成
    3. MRP:基準生産計画および基準情報をベースに必要な資材を計算
    4. 開発・設計:基準情報策定(製品製造に何がどの程度必要か等)
    5. 工程管理:製造の進捗等を管理
    6. 購買管理:資材の発注・納品状況を管理
    7. 在庫管理:資材、製品の入出庫管理
    8. 経理:支払・買掛管理
    9. 原価管理;製品の原価計算を実施

第5章 レポート・工場の各部門担当者の1日 

  • 技術開発部門:製品企画、製品開発、設計、試作
  • 生産技術部門:工程設計、設備導入保守、設備情報保守
  • 生産管理部門:生産量・納期管理、資材・製品の在庫管理
  • 購買部門:購買方針の設定、購買計画の策定、購買活動、購買活動管理
  • 製造部門:製造指示、作業、実績収集、進捗管理、実績評価
  • 品質管理部門:品質管理システムの構築・運用

第6章 開発・設計の仕組み

  • コンカレント・エンジニアリング方式:開発・設計・試作・準備を同時並行で実施する方式。量産体制のいち早い確立等を目指す
  • 製品ライフサイクル全般にわたる収益性管理の実現に向けた考え方をPLMという
  • PDMを核に、SCM・ERPなどのサブシステムと製品に関連したすべての情報を共有化することで成立

第7章 生産管理の仕組み

  • 生産管理の機能体系
    1. 生産計画・その他計画:生産量と生産時期に関する計画管理
    2. 基準情報管理:品目情報、製品構成情報、製造工程に関する除法、機械・設備に関する情報の管理
    3. MRP:生産計画、製品構成情報、在庫情報に基づいて資材の必要量、時期を計画
    4. 購買管理:適正な品質の資材を調達するための管理
    5. 在庫管理:適正な在庫水準を維持するための管理
    6. 工程管理:生産工程の進捗状況を把握・管理
  • 販売部門と生産部門が協力して適切な在庫を作成する業務を「生販在計画」と呼ぶ
    1. 市場の売れ筋や過去実績、前回までの計画および販売目標に基づいて販売計画(機種別・期間別)を策定
    2. 現在の在庫、工場の能力を加味して期別の在庫量を計画(販売側の希望として)
    3. 過去の計画と生産実績および生産設備の拡充計画に基づき、生産能力を算出(機種別・期間別)
  • MPS(Master Production Schedule):製品レベルの詳細計画
  • 基準情報:製品定義情報、製造工程情報から成る。一般的にはBOMと呼ばれる。それぞれの部品についての詳細は品目情報として別にまとめられる。
  • MRPの運用には、MPSがあり、製品を定義する情報がBOMとして管理されており、在庫管理されていることが必要

第9章 原価管理の仕組み

  • 原価管理の4つの仕事:原価企画、原価計画の作成、原価改善活動、原価活動の管理
  • 原価計算の手順
    1. 費目別計算:材料費、労務費・経費の3費目のそれぞれの原価を計算、さらに直接費・間接費に区分
    2. 部門別計算:間接費を直接製造にかかわる製造部門と補助的な作業をする補助部門に分ける
    3. 製品別計算:直接費はそのまま計算、間接費は一定の基準で配賦

第10章 品質保証(QA)とは何か

  • 検査重点主義⇒工程管理重点主義⇒新製品開発重点主義 と上流に重点が移動
  • シックスシグマ:品質のばらつきを除去する考え方。DMAICの流れで設計

企業価値評価(上)/マッキンゼー・アンド・カンパニー

企業価値評価(上)/マッキンゼー・アンド・カンパニー

企業価値評価の古典。
DCFやマルチプルの原理について説明。
入門的な企業価値評価本と比較して、裏付けとなっている実証研究の内容等にも触れられている。

【目次】
第1部 原理編
 第1章 なぜ企業価値か?
 第2章 価値創造の基本原則
 第3章 期待との際限なき戦い
 第4章 投下資産利益率(ROIC)
 第5章 成長とは何か
第2部 実践編
 第6章 企業価値評価のフレームワーク
 第7章 財務諸表の組み替え
 第8章 業績および競争力の分析
 第9章 将来の業績予測
 第10章 継続価値の算定
 第11章 資本コストの推定
 第12章 企業価値から1株当たりの価値へ
 第13章 企業価値の算定と結果の分析
 第14章 マルチプル法による企業価値評価の検証
第3部
 第15章 企業価値はROICと成長率で決まる
 第16章 市場は形式ではなく実体を評価する
 第17章 市場心理と価格化入り
 第18章 効率的市場における投資家と経営者


