日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

地中美術館とナイトプログラム

農協前から、再びベネッセハウスの送迎バスに。一旦、ベネッセハウスで荷物を預けて、さらに送迎バスで地中美術館に向かいます。このあたり、移動距離は短いんだけれど、歩くにはちょっと…な距離なんだよね

地中美術館は、相変わらず写真撮影は大変厳しく管理されているので、これ以降の写真は無し。5月1日の16時30分に到着した時点で、かなり空いている時間帯だった。翌日は非常に混雑していたようなので、この時間に鑑賞しておいて良かった。チケットセンターでレクチャーを受けて、チケットを購入して中へ。入場料2000円、ナイトプログラム体験500円、合計2500円はちょっと高いけどね…
地中美術館は、安藤忠雄設計のコンクリートの建築に、恒久設置される3人のアーティストの作品が展示された空間。環境に配慮されて、ほとんんど地下に潜っているため、地上からは見えない

上空から見ると、光を取る為の穴が沢山あいているように見えることでしょう。パンフレットの表紙写真は、上空からの空撮写真になっている。チケットセンターから敷地入り口までにある『モネの庭』、敷地入り口から建物入り口までのアプローチ、そして、入り口から、四角い、空にぽっかりと明いた“庭”を螺旋状に登っていき…いやが上にも期待が高まる。特殊な空間、安藤忠雄のコンクリートに囲まれて。まあ、空間作りそのものは谷口吉生なんかのほうが上手だと思うんだけどね、環境の勝利だよね…
売店を過ぎて、通路の両側、斜めに傾いた安藤忠雄のコンクリートの壁、またまた開いた空、鳥の鳴き声。そんな空間を過ぎるて地下深くに下りると、最初にウォルター・デ・マリアの作品。まるで神殿の礼拝所のような空間に、階段、大きな黒光りする球体、天井からの自然光。階段を上り下りすると、どこから見ても球体に、天井の四角い窓が写り込む。ただ、正直、まあ…あんまり評価しない作品であるけれど…。日の出から日没まで、作品の表情が徐々に変化しますというのだけれど、変化したからどれほどのものなのかなあ、という気がします
次に、ジェームズ・タレルの作品。「オープン・スカイ」は後程、ナイトプログラムを体験するのでさらっと眺めて、やはりここの目玉は、「オープン・フィールド」。石段を登ったところに、単に何も写っていないスクリーンがあるのかしら?と思うと、スクリーンの中に入れる。淡い光の空間の中を進んでいく不思議。で、これね。以前来た時は奥のほうに柵があって、そこまでしか進めない、というのが目でわかるようになってしまっていたのです。多分、奥のほうに落ちてしまう人がいたせいだと思う。興ざめだ、ということになったせいか、その柵は取り払われていたのだけれど。係員の人が横に付いて、限界点のかなり手前で『ここで止まって下さい』と言うようになったのね。これはこれで、さらにだいぶ先がありそうなのに…と興ざめなのだなあ…。しかも、経年したために、人が歩き回る部分の床がかなり汚れていて、作品の視覚的効果が減衰しているように思う。驚きのままに奥へ奥へとそろそろ進んで行って、ピンポロンとチャイムで、ハッと気が付いて立ち止まる…みたいなのが、本来の作品意図だと思うのだけれど…
そして、最後にモネの睡蓮。やはりここは素晴らしい。地下なのに自然光を取り入れた空間、大理石キューブを敷き詰めた床、白い壁。そして、静かに配置された、モネの睡蓮の大作。明るい、というよりも、沈んだような色使いのモネを自然光の中で見る美しさよ。ああ…
十分に堪能して、地中カフェを貸切のようにして、窓の外に大きく広がる瀬戸内海の風景を見ながらしばし休憩。うん、いい旅だ。
一旦、ベネッセハウスに戻り、部屋に行ってから、再度、送迎バスに乗って、ナイトプログラムに参加するために地中美術館に戻ってくる。ジェームズ・タレルの『ナイトプログラム』は、天井にぽっかり四角い穴の開いた空間『オープン・スカイ』に座り、空の光の色の変化と、間接光の変化とともに味わうためのプログラム。日没の時間を利用するので、季節によって体験できる時間が変わる。この日は18時35分〜19時40分で、すでに美術館は閉館した後なので、チケットセンターに集合して、全員でぞろぞろと移動することになる。参加者は30〜40人くらいいただろうか
なお、以前、やはりジェームズ・タレルが作った、越後妻有の『光の館』で、似たような体験をしたことがある。これは『光の館』の宿泊者しか体験することができないようになっていて、日没と日の出、両方体験できるようになっている
光の館に泊まる - 日毎に敵と懶惰に戦う
光の館、続き - 日毎に敵と懶惰に戦う
さて、『オープン・スカイ』の四方の石のベンチに座り、係員のご案内が終わると、あとはみな、惚けた顔で、静かに天井を眺めることになる。最初に見えるものは、明るい、雲ひとつ無い空にぽっかりと三日月。なにしろ天井に穴が開いているだけなので、雲も月も作品の一部だ。
最初のうちはあまり変化に気が付かない。しばらく眺めていて、あれっ?と、少し色が変わっていることに気が付く。空の色の変化を連続的に捉えることは難しい。はっと気が付いて、色が変わっているな、と思うのだ。そして空の色はだんだん濃くなっていき、天井に埋め込まれた間接照明の灯りも、静かに静かに変化する
相当の時間が経ち、そろそろ空の色も、これ以上変化しないのではないか、と黒くなったころに、間接照明の劇的なショーがはじまる。劇的なショーと言っても、ミラーボールがきらきらしたりするわけではない。赤い光、暗くなり、緑の光、暗くなり…とゆっくり変移するだけだ。しかし、その変移が、さきほどまでのゆるりとした変化になれた目には劇的だ。そして、照明が暗くなると空の明るさに気が付き、照明が明るくなると、空は漆黒の闇へと変わる。照明の変化の途中で、空と天井の境界が消失する、することもあれば、気が付かないうちに闇と光が入れ替わる。空の色はもう変わっていないのに
思わず声を上げそうになるほどの驚きを体験して、ナイトプログラムは静かに終わるのだった。これはいっぺん、体験したほうがいい。ほんとに素晴らしい…
また、ぞろぞろと並んでチケットセンターへ戻るのだけれど、安藤忠雄の空間も、空が暗くなって、まったく別の空間に生まれ変わっていた。