yyzz2;虫撮記【虫画像・他】

昨年までは虫撮りの記録および虫の話題です。

苫小牧から転勤して,現在は遠軽町で活動……していません。

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現在,心ならずも完全不定期に陥っています。

17-05-06(土)

[]蛾の学名のジェンダーについてまた考えた。Eustroma属・Evecliptopera属・Gagitodes属。 蛾の学名のジェンダーについてまた考えた。Eustroma属・Evecliptopera属・Gagitodes属。を含むブックマーク 蛾の学名のジェンダーについてまた考えた。Eustroma属・Evecliptopera属・Gagitodes属。のブックマークコメント

 エウピテーキア(カバナミシャク)後。

  • Eustroma属
    • 属名のジェンダーが今回の『標準図鑑』で「女性」とされたものの一つ。何度か書いているように,ラテン化されていないギリシア単語そのままの属名はもとのギリシア語での性別とするのが命名規約。‘stroma’は中性なので,種小名語尾が「-a」になっているものは「-um」に変更すべきところである。例えば,サイト「Lepidoptera and some other life forms」ではすべて中性語尾に書き換えられている
    • かつてある人にそこら辺を訪ねたところ,じゃあオオシモフリエダシャクをどう扱うべきなのかと返ってきた。Bistonのことである。なるほどあれは混乱している。
    • おそらくギリシア人名なので,原則ならば男になるが実際は女性ジェンダーで用いられている場合がほとんどである(種小名が単なる名詞とみなされる時や,複合語であるなら女性・中性形の余地があるが,それに当てはまらないケースが多い)。ちなみに属名の命名を行った Leachが(規約ができる前の1815年ではあるが)女性ジェンダーで処理している(Edinburgh Ency. 9: 134)。リーチが Bistonの由来を明記していないので,リーチの意に従ってジェンダーを女性と見なすことは不可能とは言い切れない。
    • そもそも,すでに平嶋義宏「蛾類の学名の研究」で明らかにされているように,蛾の学名のジェンダーは規約を越えて女性化されていることがしばしばである。
    • リンネが蛾の性をすべて女性にして(SphinxとPhalaena群。これについては拙ブログ「09-02-09 『英国産鱗翅目の学名』から(2)」参照)命名している。わたしの推測では,ファブリキウスやヒュブナーなどの後継者が新属名を作った時に,(まだ属の概念が明確には存在していない頃であるから)リンネの分類を新属名の「さらに上位のタクソン」と把握して,ことごとく種小名を女性語尾にしてしまい,そのまま慣行化したのではないだろうか。
    • おそらく執筆者たちの意図は,研究によって属名がころころ変わりかねない状況のなかで,種小名の綴りを安定させて整理・検索に便を図ろうというものだと思われる。異なる理由とは言え,結果として今回の『標準図鑑』は一種の先祖返りである。
      • 250年前と現代のフロンティアが結果として手を結ぶ。これは悲劇なのだろうか,喜劇なのだろうか。これは更に後世の人々の判断するところである。

 

  • Evecliptopera属
    • 「v」と「u」は置換可能。命名者はvの方が(英語で発音するなら)座りがいいと考えたのだろう。「Euecliptopera」が先行存在していてホモニムを避けたのではなさそうである。

 

  • Gagitodes属
    • セスジナミシャク Evecliptopera illitata の命名者 A. E. Wileman (1860-1929)はイギリスの外交官で,鱗翅のアマチュア研究者。彼については,江崎悌三による評伝に詳しい(江崎, 1984, 江崎悌三著作集 1: 121-130)。
    • illitus(色を塗られた)とは,「背筋の白線」のことだとわたしは思っているのだけれども,さあどうかな。
    • 画像はいつものザイツ。Seitz, 1915, Die Gross-Schmetterlinge der Erde 4: ,pl. 10。ヤハズナミシャク。ザイツでは Cidaria属に分類されている。セスジナミシャクは見つからない。

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17-04-28(金)

[]蛾への献名について。シーベルスとブラニツキ。 蛾への献名について。シーベルスとブラニツキ。を含むブックマーク 蛾への献名について。シーベルスとブラニツキ。のブックマークコメント

 ルーミスシジミやヤンコウスキーキリガとかプライヤエグリシャチホコとか,外国人名が付いている和名がしばしばあって(当ブログの読者ならともかく)一般人には何だか分からなかったりするのだが,たいていは「献名になっている種小名」に由来している。すなわち,「Arhopala ganesa loomisi」,「Xanthocosmia jankowskii」,「Lophontosia pryeri」。無個性な標準和名よりは面白いかもしれない*1

