空中キャンプ

2007-01-29

"Baby Don't Cry" /安室奈美恵

新宿のHMVで、安室奈美恵のあたらしいシングルを試聴していたら、これがすごくいい曲で、ついうっかり店内で泣きそうになってしまった。「ベイビー・ドント・クライ」。もちろん、どうにかこらえましたけど…。さすがにわたしもいいおっさんなので、人前でアムロちゃんのCDを聴いて泣くわけにはいかないのです。まさにオッサン・ドント・クライである。この曲がなんかねえ、あまずっぱいんですよ。もう、すっかりまいってしまった。歌詞に描かれた風景がくっきりと浮かんでくるようである。

曲はちいさな風景のスケッチからはじまっている。主人公は、たぶん、二十五歳くらいの女の子なんだろうな。彼女がひとり、交差点で信号待ちをしているわけです。すると、向こう側の道に、どこか見覚えのある人が立っている。あれっ、あの人、誰だろう。よく見てみると、三年前に付き合っていた、いぜんの恋人だった。懐かしさがふっと湧いて、声をかけようとすると、その隣には、私の知らない女の子が立っていることに気がついた。おもわずふと目をそらして、そうか、もう三年たったんだな、とかんがえると、なんだかちょっと胸が痛くなる。

ここで描かれている感情というのは、たとえば、ものごとをすこしづつ過去形で見るようになってしまった女の子の孤独感やせつなさである。もう、三年たってしまった、というように。ゆっくりと時間が過ぎていくことにたいする、漠とした不安。そのあいだ、彼女なりに前を向いて、他の男と付き合ったりもしたとおもうんです。四ヶ月とか、半年とかね。でも、今の私はなにをするにも、つい過去形でものごとをかんがえてしまって、最後にちゃんと現在形で人と向きあっていたのは、いつなのかよくおもいだせない。このままでいいのかな、とおもう。

これはすごくリアルだとおもった。こんな不安で胸を痛めている女の子が、きっとたくさんいるんだなと感じた。そしたらもう、泣けてさあ。新宿のCDショップで。歌詞は、「眠れない夜は何度も寝返りばかり/心細くなって吐き出すため息は深い/また抱えた不安これ以上解消できず/誰かの手握って見えない明日へ繋ごうと努力して」と続くんだけど、その不安がなにかはまったく説明されていない。でも、その必要がないくらい、ここで描かれる不安は理解できる。それは時間にたいする不安であったり、過去への不安であったりする。こうした、繊細きわまりない題材を、さりげなく取り扱うセンスはすばらしいとおもうし、その歌詞が、最終的にとてもポジティブな方向に進んでいくところにもぐっときてしまう。

あと、「心細くなって吐き出すため息は深い」とうたった後に、アムロちゃんがちいさく "Yeah, I know" (うん、わかる)と呟く声が入ってるところも、とてもキュートでよかったです。だからいい曲。