空中キャンプ

2006-12-07

わたしはラップでもやってるのか

仕事がトラブル続きである。年末の繁忙期にあって、あらゆるものごとがきわめてタイトに進行している中、わたしはなぜか苦情処理に追われている。叱られて。あやまって。また叱られて。もう一度あやまって。そんなことを繰りかえしていると、しだいに「叱られ」の体勢がすっかりととのってしまい、もうどんなタイミングで叱られても準備万端、といった、まるで誇りも威厳もない、ただの叱られ係ができあがることになる。それが現在のわたしである。

また、この苦情の原因が、わたし自身の失敗であれば、まだ納得がいくのだが、きっかけをつくったのはカナダの同僚で、わたしは、会ったこともないカナダ人のおっさんの失敗をひたすらフォローしなければいけないという不条理にさらされている。そんな遠い国で起こったミスを、この極東の島国でフォローするわたし。おい、日本人はなあ、米を炊いて食うんだぞ。いやあの、それが伝えたかっただけなんだけどもね。日々、問題の進行状況をカナダにイーメールするのだが、このおっさんが、ずいぶんのんきな返事をしてきやがるのが、さらにむなしさを増す。「どうなのォ、そっちは」とでもいいたげな、「まあ、それほど深刻な事態でもないわけだし、キミもちょっと騒ぎすぎなんじゃない?」ていどのおつまみ感覚で、じつに気軽にリプライしてくるわけである。くはっ、てめえ。いっそのこと電話でびしっといってやろうかとおもうのだが、時差があってつながらないとくる。あれだね、海の向こうなんだね、カナダ。あまりにくやしいので、今日、イーメールでいってやったの。この件で会社の評判もわるくなるし、我々はさらにきびしい状況に立たされるのだよ。わかってんのかい、と。

"This can ruin our reputation and will put us in a difficult situation" と書き、これでよしと送信ボタンを押して数分後、気がついた。あ、韻を踏んじゃった。わたしはラップでもやっているのか。なんだかすごく恥ずかしかった。「会社のレピュテイション(評判)は落ちるし、きびしいシチュエーション(状況)になってくるし…」。真剣に怒ろうとしたのに、意図せずしてだじゃれをいってしまった人のように、わたしは恥ずかしい心持ちになった。あっ、しまったあ。頭の中に、右手をひらひら動かしながら、左手に持ったマイクに向かって、一心不乱に歌詞をがなり立てるラッパーのイメージが浮かんだ。じつに照れくさい。

ヴェンダースの「アメリカ,家族のいる風景」という映画の主人公はハワードという名前なのだが、彼が劇中、ある女性から、「ハワード、あなたは憶病者よ!」となじられる場面がある。まさしく、女性の怒りが頂点に達した瞬間である。しかし、"Haward, you are coward !"(ハワードはカワード=憶病者)と叫んだ女性は、それがきれいに韻を踏んでしまっていることに気がつき、とたんに恥ずかしくなって、おもわず "It rhymes !"(ハワードだけに!)とつけくわえてしまう。いたたまれなかった。だじゃれの暴発。怒っているときは気をつけたい。怒りながら韻を踏んでしまうようなラッパー気取り、何ネムだよお前、といった事態だけは、ぜひ避けなければならないからだ。