 面白いのはそれ自体ではなによりなのだが,「献名学名」(わたしの造語)は「一体誰のことなのか」を調べようとすると大変な手間がしばしばかかる。縁あって学名調べをしているわたしにとって「献名もの」は難関の一つ。とにかく手がかりが乏しい。はっきり言って,昆虫学辞典に載るレベルに達しない人はお断りしたいほど。

 日本で「昆虫学史」をまとまって手がけているのは,私の知る範囲では,江崎悌三と小西正泰両氏ぐらいである。フロンティアを走る人々にとっては「史・誌」はエネルギーを注ぐに値しないものとされるらしい。かくして江崎昆虫学史も雑誌連載の中座を余儀なくされたとのこと。このことは,簡単に調べられる日本語文献がほとんどないということでもある。

 

 というわけで,原記載文を見てヒントを探して,人物をネット検索(ほとんど外国語のWiki),を繰り返している。

 今回はその報告。HPに書き足した分。

 

シーベルスシャチホコ Odontosia sieversii

 最後が「-ii」になっているのは,名前をラテン語尾化して「-ius」にして更に属格にした結果である。名前は「Sievers」。この人物は普通の『昆虫事典』なんかには出てこない。

 すでに『Etudes entomologiques』あたりは読んでいて,19世紀後半のサンクトペテルブルクのアマチュアだとは見当をつけていたのだが,今回「A Guide to Nabokov's Butterflies and Moths」というサイトに「Section 3 Scientists Related to Nabokov's Work on Lepidoptera」なるページを発見して,情報量が増えたのでここに報告する。シーベルスに関する本邦初紹介かもしれない。

 Johann Christoph Sievers は1805年ハンブルクの名家の出身。ドイツ系だが,活躍の舞台はロシアである。商人らしい。鱗翅目のアマチュア収集家であり,サンクトペテルブルク地区で採集した蛾のリストを,地元の昆虫学誌に増補しながら数回発表している。没年が1867だから,次の報告がおそらく最終稿だろう。

 J. C. Sievers, 1867, Verzeichniss der Schmetterlinge des St. Petersburger Gouvernements., Horae Societatis Entomologicae Rossicae 2: 133

 蝶97種,シャクガを除く大蛾類371種,シャクガ216種,小蛾類586種の計1270種があげられている。

 

 ※息子 Gustav Sievers も昆虫学で知られる。この人物の Wikipedia の項目(リンクはスラブ文字を出せないので,英語に翻訳したもの)に,著作として1862年の目録が載せられているが,これは父親のものとの混同であろう。

 Odontosia sieversii のおそらく最も古い画像。

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 Motschlsky, 1859, Et. Ent 8: 144, pl. 2, f. 1 (Notodonta sieversii)。

 

クロテンシャチホコ Ellida branickii

 相変わらずわたしには属名の「Ellida」は分からない。鱗翅にはよくある名前なので分からないのはおかしいのだが,でも分からない。

 種小名は何とか判明した。

 Lepindxでカード(これが誤記で,「 Et. Ent 」ではなく「 Ét. d'ent.」である)を見て,「branicki」の原記載( Obertür, 1881, Études d'entomologie 5: 60)をたどると,

(拙訳)

わたしはこの美しいシャチホコガを,技芸と自然科学に秀でたアマチュアである Constantin Branicki 伯爵に献じた。

 これはフランス綴りで,ポーランド綴りでは Konstanty Branicki。Wikiぐらいしか資料がない。Wikipediaのポーランド語版google英訳版(こちらだと何とか意味が取れる。日本語訳は理解不能である)とをあげておく。

 それによれば,帝政ロシア下のポーランド貴族で財産家。自らオリエント巡りをしたり,探検旅行・科学研究のパトロンをしたりして,考古学的・博物学的蒐集を行っている。彼自身が最も力を入れたのは鳥類に関して。

 彼のコレクションは,現在ポーランド科学アカデミー動物学研究所に所蔵されている。

 ちなみにオーベルチュールは,3種の蛾をブラニツキに献じている。

 原記載からの図版。

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ibid. pl. 6。(Urodonta branicki)

 

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*1:スコットカメムシの学名からシノニム化によって「scotti」が消えたのは痛恨事である。