【概要】
第1章

  • 価値創造の基本原則とは、「投資家から資本を調達し、資本コストを超えるリターンで将来キャッシュフローを生み出す場合に価値が創造される」というものだ
  • 価値創造の大きさは、企業の成長率と、ROICが資本コストをどれだけ上回るかの組み合わせによって決まる
  • 企業価値不変の法則とは「キャッシュフローが変わらなければ企業価値も変わらない」というもの
  • 株式市場とクレジット・マーケットの機能の仕方は、まったく異なる。株式の流動性はきわめて高い。その理由は2つある。第1に、株式の取引は証券取引所で秩序立って行われている。第2に株式市場では、多数の売り手と買い手が比較的少数の銘柄を取引している。反対に、クレジット・マーケットは規模が小さいうえに流動性が低い。その理由として、まず銘柄の多さがあげられる。一企業が複数の社債を発行するうえ、債権デリバティブの数はさらに多い。しかも、これらは標準化されていない。さらに、債券のうち取引されていないものも多い。経済危機が株式市場からではなくクレジット・マーケットから発生するのはこのためだ。

第2章

  • 成長率が一定と仮定すると、ROICが高いほど企業価値が高くなる
  • ROICが高水準にあるときには、成長率が高いほど企業価値は高くなる。しかし、ROICが資本コストを下回ると、成長率が高いほど企業価値は低くなる。そしてROICが資本コストと同じ場合には、成長率は企業価値に影響を与えない
  • ROICが高い企業は成長に専念し、ROICが低い企業はROICの工場に専念すべき、ということだ。
  • マルチプル拡大の考え方が正しいとすると、合併予定の企業のPERのうち、高いほうが合併後に適用されることになる。しかし、マルチプル拡大を実証的に示すようなデータは存在せず、企業買収を正当化する理屈としては完全に間違っている。

第3章

  • 株主に対するリターンが市場全体よりも高い企業も、やがては株価に織り込まれた期待を達成できなくなる日がくる。その時点から、たとえ企業が引き続き大きな価値を創造し続けても、株主に対するリターンは以前よりも低くなる。
  • 経営者の報酬は、主に、成長率、ROIC、株主に対するリターンの3点尾競合との比較によって決まるべきだ。これにより、株主に対するリターンのうち企業固有の要因以外による部分を切り離すことができる。

第4章

  • 価格プレミアムの要素は以下の5つ
    1. 革新的な製品(特許で保護されているか、模倣が難しいか)
    2. クオリティ(顧客が高い値段を払うに足るような違いがあること)
    3. ブランド
    4. 顧客の囲い込み(他社の製品・サービスへの乗り換えコスト)
    5. 合理的な価格形成
  • コスト効率性・資本効率性の効果で生じる競争優位性
    1. 革新的な事業運営方法
    2. 独自のリソース
    3. 規模の経済
    4. 拡張性のある製品・プロセス
  • ROICを高めるような戦略を策定している企業は、時を経て経済・業界・企業が変化しても、高いROICを維持できる場合がある。特に、比較的長いプロダクト・ライフサイクルをもつ業界に当てはまる。その逆も成り立つ。

第5章

  • 成長の3つの主要要素
    1. ポートフォリオ・モメンタム(属する業界自体の成長)
    2. マーケットシェアの変化
    3. M&A
  • 企業価値創造には、市場の成長のほうがシェア拡大よりインパクトも大きく、持続的だ。
  • 成長戦略が価値創造に有効かは、その戦略に対して競合企業がどのくらい対抗してくるかに大きく依存する。たとえば、価値創造にもっとも有効な成長戦略は、製品の技術革新である。革新的な商品には競争がないうえ、新規顧客の開拓や既存顧客がより多くの製品を購入するための誘導もインパクトが大きい。
  • 一般に事業価値創造のインパクトが少ないのはマーケットシェアの獲得による売り上げの増加である。このタイプの成長は競合企業が激しく対抗してくる。
  • 高成長を遂げる以上に難しいのはそれを維持すること。製品にはライフサイクルがあるため、新製品を断続的に投入し続けることが高成長を維持する唯一の方法だが、実現可能性はゼロに近い。

