Acronicta 属(1/2)。

 学研『標準図鑑』をさっき調べてみたら,Acronicta(あくろにくた)属の分類が書き換えられていて,ナシケンモンやサクラケンモンもアクロニクタに分類されてしまっている。

(…)Fibiger et al. (2009)はいわゆる広義の Acronicta を一つの属として位置づけ,ほぼ従来の属から降格させた形で9亜属を設置した。これによって Acronicta 属は150種を越える大属となり,旧北区に60種以上が認められることになった。(…)
(II ,p.297)

 『標準図鑑』では25種が記載されている。
 ちょっと図鑑を遡ってみようか。講談社『大図鑑』(1982)。

(…)Acronicta 以下,Viminia に至る9つの属は,一般には広義の Acronicta として扱われ,(…)。♂交尾器のほか,幼虫の形態を重視してこれらを亜属として扱うことが多いが,本図鑑では属に昇格させて取り扱う。日本産は25種が既知。
(I ,p.674)

 さらに「Butterflies and Moths of the World」の「ACRONCTA」の記述を参照する(拙訳)。

 Hylonycta Sugi,1979 〔ウスズミケンモンなど〕と Molybdonycta Sugi,1979 〔オオモリケンモン〕の2つは Acronicta Ochsenheimer,1816 の亜属として設置され, Inoue, Sugi, Kuroko, Moriuti ,Kawabe によって属のレベルへと上げられた(1982, Moths of Japan Vol. 2 : 346)。

 ほぼ状況把握。
 (それにしても,実体としての蛾よりも概念としての蛾の方がわたしには楽しいらしい。なるほど標本作りに関心がなかったり,すぐに虫撮りをサボるわけである)。


 ちなみに保育社『蛾類図鑑』(1958)17種・北隆館『昆虫図鑑』(1965)18種では“Acronicta”は用いられず,Apatele Hübner,1822 。これが1971年の『蛾類図鑑改訂新版』では17種すべてが“Acronicta”に置き換えられている。現在では Apatele は Acronicta のシノニムでだいたい確定。
 要するにもともとが「広義」で分類されていて,一旦『大図鑑』で細分化してみたのだが,結局もとに戻ったということである。
 でも25種もいると分類学的には正しくとも,素人が使う分には厄介である。アクロニクタのタイプに最も近いのは「シロケンモン」で,「ナシ」や「リンゴ」や「ハンノ」とは見た目が結構違う。


 というわけで,『大図鑑』分類の2種の画像。
シロケンモン Acronicta vulpina
 シロケンモン Acronicta vulpina。11年7月5日。21mm。


オオケンモン Acronicta major
 オオケンモン Acronicta major。08年7月29日。27mm。
 この2種は紋の発達の悪さが似ていて,見た目分類的には割と良い感じである。