竜の王と竜の姫 第二十七話


「配置はここに示したとおりです。アル様、鉄仮面、ブラウン、バルは、隣国へ向かう道の路上で、魔人を待ち受けます。私、メイ、最長老様を含む魔法部隊は、この少し高い丘の上で待機。魔人と魔女の動向を監視します。残りの四部隊。まずは、森に配置された部隊は、魔人に対しての万が一の切り札です。アル様達が不利な状況に陥った場合、弓矢により援護。その後は一時散会し、魔人の気が散ったところで、また再集結して次の機会を伺います。残りの部隊は村の警護に当たること。一つを村の背後に回し万が一の奇襲を警戒、残り二つは入り口付近を死守します…… 以上、何か質問は」
 すっと、ブラウンの手が上がる。ノイが名を呼ぶと、ブラウンは気だるそうに立ち上がった。
「それじゃぁ、まずはじめの質問。俺達を魔人とぶつけるって話になってるみたいだが、どうやってぶつけるつもりだ? そりゃ、たしかに隣国に繋がる道はここしかないが、ここをえっちらおっちら魔人が歩いてくるとは限らねえだろ? 空から来るかも知れねえし、森を抜けてくる事も十二分に考えられる」
 うんうんと、うなずく一同。作戦を立案した俺とノイ、そして婆さんだけが静かに、座っているのみだ。
 無理もないだろう。それに関しては、俺様も色々悩んだ。
「あぁ、それに関しては、賭けだな」
「賭け?」
 そう、賭けだ。相手の狙いが村の壊滅ではなく、俺様の首であるということに、俺様は賭けたのだ。
「フィルから聞いた話によると、魔人の奴はわざわざ隣国の女王と戦ったそうだ。国を手に入れるには、色々なやり方がある。知略により王を自分の配下にする、勝利して従わせる、囚人にする、そして……」
「なるほど、この国を取るために、お前をその魔人は殺しに来ると、そう踏んだわけか」
 俺様はゆっくりとうなづく。少し、辺りがざわついた。
 もちろん確証はない。相手が、前回たまたま女王を殺しただけかも知れない。しかしながら、相手は挑んでくる竜の国の兵を、ことごとく殺戮した魔人でもある。だとしたら、村の前に配置されている軍に、喜び勇んで真っ向から挑んでくるとも考えられる。また、過去の戦い方から奇策を用いてくるとも考えづらい。その事も含めれば、この賭けが吉と出る確率はそう悪くはないはずだ。
「もちろん、賭けが外れた場合も考えてある。ノイ達に見通しの良い丘で待機してもらってるのは、その為だ。万が一にでも、村に火があがろうものなら、転移の魔法で一気に戻れるようにな」
「賭けが当たったら、そのまま援護に回れるようにね。これで、良いかしら、ブラウン?」
 シンと静まり返るあたりを見回して、ブラウンが首を縦に振る。ブラウン以外の奴らも、この様子なら納得してくれただろう。
「それじゃ、二つ目だ。その作戦で行くとして、具体的にどうやって勝つ? 力押しで勝てるような相手じゃまずないだろう?」
「それに関しては、三つの案があるわ……」
 ノイがそういうと、板の中央にノイたちの布陣が書かれた部分が移動する。
「一つ目は私達の魔法による、アル様の巨大化。小高い丘を選んだのもその為よ。まず、メイが光の精霊を呼び出すと同時に、最長老様が月食を起こす。その間に、私が転移の魔法でアル様を丘の上に呼び出し巨大な影を作る。次に影を取り込み巨大化したアル様を私が魔法で飛ばし、メイが重力の削減を行い天空まで放りあげるわ。十分な高さに達したところで、最長老様に月食をといてもらい、太陽の光によりできた影を吸収、さらに巨大化してもらいます」
「あとは、この前の塔の時と同じ要領で、魔人に斬りつけるって寸法だ」
 ノイ達の布陣位置に突如として現れた俺様の顔の絵が、見る見るうちに大きくなっていく。いつしかそれは、丘を覆いつくし、森を覆いつくし…… そして、魔人をも中に取り込んだその時だ。透明な板に映し出された巨大な影は巨大な剣の形となり、悪魔の顔を引き裂いた。
 気づけば、俺様とノイを除き、皆が板に映し出された映像に見入っていた。誰かのふとしたため息と共に、皆一斉に我に返る。