第6章

  • 営業FCFは企業の事業活動から生み出されるCFから事業への再投資額を引いたものである。営業FCFはすべての投資家(株主、債権者)に帰属するCFであり、WACCで割り引く必要がある。
  • 支払利息の節税効果を営業FCFではなく資本コストに織り込む理由は、企業がすべての資金調達を株主資本で行っていると仮定して営業FCFを計算すれば、有利子負債・資本構成に関係なく、業績を他社や過去の推移と比較できるからである。
  • 株主以外に帰属する価値とは、短期・長期の借入金や退職金・年金の積立不足分、オペレーティング・リース、従業員向けストックオプションの未払い分などを含む。
  • 理論株価は、試算した株主価値を株式希薄化前の発行済み株式数で割ると算出できる。このとき、転換社債や従業員向けストックオプションの価値はすでに織り込み済みのため、株式希薄化簿の株式数を使わないように注意する。株式希薄化後の株式数では、オプションの価値を2回織り込んでしまう。
  • MM理論は有利子負債の増加による株主資本コストの上昇が、WACC算出の際の有利子負債・資本構成の変化を完璧に相殺して、結果としてWACCは変わらないという前提になっている。(借入が増えれば、株主にとってはリスクが高まり、より高いリターンを要求するはず)
  • APV法は事業価値を100%株式で資金調達した場合の事業価値と有利子負債調達による節税効果の価値の2つにわけてとらえる。

第7章

  • NOPLATの算出ステップ
    1. 支払利息を営業利益に足し戻す(支払利息は一部の投資家への支払であって、営業費用ではないため)
    2. 投下資産以外の資産から生み出される収益あるいは損失をNOPLATの計算に含めない(投下資産は非事業用資産を含まないため)
    3. 支払利息やそれ以外の営業外利益が税金に与える影響を取り除く(PL上の税金算定は利払いやそれ以外の営業外損益を勘案して、非事業用資産や有利子負債・資本構成の影響を受けるため。すべての資金を株式で調達し、純粋に事業のみを行った場合にかかる税金と同額になるはず)
  • 企業が一定条件のもとにある資産をリースした場合、資産にも負債にも計上する必要は無い。代わりに、その資産のリース料を費用として計上する。資産を正しく評価するためにはリース資産を事業用資産とみなして、資産価値を計上する必要がある。同時に同等の価値を負債に加算する。そうしないと、リース資産を多くもつ企業は、それら資産を購入した企業と比べて事業資産が少なく見えてしまう。

第8章

  • 売上成長率を分析する際には、為替の変動、合併・買収、会計方針の変更を考慮する必要がある。
  • 売上成長率を分解するには「売上高=売上高/単位×単位」
  • EBITAの支払利息に対する比率は、減価償却中の設備を更新する前提で、利息返済する能力を測る。EBITDAの支払利息に対する比率は純利益と設備更新のための減価償却費両方を充当した場合の短期借入金返済能力を測る。

第9章

  • 業績が安定するまでの機関は各年キャッシュフローの予測が必要。業績が安定するとは以下の状態を指す
    1. 成長率が一定。毎年営業利益の一定割合を事業に再投資
    2. 既存と新規両方の投資に対するリターンが一定
  • 余剰現金、短期借入金、長期借入金、新規有利子負債、利益剰余金以外の資本 の5項目をプラグと呼ぶ。これらを組み合わせて貸借対照表をバランスさせる。

第10章

  • 継続価値の算定にあたり、競争優位にある期間、言い換えると通常以上のリターンを得ている期間については、各年のキャッシュフローを予測したほうがよいとする考え方がある。これは、企業が一定期間は資本コストを上回る収益を上げ、その後投下資産に対する収益率が資本コストの水準まで減少するという原理に基づいている。
  • 継続価値は大きい割には不透明なので、アナリストは過度に保守的になりがちである。将来の業績を控えめに予測しすぎるのは不透明さに対する過剰反応といえる。