北の国から北の国から 2017/05/01 12:35 献名といえば昨年亡くなられシベチャキリガなどで有名な飯島一雄氏も多数の献名をうけていて種小名綴りはiijimaiとiが四つになります。つい先年ロシアの研究者が発表した千島列島の記録ではルリマルクビゴミムシの再結合がなされていますが、古い種小名は柴内氏へ献名されたものでshibanaiiでしたが綴りミスと判断されたのかiがひとつ欠落しています。このように外国人研究者でも学名綴りを間違えるわけです。そして訂正されないとこのまま踏襲される恐れもあるわけです。

yyzz2yyzz2 2017/05/03 18:33 ようするにここら辺の兼ね合いなんでしょうね。
>>
(命名規約,第4版)
33.3.1 ある不正な後綴りが慣用されており,しかも原綴りの公表に記せられているとき,その後綴りと帰属を保存するものとし,その綴りを正しい原綴りと見なすものとする。
33.4 人名に基づいた属格である種階級群名であって正しい原綴りが -ii で終わっているものの,後綴りにおける属格語尾 -i の使用,およびその逆は,その綴りの変更が意図的であったとしても,不正な後綴りだと見なすものとする。
<<
日本人名は人名扱いにならないのかもしれないです。そもそも献名学名は(囲碁将棋用語ですが)「いろいろ味が悪い」のでしょうね。(面白いともいえるのですが)
それにしても専門家なのだから,ラテン語を用いているという(アカデミックな)自覚(=矜持?)が必要かと。和名に使う分にはOKかなあ。

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17-04-24(月)

[]Eupithecia属更新終わり。絶望のカバナミシャク(2)。Eupithecia tripunctaria(シロテンカバナミシャク)勉強会。 Eupithecia属更新終わり。絶望のカバナミシャク(2)。Eupithecia tripunctaria(シロテンカバナミシャク)勉強会。を含むブックマーク Eupithecia属更新終わり。絶望のカバナミシャク(2)。Eupithecia tripunctaria(シロテンカバナミシャク)勉強会。のブックマークコメント

 

 相変わらず,「八幡の藪巡りな原記載文探し→古風な外国語とその綴り字に苦悶→そもそもあるのかないのか分からない状態での図版捜索」の魔の腕の中。それでもカバナミは何とか完了した。偉い。

 

 

 それで。

 Eupithecia tripunctaria(シロテンカバナミシャク)の種小名の意味が「点3つ」なのは少し慣れてくれば辞典を引くまでもない。

 でも,どんな具合に「ミツテン・ミツボシ」なのか分からない。ため息をつきながら「原記載文」を探して読む。ラテン語とドイツ語の並記である。つらい(特に後者)。

 わたしのドイツ語力はかなりの程度あぶないので,「グーグル翻訳」と見比べながら。独⇒英はそこそこ使える水準なのである。

 

 シロテンカバナミシャクの原記載文(Herrich-Schäffer, 1855, Systematische Bearbeitung der Schmetterlinge von Europa 6: 77)の最後の箇所。

Die Wellenlinie fuhrt schneeweisse Flecke in Zelle 1b u. 3 der Vorderflügel und in Zelle 1c der Hinterflügel.

(拙訳)

波線には,前翅の1b室・3室および後翅の1c室に雪のように白い点が入っている。

http://biodiversitylibrary.org/page/42585881

 なるほどね。そういうこと。合わせて3つ。ここまで調べがつけば一段落。

 

 ところが,例の,前回も利用した Emmet, 1991, The Scientific Names of the Britsh Lepidoptera, p. 74 はこう述べる。

(拙訳)

白い亜外縁線がしばしば途切れて3つの点になることから。

 違うなあ。確かに後述のように模様が不安定だから,エメットの言うような個体もいるには違いないだろうが,でもこれは命名者の意図ではない。

 はっきり「前翅・後翅」と書いてあるのだから,エメットは原記載を見ていないのである。

 

 エメット本にも平嶋本にもそういうことがたまにある。気づいた都度,このブログで明らかにしていきたい。

 これらの本が書かれた当時は,現時点ほどにはネット上に論文が公開されていなかったこともあるのだろう。しかし誤情報であることには変わりなく,分からないことを断定的に書いてはならない(自分に返ってくる文章だなあ)。

 特定の人以外は一次情報なんて調べないのだから,間違ったまま流通してしまうのはまずい(HPはしばしば修正している*1のだけれども,過去のブログまでは手が回らない(=忘れている)。ごめんなさい)。

