あなたのキャリアの将来を冷静に予測しましょう!

はたらけど
はたらけどなほわが生活楽にならざり
ぢつと手を見る

ご存知、宮沢賢治石川啄木の詩です。


いい詩ではありますが、内容が内容だけになんだか気分が鬱々としてきますね・・・



私は基本的に明るく前向きな話が好きです。でも時々は厳しい現実をご紹介して警鐘を鳴らしたいと思っています。なぜなら先日も『あなたは「心配症」ですか?』で書いたように、「健全なる危機感」を持つことがキャリアにおける成功のひとつの条件だからです。


「現状のままでは将来うまくいかなくなるかもしれない」という気持ちを忘れないこと。そして、その不安が的中しないように、今自分は何をやるべきかを考えて行動を起こすこと。これは、将来の変化への準備を早めに始めるということです。そうすれば、いざその時がやって来た時に、慌てることなく落ち着いて対処できるというわけです。



話を戻しましょう。


冒頭の詩は、現代で言えば「ワーキングプア」と呼ばれる人々の暮らしを表現したものだと言えますね。毎日休みなくフルタイムで働いても十分な収入が得られず、かつかつの生活しかできない人が世界中で増えています。


これには、まず労働の「非正規化」が進んだことが背景にあります。すなわち、以前は正社員がやっていた仕事が、今はどんどん派遣社員、パート・アルバイトなど正社員よりも低賃金の人たちに移っているということです。企業側から見れば、非正規社員に切り替えたことによって労働コストを削減することができます。しかし、働く側から見れば収入の大幅減を意味するわけです。最近は原油・原材料高が続き、物価が上昇傾向にありますから生活がますます厳しくなっているようです。



さて、以上の話を読んであなたはどう思いましたか。


「自分は関係ない」「大丈夫だ」「なんとかなるだろう」と根拠なく感じるだけだとしたら、ちょっとまずいですよ。また、「今の会社(仕事)は規制で守られているし」だとか、「専門性が必要な仕事だから、そう簡単に首にはできないはずだよ」などと楽観的な見方をしてませんか。


確かに今はそうかもしれません。でも、将来、規制が緩和されて競争が激しくなったら?あるいは、画期的な技術が導入されて、専門的な仕事が誰にでもこなせるものになってしまったら?こうした可能性は絶対にないとは言えないはずですよね。



先日、NHKスペシャルで「ワーキングプアIII」が放映されましたが、日本ではまだほとんど起きていないけれども米国では深刻な問題となっていることが取り上げられていました。それは、専門的な職業であるはずのITエンジニアが次々と職を失い、ハンバーガーショップなど、せっかくの専門能力を活かせない仕事に就いて苦しい生活を送らざるを得ないという現状です。


なぜ、時代の最先端の職業のひとつであるはずのITエンジニアがこんな目に合わなければいけないのでしょうか?


IT業界の方ならすぐにおわかりになると思いますが、システム開発の多くが、今やインドや中国で行われているようになったからです。現地では、インド人や中国人のエンジニアが、米国人の数分の1の賃金でプログラミング等の仕事を請けています。このため、米国人エンジニアには仕事が回ってこなくなったというわけです。



日本では、幸い言語の壁があるためにITシステム開発業務はまだあまり海外に流出してはいません。実は、私は以前ネット系のシステム開発会社に契約ベースで1年ほど在籍していたことがあります。その会社は、開発拠点がリトアニアバルト三国の1つですね)にありました。日本とリトアニアのエンジニアたちをつないでいたのは、同社の役員を勤めていたリトアニア人です。彼は日本に長く住んでいて日本語が堪能だったこともあり、言語の壁を乗り越え、うまく両者の橋渡しができていました。でも、そうでもなければ、日本企業が海外でのシステム開発に乗り出すことには難があるのが現状でしょう。


しかし、米国の今は、日本の近未来です。日本のITエンジニアに、今米国で起きているような厳しい事態が起こる可能性は非常に高いと思います。もし、この記事を読んでいる方がITエンジニアだったら、そんな事態がやってきた時でも仕事をキープするためには何が必要かまたそのために今どんな行動を起こすべきかをぜひ今のうちから考えておいてください。


また、あなたがITエンジニアでなかったとしても、将来起こりうる社会環境や技術環境の変化によってあなたのキャリアが大きな修正を迫られたり、得意とする仕事が消えてしまう可能性がないか、冷静に、ただし悲観的にはならないように予測してみましょう


何事につけ、「備えあれば憂いなし」ですよ。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)