第11章

  • WACCの要件
    1. 営業FCFはすべての資金提供者に帰属するため、各投資家のリスクに応じた機会費用をすべて反映する
    2. 各資金提供者が合理的に求めるリターンを、目標とする有利子負債/株主資本比率で加重平均、その際時価ベースでDE比率を算定
    3. 営業FCFに含まれてない利益やコスト(tax shieldなど)が存在する場合、資本コストに含めるか個別に評価する
    4. 営業FCFは税引後ベースで表されるので、資本コストも税引後ベースとする
    5. 営業FCFを予測する際のインフレーションは同じ数値を利用する
    6. 資本コスト推定のために用いた証券のデュレーションは、FCのデュレーションと同じでなければならない
  • 各々のキャッシュフローを満期が同じ国債の利回りで割り引くのが理想的。簡略化のために、評価対象のCF全体の流れに最もマッチする一種類の国債を選び、単一の最終利回りで割り引く
  • 一般的に将来短期金利が上昇すると予想される場合、長期債の金利は高くなる。短期債の利回りをリスクフリーレートとして使うと、短期債が満期をむかえたときに、債券投資家がより高い金利で再投資する事実を見落としてしまう
  • ベータの推定プロセスには判断が必要となってくる。より適正な結果を得るために、将来の経済下においてその産業がどのように動くのかについても検討する。次に業界内の類似企業のベータと比較・調整することで推定の精度を上げる。
  • 日次や週次のベータを用いた場合に特に問題になるのは当該株式の取引頻度が低い場合。流動性の低い株式のリターンはゼロとなることは多いが、それは株価が一定だからではなく、取引が無いからである。2つ目の問題は、オファーとビッドの差に関わるもの。株価は最新の取引価格であるため、最後の取引が買いか、売りかで変わってくる。本来価値が変化しなくてもオファーとビッドの間を行き来することになり、長期のリターンを用いることでこの歪みは緩和される。
  • 各国市場のインデックスを用いると、限られた2,3の業界の比重が非常に高いことが多いため、市場全体でのシステマティックリスクではなく、特定の業界の変動に対する相関性を測ることになってしまう。
  • CAPMへの反対意見として、ファーマ−フレンチの3ファクターモデルが挙げられる。株式のリターンは、企業の規模とは負の相関があり、株式の簿価/時価比率とは正の相関があるという結論を出した。このモデルでは株式の超過リターンを市場の超過リターン、大型株に対する小型株の超過リターン、簿価/時価比率の低い株式に対する簿価/時価比率の高い株式の余剰リターンとそれぞれ回帰させる。

第14章

  • マルチプルを使う際の留意点
    1. 有利子負債・資本構成の違いや一時的な損益の影響を除くため、株主価値ではなく、企業価値のEBITAマルチプルを使う
    2. 分母となる利益と分子となる企業価値を同じ資本で計算する(余剰資金を価値から差し引いた場合は、利子を利益から差し引く)
    3. 比較対象にはROICと長期的な成長率の予測値が近い企業を選ぶ
  • PERの欠点は、有利子負債/資本構成によって変わってしまうこと、純利益には事業以外の損益が含まれること。償却や減損といった事業外の損失の影響を受けてしまう。
  • EBITよりもEBITAを使うべきであるのは、償却が過去の買収から発生する会計の人工的な数値であり、将来的なキャッシュフローとは結びついていないため。
  • EBITDAではなくEBITAを使うべきであるのは、減価償却費は資産を更新する際に必要な将来の資本をとっておくことと等しく、設備投資を考慮すべきであるため。
  • 将来予測の利益を使うべきであるのは、事業価値は将来キャッシュフローの現在価値という価値評価の原則と一致させることができ、さらに、将来の業績予測は正規化されているため、一時的なコストを除いた長期的なキャッシュフローを反映するため。

第15章

  • 市場全体としての過去45年にわたる企業価値評価の水準と過去200年にわたる株式リターンは、経済成長、インフレ、そして企業の資本収益率という実体経済の長期的パフォーマンスとおおむね整合している。
  • ROICと資本コストを上回るリターンを生む前提での成長率が高いほど、株式市場において高いPERあるいは企業価値/投下資本比率を通じて評価され、長期的には株主に対する高いリターンを生み出している。

フェルマーの最終定理/サイモン・シン

[一般教養のために読んだ本]フェルマーの最終定理サイモン・シン

フェルマーの最終定理の成り立ちからそれをアンドリュー・ワイルズが解くまでの道のりのドキュメンタリー。
よくも悪くも数式自体の理解がなくても読むことができ、ドラマとして楽しめる。
フェルマーの最終定理は、問題の理解は簡単でも解くためには20世紀の数論の粋を集める必要がある、
というのが人々を惹きつけるゆえんであり、それができるまで、解かれるまでにかかわった人々の人生が描かれる。

数学というジャンルの厳密性や数学者という人間たちの考え方は、
頭脳労働の極致を見るようで、自分がいかに曖昧な考えや憶測の中ですごしているかを思うことになる。

完全に証明されたものだけの上に、自分の考えを成り立たせようとするならば・・・
考えただけでも、仕事が進まなくなりそうでいやになるが、数学というものはそういうものなんだと、
端から眺めて感動したり、その恩恵を末端で享受したりできる程度の明晰さは持ちたいものだと考えさせられる。