 巨大化した俺様の攻撃の威力は、ブラウンの奴もよく知っているはずだ。塔をも両断した俺様の影の剣が決まりさえすれば、さしもの魔人といえど、無傷ではいられないだろう。ただ、決まりさえすれば、という条件がある。いや、それ以外にも、色々と問題がないわけではない。
「問題は、アル様が巨大化する時間をどうやって作るか。そして、どうやって魔人にアル様の攻撃を命中させるかです。また、夜陰に紛れて攻撃を加えられた場合、この作戦は殆ど使えないといってもいいでしょう……」
「今のところは、命中に関してはノイと婆さんに転移魔法なんかで適時補正してもらう予定だ。時間に関しては、鉄仮面、ブラウン、バル。お前らに頑張ってもらうしかないんだが……」
「お任せくださいアル様。ご期待に答えられるよう、拙者見事にその務め果たしてみせます」
 ガンとよく響く空洞音を立てて自分の胸を叩く鉄仮面。
「…… まぁ、鉄仮面もいる事だし、時間稼ぎ程度なら何とかなるか」
 キザっぽく笑うブラウンに続いて、その横のバルも頷く。任せてくれてといわんばかりに、俺様の方を見る三人。俺様は、何も言わずに、それに答えるように頷いた。まったく、頼もしい奴らだ。
「次は、もしその攻撃が外れた場合…… もしくは、使えなかった場合の策です」
 そう言うと、また板に表示されている地図の位置が変わる。俺様たちの布陣位置を中心に、今度は先ほどよりも広域の地図を表示している。
「まず、アル様を加えた直接戦闘部隊は、上手く敵の魔人を森林に誘いこんで頂きます。森林に入ったら、まずは弓部隊が魔人を撹乱。その隙に、アル様たちは一度森から離脱します」
 森の中に一人孤立する魔人。と、その周辺をなにやら赤いもやみたいな光が包み込む。
「アル様、弓部隊が離脱したのを確認した後、最長老様の主導の下、魔法樹海を作成します。これにより、当たり一体は人の手の及ばぬ土地になりますが、魔人を樹海の中に閉じ込めることができます」
「なるほど…… しかし、閉じ込めただけじゃ、根本的な解決にはならないんじゃないか?」
「ええ。この魔法の効力は大体12時間。夜襲の場合は、その後でアル様の攻撃を行います。もし、アル様の攻撃が通じなかった場合は……」
 そう言ってノイが老婆のほうを見る。それに引っ張られるように、皆の視線が、老婆へと行き着いた。無論それは、俺様とて例外ではない。
 皆の視線を受けた老婆は、一呼吸を置いていつもの調子で笑い始める。
「ワシの魔法頼みというわけじゃの?」
「そういう事になります、最長老様」
「婆さん…… つうか、元大魔王の腹心さん、悪いがその時は期待してるぜ?」
 いっそうを声を高くして笑う老婆。まったく、これはこれで頼もしいというか何と言うか。しかしまぁ、それで会議の席に着いた者の胸に宿った悲壮感の幾らかは、吹き飛ばせただろう。
 笑った方が良い。絶望的な事象を前にして、笑っていられれば、そのまま笑って終わってしまう気になれる。決して楽観ではない…… 気構えの話。無理に深刻ぶってあきらめるよりも、その方が前向きになれる。
 いつしか気づけば、俺様も笑っていた。
「さて、最後の策ですが……」
 ノイの咳払い、俺と老婆が笑いを止めると、ノイはまた手元の棒を振った。
 今度は更に広域の地図が表示される。隣国との国境まで表示された透明な板の上には、俺様たちの顔とは別に、幾つかの竜の顔が増えていた。そう、隣国の国境のあたりに。
「これに関しては、私達だけではやりかねるのですが…… フィル様」
「はい」
 ノイに呼ばれて、フィルが素早く立ち上がる。
「魔人領、魔人粛清軍遊撃部隊所属の私の兄に、先日作戦への協力をお願いしてきました。エーガル様の承認待ちですが、おそらく力を貸してくれるものと思われます」
「分かりました…… 聞いたように、最後の策は隣々国の力を借ります。彼ら魔人粛清軍と我々により、魔人を挟撃します」
「完全に人任せな戦いになるが…… まぁ、魔人粛清軍と言うくらいだ、期待しても良いんだろう?」
「はい。お兄様の率いる、部隊は並みの魔人に遅れをとったりはしません」
 なんとも心強い言葉だ。もっとも、国を預かるものとしては、少し情けないが…… しかし、そんなことも言っていられない。何千人というエルフの命を、何百人という竜の国の民の命を、背中に背負っているのだ。負けるわけにはいかない。
