おさがしの本は/門井慶喜


おさがしの本は

おさがしの本は


ミステリーなのかなぁ、とちょっと戸惑いもありますが、「本を探す」というのも一種の謎解きです。たぶん。

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おさがしの本は/門井慶喜


おさがしの本は

おさがしの本は


ミステリーなのかなぁ、とちょっと戸惑いもありますが、「本を探す」というのも一種の謎解きです。たぶん。




図書館のレファレンスカウンター。皆さまご存知でしょうか? 本を探している時、調べ物がしたい時、頼りになる相談場所。とは云っても、あんまり公共図書館で見かけることはない気がします。大体、貸し出しカウンターなどの一体になっていることが多いんじゃないのかな。

話は、そのほぼ「何でも屋」とも云えるレファレンスカウンター勤務の図書館員が主人公。自分で自負するほどの「役人体質」。慇懃無礼。それは出来ません、と冷たく突っぱねる……と本人は思してている。

何だかんだで依頼人を気にして、あれやこれやしてしまうあたり、かなりの人情派っていえるんじゃないかな。

話は連作短編。毎回依頼人があって一生懸命回答をする。というのが基本。本を一冊も読んだことのなさそうな女子大生のレポートのために本を探し、昔、図書館に俺の本を置いておいた、返してくれ、という男性の無茶な願いを聞き調査をし……。一言に本探し、と云ってもバライティにとんでいます。レファレンスってそんなこともするんだぁ、と素直に感嘆。いや、一部違う気もしなくもないけど。

図書館を舞台にした本は、他にも何冊もありますが、これは「行政寄り」。最初は結構無茶を云う依頼人に真摯に対応しますが、ある日『図書館不要論』を唱える副館長が赴任します。そこからは、バチバチと主人公VS副館長。最初からわけのわからない課題を出されたり、と大変そうです。けど、この副館長は素敵です。ただ単に私がストイックな悪役が好きなだけ、というのもありますが、いい意味でいい性格してます。主人公とやりあう掛け合いも小気味よく楽しいです。

話としては二本の柱。「本探し」と「図書館は必要か?」。

「本探し」の方は、うわぁ、絶対レファレンスやれって云われても無理かも、と思える内容。突拍子な推理もなく、着実に調べては正解に辿り着いていく。根気よく。ひたすらに根気よく。その過程を丁寧に描いているのが好感が持てます。パソコンの検索では辿り着けない、いや、その答えを予想するのは無理だから、というのも多々。なので「どうせこうなるんでしょう」と斜に構える余裕なんてありません。でも、無茶苦茶な読書家の人ならわかるのかもしれません。私に予想がついたのはたった一問だけでした。マニアック(?)な知識も身について、面白い。

「図書館は必要か?」は、基本、VS副館長。現実でも、文化系の予算が「いや、そんな余裕ないから」と削られるのを歯痒い思いをしてみているしかなかったので、必死で図書館の必要性を訴える主人公はカッコよかったです。むしろ、新刊目当ての利用者でごめんなさい、と謝りたくなります。図書館好きだけど、レファレンスなんて利用したことなんて、一度ぐらいしかないも。全部OPACです。

どちらの側面から見ても、面白いです。ちまっと色恋要素が入ったりと、まぁ、かわいいかな。登場人物たちも、ステレオタイプにならず、派手さはなくきれいに書き分けられています。

ただ「二本の柱」のせいで変に揺らいでいるのが気になりました。

私がきれいにまとまっている話が好き、というのもありますが「えー、そっちに行くのぉ。利用者とのふれあいはー?」とちょっと不満もたまりました。だから、結末にもちょっと不満。なんだ、続編があるのか。キャラが立っている分だけ、できそうなあたりが怖いです。

語り口はちょっと硬め。専門的話になると、ちょっと流れが滞ります。

 WILL/本多孝好


WILL

WILL


本多孝好、なんかあったのかなぁ…。とふと空を見上げて問いたくなります。『正義のミカタ』あたりから分かっていましたが、作風変わったなぁ、というのが素直な印象。この話の前作になる『MOMENT』とか初期作の『Missing』は、もっと淡々としてニヒルで、だからすこし切ない話でした。それより人情味が増してきました。さて『MOMENT』から7年後……。

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WILL/本多孝好


WILL

WILL


本多孝好、なんかあったのかなぁ…。とふと空を見上げて問いたくなります。『正義のミカタ』あたりから分かっていましたが、作風変わったなぁ、というのが素直な印象。この話の前作になる『MOMENT』とか初期作の『Missing』は、もっと淡々としてニヒルで、だからすこし切ない話でした。それより人情味が増してきました。さて『MOMENT』から7年後……。


前作では主人公『神田』を支えていた『森野』が今回の主人公。高校生の頃に両親を亡くし、葬儀屋を継いだ。細々と古株の『竹井』と新人の『桑田』と共に、寂れた商店街で店を経営している。

神田はなぜかアメリカに。たまに森野の電話してきては、淡々と会話をします。

話は連作短編形式。主に葬儀にまつわる不可思議な謎が浮かび上がり、森野が持ち前の責任感でそれの解決に乗り出します。

現れた故人の幽霊。葬儀をやりなおしてほしい、と云う仏様の愛人。生まれ変わりを称する少年……。たまに神田が相談に乗りつつ、森野のモヤモヤを引きずりつつ、話は進行していきます。

