すとほらの方に森

「だって……わたしは皆の中に入ると一番小さいから……。同じ年の皆の中にいると、出来ない事ばかりで悔しかったんだ。竹とんぼは、わたしを心配した直さまがお友達と一緒に遊びなさいって言って、たくさん作ってくださったから……」
「なぁんだ、そうだったのか。」
「うん。皆の事が嫌いなわけじゃない。」
「結局、我らと遊んだのは、直正殿に心配を掛けたくなかったかということなんだな。」

一衛はこくりと肯いた。

「ここはね、あんたたちのような会津っぽが泊まるような旅籠じゃないんだよ。さあ、行ったり行ったり。何処か他をあたるんだね。」
「連れの者は、体が丈夫ではないのだ。せめて布団で寝かしてやりたいのだ。金ならある……」

差し出した札入れを叩き落として、客を引く女はまくしたてた。

「金のあるなしじゃないんだよ。朝敵の会津なんぞ泊めたら、こっちが明日っから朝敵呼ばわりされるって言ってるんだ。いいから、さっさと行っちまいな。それとも、役人を呼んでほしいかい?あんたら、会津から逃げてきたお侍なら、どうせ薩長さんに逆らった身なんだろう?凶状持ちみたいなものじゃないか。」
「おのれっ……!武士を愚弄するかっ。」

一衛は顔色の変わった直正の袖を引いた。

「行きましょう、直さま。宿はほかにもあります。あんな女、直さまが切り捨てる価値もありません。」
「ここは……何度も、江戸へ行くときに交代の下士たちが利用したところなのだ。まさかこのようなところまでが、恩を仇で返があります。鎮守の森ならお社があるはずです。神さまならきっと会津の者でも、何も聞かずに泊めてくださいます。参りましょう。」
「そうだな。行こうか。」

一衛に機嫌を取られている自分に気付いて、直正は苦笑した。
これではどちらが年上かわからない。