『スノーボール・アース』ガブリエル・ウォーカー

 スノーボール・アース(全球凍結)とは、極端な寒冷化により地球全体が氷に覆われてしまった状態を言う。いわゆる「氷河期」として一般的に知られるのは、マンモスなどがいた新生代のものだが、この時でも凍りついたのは緯度の高い地方だけであり、赤道付近は温暖なままだった。対して先カンブリア代に起こったとされる全球凍結では、赤道直下に至るまで地表のことごとくが氷に覆われてしまい、ほとんどの生物は絶滅してしまったと考えられる。しかし、この過酷な環境をくぐりぬくことの出来た生物たちは、氷が溶けた後の広大な生態的空白へと急速な適応放散を行い、いわゆるカンブリア紀爆発を引き起こすことになるのである。
 本書では、提唱者であるポール・ホフマン教授を中心に、スノーボール・アース仮説の誕生と、その後の論戦を生き生きと描いている。先カンブリア代の地層の炭素同位対比が、地球から生物がほとんど姿を消してしまったことを示す。その上に被さる鉄鉱と炭酸塩岩の層もまた、同時期に海水から酸素が消失したことを、すなわち光合成生物がほぼ全滅してしまったという有力な証拠だ。世界中の同時期の地層から見つかる氷河堆積物。その磁気は、氷河が赤道直下でも作られていたことを示していた……本書は基本的にはホフマン教授の人物像に焦点を当てたドキュメンタリーなのだが、どのような鉱物から、いかなる推論を経て仮説が生まれていったのか、その道筋を丁寧に描写してあるので、部外者にも地質学の方法論が良くわかって面白い。
 もちろん「主人公」であるホフマン博士の強烈な個性も、かなり印象的。一時はマラソンでオリンピックを目指していたと言うほどの行動派。自己中心的で傲慢、なのに人を惹きつける「何か」を持っている男。仮説の過激さ以上に、教授の性格が他の科学者たちの反感を生み、激しい論戦が繰り広げられていく様が興味深い。もっとも、このような性格の持ち主だからこそ、数多の反対を押し切って、革命的な仮説を完成させることが出来たのだろうが。

スノーボール・アース

スノーボール・アース

はてな年間100冊読書クラブ 30/100)