【目次】
第1章 「ここで終わりにしたいと思います」
第2章 謎をかける人
第3章 数学の恥
第4章 抽象のなかへ
第5章 背理法
第6章 秘密の計算
第7章 小さな問題点
第8章 数学の大統一

【概要】
第1章

  • 若い人は定理の証明をすべきであり、老人は本を書くべきである
  • 数学者は決して忘れてはならない。他のいかなる芸術や科学の分野にもまして、数学が若い人のものであることを。
  • 川は常に曲がろうとする傾向を持っている。少しでもカーブがあれば、外側で流れが速くなり侵食が進み、カーブは急になり、ますます外側の流れが速くなる。一方でカーブが急になると、元の流れに対して折り返すことだからバイパスができやすくなる。バイパスができれば川はまっすぐになり、湾曲した部分は三日月湖となって川の脇に残される。これら二つの要因がバランスをとることで川の実際の長さと、水源から河口までの直線距離との比の平均値がπに近づく。
  • 科学理論を数学理論と同じレベルで完全に証明することはできない。「この理論が正しい可能性はきわめて高い」と言えるだけなのだ。いわゆる科学的証明は観察と知覚をよりどころにしているが、そのどちらもが誤りをまぬがれず、そこから得られるものは真実の近似でしかない。

第2章

  • パスカルは確率論を使えば、信仰も正当化できると考えた。「ギャンブラーが賭け事をするときに感じる興奮の大きさは、勝ったときの景品に勝つ確率をかけたものに等しい。」として、「永遠の幸福という景品は無限大の価値を持つ。また、高貴な人生を送ることによって天の国に入れる確率は、たとえどれほど小さいとしても有限の値を持つ」したがって、無限大の景品に有限の確率をかけたものはやはり無限大だから、無限大の興奮を得られるゲームだとした。
  • エウクレイデスは数学的真理の追究そのものに価値を認め、自分の仕事を応用することなど考えてはいなかった。あるとき一人の生徒が「いま教えていただいた数学はどんなことに使えるのですか」と質問したところ、エウクレイデスは授業後に、「あの少年に小銭を与えなさい。彼は学んだことから利を得たいようだからね」と従者に伝え、放校した。
  • 友愛数とはペアになった二つの数で、一方の数が他方の数の約数の和になるようなものである。ピュタゴラス教団は220と284が友愛数だというめざましい発見をした。

第3章

  • 年端のいかないワイルズが、20世紀の子供は17世紀の天才ピエール・ド・フェルマーと同じくらい数学を知っていると考えたのは正しかった。
  • 「数学には答えがある」というこの考え方は、数学の”完全性”と呼ばれている。自然数を扱った問題の中にも分数の力を借りなければ答えられないものがある。数学者はこのことを「完全性をもたせるには分数が必要だ」という。
  • 数学者ゴットフリーット・ライプニッツは、虚数の奇妙な性質を優美に表現した。「虚数とは、神なる聖霊の頼もしき拠り所にして、存在と非存在のあい半ばするものなり」
  • オイラーはその絶大な知力のおかげで、紙に書き付けなくてもアイディアを自在に操ることができたし、驚くべき記憶力のかげで、自分の頭脳を図書館代わりに使うことができた。仲間の数学者たちは失明がオイラーの想像力の地平を押し広げたのだろうといった。
  • 17年という長いライフサイクルを持つセミ。その理由は、一説によるとやはり長いライフサイクルを持つセミ寄生虫がいて、セミはその年数を避けようとしているのではないかといわれている。寄生虫セミの戦略に対抗するためには同時発生の頻度を高めるようなライフサイクルを持つしかない。つまり、1年サイクルか、セミと同じ17年サイクルである。しかし、1年サイクルでははじめの16年間は宿主になるセミはおらず生き残ることは難しい。17年サイクルを持つためには進化を要し、16年サイクルの時点では272年に1回しか同時発生しないことになってしまう。
  • 父親はソフィー・ジェルマンの数学への意欲を失わせようとロウソクと洋服を取り上げ、部屋に暖房も入れさせなかったという。ジェルマンは父親に対抗してロウソクを隠し持ち、毛布に包まって勉強を続けた。パリの冬の夜は寒く、インクつぼのインクが凍りついたが、それでも勉強をやめなかった。

