夏の読書感想文「エコノミック・ヒットマン」

取引先のお姉様から郵送されてきたので、律儀に読んで感想を送った。せっかく書いたので夏休みの感想文提出気分で。

エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ」(ジョン・パーキンス著、東洋経済新報社、2007年12月)

とくに宗教、人類の欲(強欲)、資本主義について考えさせられました。
「大多数の人々の生活を良くしたいという願いからではなく、強欲に動かされているのだ」と認識した筆者の強い問題意識から本書は呈されていると理解しました。
その主張は、「世界の資源を強欲に奪い合い、奴隷制度を促進しているシステムを生み出している経済優先社会に、自分がどれほど搾取されているのかを多くの人が知れば、誰もがそんな社会を容認しなくなると私は確信している。歴史上、帝国は互いにより多くの支配権を争って多くのの文化を破壊し、自らも滅びの道をたどった。私たちが問題意識を持ち、現状を変化させるのに少しでも役に立てばと願った。過去の誤りをきちんと理解してこそ、未来を築くことが可能になる。」に集約されるでありましょう。

筆者は世界各地のさまざまな人々との出会いで、「帝国」とは異なる「生き方」に触れます。その際たるものは、第22章のコロンビアでの気づきであると思われます。そこでは「共和国は世界に希望を提供した。その基礎となったのはモラルと哲学であり、物質主義ではなかった。すべての人の平等と正義の概念が根底にあった。だが、それはまた実際的なものとなりうるし、理想国家の夢ばかりでなく、生きて、呼吸する、度量の広い存在だった。両腕を広げて虐げられた人々を守ることができた。」と述べられています。

しかしながら、第29章「地球上のどの国も、グローバル化の強烈な磁力に抗うことはできない。」と引用するように、執筆時はコロンビア(当時)とは対極にある資本主義に修整の動きが見られなかったことにもどかしさを感じていたのかもしれません。
私は、資本主義は完璧ではないが、これまで開発された経済システムでは最もリーズナブルなシステムであると考えます。それは、奇しくも筆者が第22章で「共和国を脅かす組織は、逆に世界を根本的に変化させるために利用しうる。」と指摘するように、資本主義のデメリットよりも利用することによる恩恵が上回っていると考えるからです。

ただ、先に「完璧ではない」と書いたとおり、資本主義に修整が必要であることは論を待ちません。昨今、筆者の希望通り、資本主義をより良い方向に修整していこうという動きは活発です。その良作のひとつは、マーケティングの大家 フィリップ・コトラー著「資本主義に希望はある―――私たちが直視すべき14の課題」(ダイヤモンド社、2015年10月)でしょう。コトラーは「世界中の人々が、物質面でも精神面でもより満ち足りた暮らしを送れるように。資本主義の有効性をいっそう高めることで人々の生活を改善したい。」と書いています。

私は、このように資本主義が修整されることを好ましく感じるとともに、「資本主義は社会をより良くする方向へ利用しうる」と信じています。行き過ぎた資本主義は必ず軌道修整されると楽観視しています。(就業時間の1%、製品の1%、株式の1%を社会貢献活動に向けようというセールスフォース社は好例。)

(世界で起きる現象を理解しようとするうえで「宗教」は非常に大事な要因と理解しているものの、あまりに勉強不足なため、ここで述べることは控えます。)


リタ・マグレイス(2014)「競争優位の終焉 -市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける-」

同僚から「感想を聞かせてくれ」と言われたので、”借りて”まじめに読んで感想を書きました。競争優位の終焉 市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける

冒頭と第1章にて、競争優位は一時的なものでしかない、競争優位が持続しない、あるいはかつてよりはるかに短期間しか持続しないなら、優位性の再構成・再構築が必要、と筆者は主張する。

しかしながら、「競争優位は一時的なものでしかない」というのはすでに常識で、技術の変化、顧客心理の変化などにより環境変化は急激で、むしろ「持続的な競争優位」を考えている企業のほうが少ないように思われる。また、優位性から優位性へ移行していくイメージを掲げているが、現在の企業の事業戦略においては、「いかに新たな競争のルールをつくりだすか」という、地球上で新たな領土を探す競争から、宇宙空間に新たな惑星を創出する競争になっており、「競争優位の終焉」は概念としていささか古いと言って良い。

本書の結論は、「成長企業は途方もない内部の安定性を保つ一方で、途方もない対外的な俊敏性を発揮する方法を見出して実行している」という発見であり、「競争優位の終焉」というタイトルは、著者の発見と主張をタイトルとして正しく表現できていないように思える。「安定性と俊敏性のパラドクスマネジメント」とでもした方が、著者の主張がすんなり理解できる。


