心臓を貫かれて 上 (文春文庫)
マイケル・ギルモア『心臓を貫かれて』
 上巻では、USAの表に出てこない側面、特にユタ州やモルモンなどの社会的背景が興味深い。下巻は、作者の深部にどんどん入り込んでいく。
 心臓を貫かれたのは、ゲイリー・ギルモアだけではなかった。作者本人もこの「死」「欠落」を抱えていきていく。それは重い。社会的事件になったことで、他者との共有を余儀なくされていく重荷。個人の中で沈殿し一つのストーリーとしての昇華さえも難しい。1996年から10年。その後、マイケル・ギルモアはどうしているのだろう。この作品を書いた後というものが、想像できない。