キャノン・オートボーイプリズマデート

 父は元々写真を趣味にしていた筈なのが、いつしか「カメラ」が趣味に替って行った節がある。
 お陰で、というか家には色んなカメラがあったのだが大体にして物が古く、冗談で済む程度の値の物しか買わないし、実際の所結局使わないような物も多かった。
 だから遠足だなんだでカメラが入用となれば「これ持って行けや」となり、周りの皆が「写ルンです」やコンパクトカメラで片手撮りしている中、自分だけ違うオーラの全手動の金属製で、よく撮るタイミングを失っていた記憶がある。

 自分がワーキングホリデーで一年間オーストラリアに行くとなった時に親父がよこしたのがこれだった。

 こういうプラスチック性のが一般化してきてある程度経ち、ズームも無く大きめで、一般受けする特徴もないこういうカメラが中古市場でだぶついてきたのだろう、安く手に入れて来た筈なのだが、親父の心をつかんだのであろう機能がこれだ。

 ウエストレベルのファインダー。カメラの裏からのみならず上からファインダーが覗ける。記念撮影の為にテーブルの上なんかに置いて使い易いように、という今でいうバリアングル液晶のはしりみたいなものだ。
 赤外線リモコンもセットされていて、自撮りに特化したカメラだが、一人で旅に出る息子を想って買ってくれるような性格の人ではなかった事もあり、自分は貰っておきながら後で相当に文句を垂れた。

 36枚撮りフィルムを入れて使っていると、8枚とか、10枚とか撮った所で勝手に巻き戻しを始めてしまう。まだ20枚以上撮れる筈なのにそこで一本撮り終わり。当然フィルム代も現像料も、現像するまでの収納場所も無駄に使う事になる。
 これには本当にムカついた。
 後にどうやら原因は電池室に砂漠の砂が入り込んで{バイクで砂漠を走っていた。}接触不良を起こしていた事にあったのが分かるのだが、しかし「通電が途切れたらフィルム巻き戻し」というのは何とも迷惑な仕様だ。 
 35mmの単焦点というのもただただ広大な風景の中では何とも使いづらかった。 
 結局、親父のおさがりに期待するからいかんのだ、と帰国後自分でカメラを買い→{初めて買ったカメラ - ざるの洗い方}←{結局焦点距離の事を理解していなかったのでまた35mmからのズームを買っている。}やっと自分は広角が欲しいのだと言う事が解り、一眼レフ用の広角レンズを買うに至る。一眼レフのボディーはこれまた親父がどっかで安く買ってきたニコンFE。
 一度ニコンのサービスに点検に出したらマウントが歪んでいることが解りこれまた親父に文句を言った。
 

 親父にはこんな風にして俺に色々くれたのに、なんだか素直に感謝されづらい、損ばかりしてきた人だよなぁと、今になってしみじみ思う。
 まだ使えるかもしれないが、フィルムの時代は終わってしまった。このカメラとも、さようならだ。