安定性と俊敏性の源泉とその方法が第2章以降に述べられる。ここが筆者の発見であり、主張である。多くが納得できるものであり、企業は規模の大小を問わず、自社内に取り込むべきであろう。

安定性の源泉では特に、これまで日本企業特有の強みと思われていた「たゆまぬ研修と人材開発」を強調している点が興味深い。従業員が優位性から優位性へ移行できる能力を身につけさせるための投資は変革に対する障害を取り除くとしている。

俊敏性の5つの源泉は変化をつくりだすことが苦手といわれる日本企業には大いに参考になると考えられる。第一は、柔軟かつ継続的に資源を再配分する傾向であり、新規市場に参入すべく業界の進歩を受け入れ、変化を歓迎することであるとする。第二は、質の高いデータ・システムと徹底した透明性に支えられた、資源の評価と配分。第三は四半期ごとの戦略の調整と資源配分の変更で事業活動のペースを上げ、変化に柔軟に適応する体制の構築である。第四は、イノベーションを継続的な主要業務としてとらえ、全社員の職務の一環とすることである。第五は新たなビジネスチャンスを探るオプション思考のパターンを持っていることである、という。

これらの5つの源泉に加えて、顧客との距離を近くする仕組み、顧客の声が組織全体に届く仕組み、事業の成否を組織全体が知覚できる仕組みを取り入れることが重要であると考える。顧客に接している人だけが市場をみられるという状況を防ぎ、失敗の痛みも成功の喜びもメンバー全員で共有できる組織デザインが必要である。

これら俊敏性の6つの要件を満たした成功モデルが日本にある。現在、最先端の経営モデルと考えられている、京セラのアメーバ方式である。全員がハンズオンの事業運営を維持するために組織を割っていく仕組みである。アメーバ方式の俊敏性は研究する価値がある。


第4章では資源配分を見直して効率性を高める考え方のひとつとして「倹約」が指摘される。「倹約」「コスト削減」の真髄は目に見える経費を少なくすることではなく、「仕事のやり方を変えること」である。定期的に「仕事のやり方を変える」ために「倹約令」を出すことは効果があるだろう。


第5章ではイノベーションに習熟する6つのステップが示される。概念としては理解しておいたほうが良かろう。


最後に、本書では「明確にわかる」と書いてあるが、早期に気づくのは相当難しいと考えるのが、第3章に示される「衰退の早期警報を逃さない」との指摘である。筆者は「アンテナを張りめぐらしていれば、たいてい多くの有用な情報が見つかる」として、自社の差別化要因が思いつかない、競合の製品力と同等になる、売上げ成長率の小幅下落などが起きることが予兆であるとしているが、これでは遅すぎる。これらの警報が出ている頃にはすでに衰退が始まっているからだ。また、これでは戦略の再構築をしている間に倒産が訪れる。もっと早い段階の変化を察知し、クリティカルな変化であると認識し、それを戦略に反映させる俊敏性が必要であると考える。


たとえば、一時期は隆盛を極めたシャープの液晶事業の衰退の予兆はどこにあったのか考えたい。シャープは売上高約8000億円の頃、89年から91年の3年間で1000億円以上の設備投資を行い、その後の設備投資も合計9450億円となり、液晶パネルの売上高が50%を超え、2008年には純利益が1080億円と過去最高益となった。まさに筆者の指摘する、関西三流家電メーカーから液晶パネルへと優位性を移行した。しかしながら、2010年には約1500億円の営業損失となり、財務状態の悪化も加わり、倒産寸前に追い込まれる。製品力や売上げなど製品に直結する警報は成長過程には出てこない。筆者の指摘するポイントは衰退が始まってからの警報であり、遅すぎる。

私は、シャープの液晶事業の早期警報は2005年のYoutubeの登場であると考える。Youtubeの登場を「動画コンテンツ流通の破壊」、「情報表示ツール概念の破壊」として捉え、GoogleYoutubeを買収した2006年のタイミングで撤退の意思決定をすべきであったと考える。(2006年のシャープは絶頂期に向かうところ)。
著者の主張とは異なるが、早期警報は自社の周りには現れない、と強調したい。本書でも記述されている、とんでもない場所からまったく新しいカテゴリーが現れたときに、それが自社にとって脅威であると感じられる恐怖心を持ち合わせることができるかという点(The Butterfly Effect)が、安定性と俊敏性の大前提であると指摘しておきたい。



マネジャーの役割

新卒で入った会社で、上司に「人事は好き嫌いだよ」と言われて以来、チームやプロジェクトのリーダーになることは一生無いなと思って15年。
望む望まないに関わらず、実際の職位に関わらず、一応年齢高めの人がマネジャーとしての能力を持ちあわせていないと、「おっさん使えねーな」って言われちゃう被害妄想に取りつかれています。


