空中キャンプ

2008-05-15

ひどいことになります

中学のころ、授業や掃除が終わってから、明日の予定や注意事項などを報告する時間が設けられていた。おそらく15分くらいである。名称はおもいだせないが、「帰りの会」と呼んでいたような気がする。ださいネーミングである。帰りの会。あれは正式名称だったのだろうか。

帰りの会では、なぜか出席番号順に発表をさせられた。たとえば、「野球部が県大会に進みました」とか、「花壇にひまわりが咲きました」などの話題をそれぞれが準備しておき、一日ひとりずつ教壇に立って発表するのである。進路のことや時事問題などでもいいし、とにかくなにかしらトピックを考え、それをみんなの前で話さなければいけない。

もちろん、こんなことを進んでやりたがる者は誰もいないし、みんな自分の番になると、できるだけあたりさわりのない話題を選んで1分くらいの発表をしてから、「これで終わりです」と宣言、そそくさと席に戻るといった感じできわめていいかげんにおこなっていた。まあたいていそんなものである。こんなことにやる気をだす方がどうかしているのだ。誰がなにを話したかなど、まったく覚えていない。

しかし、釣りが好きで、ふだんはあまり目立たない安藤くんが発表をする日があって、そのときのことだけはよく覚えている。安藤くんは、ゆっくりと教壇に進みでると、ポケットからメモ用紙をだして読み上げはじめた。

「えー、みなさん受験勉強などでイライラすることもあるかも知れませんが、むしゃくしゃして『どこかの家に火をつけてやれ』などと、いたずらの気持ちでうっかり放火などするとひどいことになります」

えっ。新鮮な切り口だとおもった。誰もこんな内容で発表をしたことがない。話のイントロダクションとして、受験勉強と放火をきちんとつなげているのがおもしろいとおもった。誰もそんな風に話題の切り口を工夫するなどといった発想がなかったのだ。教室ぜんたいが「なんがおもしろいぞ」という雰囲気になる。どんな続き方をするのだろう。

「放火の罪はとても重いものでして、5年以上の懲役、無期懲役、もしくは死刑ということもあります」

「エーッ」と女子のおどろきの声があがる。知らなかった。いじめっこのあいつの家を燃やしてやりたい、などと夢想したことがあったが、その結果が死刑ではたまらない。放火しなくてよかった。教えてくれてありがとう安藤くん、とわたしはおもった。

「これはなぜかというと、ある一軒の家を燃やすと、その家だけではなく、近所の家まで燃えたりしまして、そこでさらに被害者が増える可能性もあるからです。そういう悪質なことにはとても重い刑が科せられます。だから、いくら勉強がたいへんでも、放火はしないようにしましょう」

放火は止めよう、とわたしは壇上の安藤くんに誓った。安藤くん俺は放火しないからね、とわたしはおもった。死刑になったらひどいもの。どんなに頭にくる相手がいても、家に火をつけたりしてはいけない。とはいえ、なぜ安藤くんが放火をトピックに選んだのかはよくわからない。でもいい情報をもらってよかった。わたしがこんにちまで放火をしないで済んだのは彼のおかげである。