第4章

  • ヒルベルトは、数学のすべては基本公理から証明できるし、証明できなければならないという信念を持っていた。そのためには、数学というシステムを支える柱のうちもっとも重要な二つが正しいことが示せればよい。まず第一に数学は、すべての問題に答えられなくてはならないということ。第二に数学に矛盾があってはならないということ。
  • ラッセルのパラドックスは、しばしば几帳面な図書館司書のたとえ話しとして説明される。自分自身を記載していない目すべての目録を記載した目録には、その目録自身を記載すべきだろうか。もし記載すれば「自分自身を記載していないすべての目録を記載する」という定義に反してしまう。しかし、もし記載しなければ同じ定義によって記載しなければならなくなる。
  • ラッセルの仕事は数学の根幹をゆるがし、数理論学を混乱のるつぼに放り込んだ。論理学者たちは、数学の深いところにひそむパラドックスがいずれその非論理が頭をもたげ、ただならぬ問題を引き起こすであろうことをはっきりと意識した。
  • ゲーデル不完全性定理によって、完全で無矛盾名数学体系を作るのは不可能だということを証明した。
    第一不完全性定理 高利的集合論が無矛盾ならば、証明することも反証することもできない定理が存在する
    第二不完全性定理 高利的集合論の無矛盾製を証明する構成的手続きは存在しない
  • ゲーデルは、真ではあるが決して証明できない命題、いわゆる決定不可能な命題が存在することを示すのに成功したのだった。
  • 数学者のE.Cティッチマーシュはこう述べた。「πが無理数だと知ったところで何の役にも立たないだろうが、知ることができるのに知らないでいるなんて耐えられないではないか」

第5章

  • 谷山は、たくさんの間違いを犯す、それもたいていは正しい方向に間違うという特別な才能に恵まれていた。私はそれがうらやましく、真似してみようとしたが無駄だった。そうしてわかったのは、良い間違いを犯すのは非常に難しいということだった。
  • 谷山と志村は、楕円方程式とモジュラー形式とは実質的に同じではないかと言い出して数学会に衝撃を与えた。(谷山=志村予想)
  • ゲルハルト=フライは、フェルマーの最終定理の真偽が、谷山=志村予想が証明できるかどうかにかかっているというドラマティックな結論を導いたのである。

第6章

  • 新しいアイディアにたどりつくためには、長時間とてつもない集中力で問題に向かわなければならない。その問題以外のことを考えてはいけない。ただそれだけを考えるのです。それから集中を解く。すると、ふっとリラックスした瞬間が訪れます。そのとき潜在意識が働いて、新しい洞察が得られるのです。

第7章

  • 「おそらく問題は、講義を聴くときの態度にあるのだと思います。すべてを理解することと、講義する人の邪魔をしないこと、その兼ね合いが難しいのです。もしもひっきりなしに質問していたら、講義するほうは何も説明できなくなり、聴くほうも結局は何もわからずじまいになるでしょう。一方質問しなければ内容は理解できませんから、何もチェックできないことになってしまう。
  • 論文に誤りが見つかったとき、その後のなりゆきには二通りあります。ひとつは、すぐに確信がみなぎって、証明が容易に復活する場合です。しかしその逆もある。犯した誤りが根本的なもので、修正する方法はないとわかったときにはとても動揺するし、がっくりと落ち込みますよ。修正しようとすればするほど泥沼にはまってしまい、せっかく導いた定理がばらばらに壊れてしまうことだってあるのです。
  • 言葉に仕様のない、美しい瞬間でした。とてもシンプルで、とてもエレガントで。どうして見落としていたのか自分でもわからなくて、信じられない思い出20分間もじっと見つめていました。

第8章

  • 八年に及んだ試練のなかで、ワイルズは20世紀の数論におけるほとんどすべての進歩を寄せ集め、絶大な力を持つ1つの証明に組み込んだ。ワイルズが生み出した数学のテクニックはまったく新しいものだったが、彼はそれらを従来のテクニックと結びつけた。それも、それまで不可能と思われていた方法によって。そしてその過程でほかの多くの問題を攻撃するための新たな道を切り開いたのだった。
  • 「みんなは私にこういうのです。君は問題を奪ったのだから、その代わりになるものをくれ、と。
  • 数学会は、トップクラスの大学に終身在職件を持つほどの教授がいんちきな主張をするはずがなく、欠陥を指摘されればすぐに主張を撤回するだろうと考えている。
  • いつでも、どこでも、誰でも、プログラムの詳細を入力してチェックすることができる。人間が一生かけてできる以上のことをコンピュータが数時間でやってのけるからといって、数学的証明の基本的概念が変わるわけではない。変わったのは数学の理論ではなく、数学の実践なのだ。