『20世紀SF1 1940年代 星ねずみ』中村融、山岸真編

 世紀の変わり目の頃に刊行された年代別アンソロジー、「20世紀SF」シリーズ。当時、買うだけ買って解説と後書きだけ読んだまま、『1990年代』以外はそのまま積んでしまったものだが、改めてきちんと読んでみることにした。
 で、『1940年代』編だが、さすがに古色蒼然としているだろうな……と思って読み始めたら、いやいやどうして。アシモフ「AL76号失踪す」あたりはさすがに古さを感じたが、他はほとんど時代を意識しないで楽しむ事ができた。ウィリアム・テン「生きている家」冒頭の、生き生きとした会話(一読しただけでは、何を喋っているのか理解できないところが、また現実的)の楽しさが示しているように、さすがにこれだけの時間を経て残っているものは、時代に左右されない洗練を身に付けてるものだなあ、と思った次第。
 既読作はブラッドベリ「万華鏡」ハインライン「鎮魂歌」スタージョン「昨日は月曜日だった」。「万華鏡」は、「刺青の男」所収の訳のほうが良かったように思うが、大分昔に読んだものだし、初読のインパクトも割り引いて考えると、どうなんだろという気はする。
 個人的なベストは、C.L.ムーアの「美女ありき」。60年も昔に、ポストヒューマンの高揚感と人間性の喪失への不安を描ききっている先見性、それにも増して官能的なまでに流麗な文章が素晴らしい。ブラウン「星ねずみ」も、ちょっぴり寂しく、洒落たエンディングが愛らしくて好み。

はてな年間100冊読書クラブ 92冊目)