一応、組織デザインは学んできましたが、人生で初めて人事に関わる本を読もうと丸善へ。よほど「もしドラ」を買おうかと思いましたが、ふと目に入ったので購入。部長の資格 アセスメントから見たマネジメント能力の正体 (講談社現代新書)

この本で書いてあったことと、私の経験と考えをいれて、まとめてみた。マネジャーになるときの心構えにしようと思っとります。


プレーヤー(マネジされる側)の目標(働く意味)

組織の成員は次の3点を目指して業務をおこなっている。

  • 所定の仕事を適切かつ効果的に推進し、成果をあげること
  • 新しいビジネス・モデルを具現化すること
  • 仕事を通じて能力を開発し、発展させること


マネジャーの役割

上記を適切にマネジし、組織の力を引き上げてパフォーマンスを最大限に発揮するために、マネジャーは、成果達成と改革、人材育成の役割を果たす必要があると考えられる。

  • 成果達成役割

部署に課せられたミッションを遂行(実行責任)し、成果目標を達成(成果責任)すること。

そのためには、自らの役割を考え、目的達成のために取り組むべき課題を見つけ、さらにその効果的な達成方法を明らかにすることが必要である。事実関係や実態把握を正しくおこない、的確に分析し、問題とその原因を構造的に把握し、仮説をつくり、効果的な解決策をつくる。さらに、対策を計画として立案し、実行して成果につなげる必要がある。

この一連の役割には、実態把握力、環境認識力、問題分析力、判断力、決断力、構想力、ビジョン構築力、戦略設計力、計画力、組織力、権限委譲、プロセス管理力などの能力が求められる。

  • 改革役割

現場に近い立場とマネジメントの立場の両方の視点から、環境変化に応じて改革のイニシアチブをとること。
そのためには、現状を超えた斬新な将来像を描くことや、それを実現する戦略を構築する能力が要求される。そこでは、過去、現在を構造的に把握する分析力、将来に対する洞察力(論理的予測力)および、自分は何を大事にし、現状をどう変えて、チームをどう動かし、どんな理想を実現したいのかという主観的な思い、これらを統合する構想力が欠かせない。
改革を構想して実行するには、洞察力(論理的予測力)、独自性、創造力、アイディア性、革新力、計画力、組織力経営資源配賦力、業務管理力などが求められる。

  • 人材育成役割

今日の仕事の生産性を高め、明日の組織を支える人材を確保すること。

そのためには、短期/長期の視点で、どんな仕事を誰に任せるかを適切に割り振らなければならない。チームで取り組む仕事には役割分担や共同作業が欠かせず、いかに効果的にマネジメントしていくか、それを次の仕事の付加価値創造のエネルギー源にしていくかをデザインする必要がある。社員の個々の特性を生かして、個人目標を仕事の目標としてひとつにまとめなければならない。

この人材育成役割には、対人観察力、コミュニケーション力、チームワーク、人材育成力、コーチング力、感受性、交渉力、説得力、文書コミュニケーション力などの能力が求められる。


優しいご意見募集中です。



関連エントリー


「正」と「正」の対立 - 戦略のみそ zentaku blog
組織を存続させるための3要件 - 戦略のみそ zentaku blog

モーターショー2013でトヨタに釘づけ

東京駅から無料送迎バスに揺られて行ってきた。バス待ちの列から既に昂揚感が醸し出されてた。


会場に入ってもうワクワクが止まらなかった。キラキラした車たちと、車好きな人たち。

「こんなマニアックなパーツを!」というところを接写しまくる人たち。
みんな少年やな!
私はドアアウターハンドルの力の要らなさ具合フェチを発揮してきた。


さて、へなちょこビジネスマンの視線になると、トヨタだけが突き抜けていただけのモーターショーだったなと振り返る。


今回のショーのテーマが「走る楽しさ」とか「安全性」をテーマにしていたので、全メーカーが素直にそのテーマに沿ったPRをしていたが、そのなかでトヨタだけが突き抜けて「ココロ」とか「LOVE」を提示していた。「明日」ではなく「未来」を感じさせてくれた唯一のメーカーだった。


ココロを感じて車が動く、車がココロを感じる、そういう世界をトヨタは描けていると思った。
ドラえもんの変なCMをしているのは、ホントにドラえもんになろうとしている社内向けメッセージでもあったのだと納得した。