 

 ところでこのシロテンカバナミシャクは,肝心の「シロテン」が不安定である。

 例えば,HPに使った,Dietze の本の画像(ディーチェは E. albipunctata としている)をすべて並べるとこうなる。

f:id:yyzz2:20170421212914j:image

http://biodiversitylibrary.org/page/42454247

ちなみに後ろ2つは「夏型」。「シロテン」具合もいろいろな状態である。こんなものは見ても分からない。きれいに3つになんてなっていない。

 かくして多くのシノニム(異名)や怪しい種名が生み出されること必定。

 そこいらを最も厳しく判定する Lepindex ではこう。

tripunctaria Herrich-Schäffer 1857 - Valid Name

* aestiva Dietze 1913 - Junior subjective synonym

* albipunctata Haworth 1809 - Misidentification

* angelicata Barrett - Junior subjective synonym

* anglicata Gumppenberg 1888 - Incorrect subsequent spelling

* intermedia Lempke 1951 - Junior subjective synonym

* privata Dietze 1913 - Junior subjective synonym

アスタリスクがいわゆる「無効名」たち。「Junior subjective synonym」とは「捕らえた奴を新種・亜種だと思って命名したのだけれども,実は既知種だったと後で分かった」もの。そればかりか,同定違いや綴り換えまである。

 E. angelicata(食草であるワイルドアンジェリカ Angelica sylvestris 由来)とされたものの画像を,ディーチェ以外の場所からあげておこう。

 anon, 1878, The Entomologst 11: 169

f:id:yyzz2:20170421212915j:image

http://biodiversitylibrary.org/page/11931018

 記事が言うように普通に黒化型じゃあなかろうか。読んだ範囲では,Prest 氏が手持ちの E. albipunctata の中から強引に独立させて命名したものらしく,上記アスタリスクとの対応は不明確である。

 それほどまでに錯綜していると思えばいい。あちらこちらで様々な個体がばらばらに同定・命名されているのである。(仕方ないのだけれども)ユウウツな事態である。「新種病」の疑い濃厚?

 

 ナミシャクようやく1/3ほど。先は長いし,仕事は忙しくなるし。図版探しがなければもっと楽で早いのだけどさ。

 

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*1:直近では Pingasa pseudoterpnaria (コアヤシャク)とか。これもエメットにだまされていた。

北の国から北の国から 2017/04/24 15:09 Dr.Emmet,Back to the Future! ww

あらゆる分類群で個体変異の幅が広いものはいくつもの名前がつけられてきましたからねぇ、厳格なLepi屋さんならではのシノニミックリストです。甲虫など、例えば旧北区のリストを見てもすべてのシノニミックリストが掲載されてはいないですし、誤りも散見されたり。でも「新種病の疑い・・」の下りには思わずニヤリとさせられました。毎度、口に残っていたブラックペッパーの粒を気付かず噛んだ時のようなハッ!とさせられるスパイスに乾杯。w

yyzz2yyzz2 2017/04/25 17:18 こんな超閑古鳥・不定期ブログに訪問ありがとうございます。

>Emmet (→少し弁護)
どうしても批判ばかり取り上げることになってしまっていますが,彼の本は「命名の理由」をすべてに渡ってきちんと述べようとしていることにおいて画期的です。
学名のボキャブラリー本は沢山あるのですが(『平嶋辞典』も根本ではその1つに属します。),それでは調べたい人は結局「腑に落ちない」のです。エメットには原記載から説明しているケースも沢山あって,わたしが原記載を調べるようになったのは彼から学んだものです。
 
>新種病
コレクター気質がなくて,ましてフロンティアでもないわたしには,雑誌や同好会誌で「新種」とか「県の新記録」とかいわれても正直どうもピンとこないです。
結局はインドア派なのですね。「概念としての蛾」が文系のわたしには最も居心地がいいのかもしれません。(それにしても昔撮った蛾の写真は我ながらきれいに撮れているなあ)。
甲虫については,そりゃあもう「個体の1頭1頭」からしてそれぞれ「神に最も愛されている」のでしょうから,普遍論争にしかならないのでは。17・18世紀の蒐集家を熱狂させた旧約のアダム(創世記2:19)になりたい心理はわたしに遠いです。ごくたまに『月刊むし』の特集とか眺めての印象です。(蝶もかなあ。あれは蛾のごく一部でしかないのですけどねえ)

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