「さて、問題はこの部隊が、いつこちらに向かって来れるのかですが」
「難民の保護とエーガル様の承認が降りしだい、すぐにこちらに軍を派遣するとの事です。ただ、少なくとも三日はかかるだろうと兄は言っていました」
 昨日フィルを使いにやった事を考えると、あと二日待たなければならない。もし、その間に、魔人が攻めてきたならば、その時はこの策は使えなくなる。だが……
「あと、二日か…… 果たして、それまでに間に合うかどうか……」
「その時は、前の二つを試してみればいいさ。それで、助けが来るのを待てばいい…… 必死にあがけば、何とかなると俺様は思うぞ」
 思わず本音が出てしまったという感じの部隊長に、俺様は釘を刺すように言ってやった。弱気になった事を恥じたのか、真っ赤に顔を染めて部隊長が押し黙った。
「おいおい、そんなにへこむなって。まぁ、ようは気の持ちようだ、それ次第でなんとでもなるさ。なぁ、皆」
 途端に、シンと静まり返る円卓。皆が皆、キョトンとした顔でこちらを見ている。
 あれ、何だろう、俺様は何か言ってはいけない事を言ったのだろうか。てっきり、ブラウン辺りから「その通りだな!」とでも返ってくると思っていたのに……
「おい…… なんだよ皆、そんな深刻になって…… 気合が足りないぞ、気合が! そんなんじゃ、勝てるもんも勝てな……」
「気の持ちようで何とかなるなら、会議など最初から必要ないでしょうアル様」
 ノイの言葉に、クスリと笑い始めるメイやブラウンたち。
「う、そりゃまぁそうだが…… って、そういう意味じゃなくてだな……」
 ついには無口なバル、鉄仮面たちもが笑い始めた。ちくしょう、いったい、何だって言うんだ。俺様は至極真っ当に皆を元気付けようとしただけなのに、何でこんなことになるんだ。
「だぁもう! 笑うなっ! とにかく、ここまで魔人に対して打つ手があるんだ、俺達は何があっても負けない、負けるわけにはいかないんだ! だから、諦めるな! 挫けるな! 俺様を信じて、最後まで戦い抜いてくれ! いいな、お前ら!」
 またしても、シンと静まり返る会議室。しかし、今度は先ほどのような、長い沈黙ではない。そして、誰もが皆俺をキョトンとした目で見ていない。
『おう!』
 部屋中に大きな掛け声が響き渡った。ったく、最初からそうやって素直に返事をすればいいのに。
「もう、いきなり話を振られたから、どう答えるか困ったわよ!」
「いや〜、まさか、あそこから話を振られるとは、俺も思わなくてよ、すまねえな、アル」
「アル様! 拙者はその、ちょっと気後れしただけで、最初からその……」
 笑いながら俺様に弁明する鉄仮面達。誰もが皆、俺の事を気遣って声をかけてくれる。
 どうやら、俺様は皆を引っ張るって言うよりも、皆に支えられるタイプの王なのかも知れない。だとすれば、こいつら、やっぱり良い家臣なんだろう。
「掛け声一つとるにしても、タイミングというものがあるのですよ、アル様」
 恐らく、最も的確にそして最も早く俺様のサポートをしてくれたのであろう、口の悪い俺様の秘書もどきと眼が合った。まったく、本当に、良い家臣だよ、お前は。
「ただ、もうちょっと他に言いようがあったんじゃないのか?」
 ニヤリと嫌味にその口元を吊り上げて、肌の白い銀髪のエルフは俺に微笑んだ。

不貞寝したい…… なんてネガティブ!


 上手い文章がまったくもって書けません。
 今日の鉄仮面戦記を書き終えてから読み返して、軽く絶望しました。
 絶望した! 自分の文章力の無さに絶望した! とか言って、首くくる…… まではいかなくても、不貞寝したい気分です。何の解決にもなりませんけど。
 はぁ、俺は一体どうすればいいんだ……
 他にも書きたいものは色々あるというのに…… あぁあぁあぁあぁ……


 どうすれば、面白い文章を、小説を書けるようになれるんだろう、というか慣れるんだろう。orz
 コミュニケーション能力の欠如ですかね。それとも、人間として根本的に何かが欠けているのか……
 もう、ため息しか出てきません。


 とまぁ、こんな文章を書いてる時点で駄目なんですけどね。