いいな、と思ったのは、森野は別に真実を追い求めていないこと。終わらせることだけが目的です。これ以上話が進展しないように。一番のお気に入りは、生まれ変わりの話。優しさに溢れてていいですよ。森野が思い込んだ挙句に、強引な手段に出るあたりが、アクティブで素敵です。

そうやって細い糸を幾重に編み上げていくように、最後にはひとつの物語が完結しますて。最初にはじまて、最後に終わる。かといって、すべての出来事が繋がっているわけではないので、神経を張り詰めて読む必要はありません。同じテンポで紡がれているので、疲れることもありません。んー、テンポがいい。ゆっくりゆったり。けれど、着実に進んでいく。結構危うい人々が登場するのですが、それを細かい網で救い上げたり、あるいは突き放したり、そしてまた冗談めかして拾ったり。そのあたりのバランス感覚のよさは最高級かと。個人的に、一番好きな人は『愛人』。後味はほろ苦さを僅かに残しながら、爽やかです。青春的な爽やかと間逆の、静かな、雪のような爽やかさ。その内もう一回読み直そうかなー、と思えるバランスのとれた一冊でした。

後、前作の関連なのですが、友達が本多孝好が好きで、読む前に感想を聞いたところ『神田君がかっこよくなってたっ』とすごい笑顔で報告してくれました。読んで納得。正直、何度か頭を抱えて「本当にお前はあの神田か?」と自問しました。そうか、七年ってすごいな。いや、前作から視点が移っているので、そもそもこういう奴だったのか。ちょっと不明ですが『MOMENT』読んで確認したくなりました。

友達の云っていた「かっこいい」の意味は、よくわかりました。……結構彼は恥ずかしい性格です。

『MOMENT』ではかっこいいのは森野の方だったので、正直しばらくは違和感がありました。森野って、こんなにも中はぐちゃぐちゃしてて、優柔不断で、弱いところがあったんだぁ、と。

よく、前編、続編がある話だと、こっちを先に読んだほうがいい、という押し付けをしたくなるのですが、今回ばかりは、本当にどちらでも。どっちを先に読んでも、七年の時を過ごした登場人物たちの変わり様は新鮮に感じて、慣れるのに時間がかかるでしょうから。

相変わらずシュール間近の小気味いいセリフ使いと、設定には楽しい思いをさせてもらいました。

『女は子宮でものを考えるというが、男も時には膀胱でものを考える(うろ覚え)』には笑えました。ものすっごく真面目な文体で何いってるのだか。持続する緊張感はないですが、逆にそれがいいです。

 禁断のパンダ/拓未司


禁断のパンダ

禁断のパンダ


久しぶりすぎて、自分で驚きました。ほぼ一年ぶりです。
どうしても感想が書きたくなったので。
※ 直接的なネタバレはありませんが、勘のいい人だとわかってしまう可能性があります。

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禁断のパンダ/拓未司


禁断のパンダ

禁断のパンダ


久しぶりすぎて、自分で驚きました。ほぼ一年ぶりです。

どうしても感想が書きたくなったので。

※ 直接的なネタバレはありませんが、勘のいい人だとわかってしまう可能性があります。



「天才料理人」×「究極の美食」。さて、材料は?

この話を読んでから、片っ端から人に聞いています。一番和んだ答えは「卵とお米(炒飯)」でした。

さて、物語は、新進気鋭のフレンチ料理人が、妻と一緒に友人の結婚式に招待されるところからはじまります。

おそらく、目玉のひとつであろう料理の描写は「あぁ、おいしそう」というよりも「すごそー」です。

専門用語が多く、特別な感じが出てて面白いですが、実際的な味の想像は難しいです(フレンチを食べ慣れていたら別かも)。料理漫画の唐突にはじまる饒舌なセリフと似てました。調理場面はスピード感と緊張感があっていい感じ。

表紙のせいか、題名のせいか、日常推理系のほのぼのかな、と思っていたのですが、見事に期待を裏切られました。うん、ほのぼの系にしては文体が妙に固いな、とは思ったんです。

読みやすいですが、調理場面を離れると少々臨場感が足りません。私がダレて読んだせいもあるでしょうが、少々状況把握がわかりにくい。人も死にますが「あ、死んだんだ」と五行進んで理解するって感じでした。あっさりです。

そして、話の筋なのですが。うん。切なかった。話が切ないんじゃなくて私が切なかった。上の数式が出来上がった時に、話の最後までわかってしまった。自分の読書経験が恨めしい。ミステリーを読んでて何となく先が読めてしまう、ということはありますが、ここまで当たってしまうと、もう……。

素直に驚きたかった。素直にドキドキしたかった。

なので、ミスリードもなく、親切設計です。ちょっと強引な設定かな、と思いますが、描き方がうまいせいか気になりません。あのシェフはいい性格してる。素敵。

大筋であるミステリー部分が切なすぎたので、色眼鏡じゃない評価ができませんが、王道に近い、正しいミステリー。

驚くべきことに続編があるので、読んでみようと思います。この話で、どうやって続けるんだ……。

 狼と香辛料 2/支倉凍砂

狼と香辛料 (2) (電撃文庫)

狼と香辛料 (2) (電撃文庫)


前作を読んだのは一体どのくらい前のことでしょうか。とんとん拍子に巻数を重ね、もう十巻なのですね。アニメを見て「楽しそうだなぁ」と思ったので、再度読むのを開始です。

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