いままで、えげつないトヨタトヨタだと思ってきたけど、想像力・創造力に感心させられた。


変化の契機は豊田章男社長だろうか。
「車で走る」という核心に手が触れられる人が社長になったことに意味があるのだろう。

そう考えると、「空を飛ぶ」ことの核心を握っていたパイロットを社長に選んだ慧眼はさすがというべきか。



で、この話を同僚したところ、「結局どこの車買うの?」と聞かれ、「国産ではホンダ」と答えたのでした。

経営重心

エコノミスト 2013年 2/12号 [雑誌]に掲載された、電機業界アナリスト若林氏の「経営重心」モデルが興味深かったです。


ソニーパナソニック、シャープという弱電の不振と、日立、東芝という重電を対比して、業績不振の背景と処方箋を考察するレポートに記述されています。


「経営重心」とは若林氏が提唱しているモデルで、各事業に固有な「事業サイクル」と「市場規模」をそれぞれの企業の事業ごとの売上げによって加重平均して算出した値だそうです。各企業の事業領域を定量的に把握できる、としています。


重電は、経営重心を事業サイクルが長く、市場規模(個数)がより少ない分野、すなわち、原発、プラント、基地局などのインフラにシフトさせたことが奏功したと指摘しております。


レポートの内容は図書館で読んでいただくとして、「経営重心」というモデルを考案されたことがすばらしいと思いました。PPMやその他のよくある指標を使って分析することに狎れて、オリジナルの分析ツールを考案することを怠けていたことを反省しました。

「斬」綱淵謙錠, 文春文庫, 2011年(新装)

環境が極めて流動的で、自らの存在の希薄さに幻滅しそうな恐怖に苛まれる弱気を必死に諌める日々を過ごしている人が多いと感じる。


「斬(ざん)」を読んで欲しいと思う。


著者はあとがきで「わたくしはなにかにじっと必死に耐えている人々に読んでいただきたいのである。」と書いている。 さらに言う。「国家に傷つき、社会に傷つき、隣人に傷つき、友人に傷つき、父母に、子供に、恋人に傷つき、それでもなおなにかを信じてじっと耐え忍んでいる方々である。その耐え忍びのために心の臓からしたたり落ちる一筋の血の色が、この作品の血のいろどりと重なり合って同じ色であることがわかっていただけたなら、わたくしのこの作品を書いた意図は十分に報われたといえるであろう。」


巻末で西尾幹二は「この小説は封建体制から近代社会への移行期を、いいかえれば人間が血や行為に直接的であった時代から、全てが間接化して行く文明社会への移行期を、特異な題材と視点とをもって描き出した力作である」と解説している。


「間接化」は拍車がかかる一方であり、毎日が「社会の移行期」とも言える平成24年、全ての人が「耐えている」ように私は思える。


著書が「じっと必死に耐えている人々に読んでいただきたい」と言っているものの、耐えるだけではない生き方を主人公に語らせている。「江戸が東京に変り、御一新の風が強く吹いたとき、新しい時代の波に乗り移るために、すべての人間が必死になった。今までの職業を新時代にどのように適応させるか、ということであった。」


「必死に耐える」だけではない「必死に乗り移る」方向性が浮き彫りにされる。「耐える」ことに「必死に」なり、「乗り移る」ことに「必死に」なり、その分別をすることで、江戸から明治へ移行し、国力を高めてきたことがよくわかる。


移行期に「必死に」なれば、これからも日本は世界に誇れる国と人でいられるのではないか。


そうなれば、「死にざまの立派であった人間だけが傑いのだ」という主人公の人間評価法に適う生き方ができるはずだ。自分の納得のいく死にざまのために今を「必死に」生きてやろうじゃないか。



斬 (文春文庫)
斬 (文春文庫)
posted with amazlet at 12.09.26
綱淵 謙錠
文藝春秋 (2011-12-06)
売り上げランキング: 198476

「海賊とよばれた男」を読んだ

夜を徹して読みました。涙が止まりませんでした。
私のいまの生活があるのは出光佐三の存在があってこそではないかとさえ。


ここまで下から慕われて、尊敬されて、命を預け、預けられて惜しくない経営者がいただろうか。本田宗一郎でも敵わないのではないか。


何度でも書こう。
出光興産の創業者、出光佐三が掲げた事業経営の目的。
「人間が一致団結して、真に働く姿を顕現し、国家・社会に示唆を与える」


佐三さんは、出光の店員だけでなく、日本国民、世界の人々を家族と思っていたことがわかりました。


海賊とよばれた男 上
海賊とよばれた男 上
posted with amazlet at 12.08.10
百田 尚樹
講談社
売り上げランキング: 60


海賊とよばれた男 下
海賊とよばれた男 下
posted with amazlet at 12.08.10
百田 尚樹
講談社
売り上げランキング: 93